進化する仮設トイレで地域を変えよう
人間に不可欠な「トイレ環境」を整える
- 日野興業株式会社 営業企画部 営業企画課 チーフ
熊本 好美さん - 1976年東京都生まれ。建築学科を卒業後、設計事務所等を経て2015年仮設トイレメーカー日野興業株式会社に入社。主に広報関連業務に携わるほか、建設業界の女性活躍推進団体3団体での活動や災害時のトイレ環境問題解決にも取り組む。
これまでの仮設トイレ
「仮設トイレ」と聞くと、狭い・汚い・暗い・臭い等、あまり良いイメージをお持ちでない方がほとんどかもしれない。しかしここ数年、仮設トイレは非常に大きな変化を遂げている。
仮設トイレとは、主に「野外で使用する簡易的なトイレ」を指す。現在日本ではそのほとんどがレンタル品として主に建設現場で使用されており、和式トイレが七割を占めるといわれる。
仮設トイレが開発されたのは戦後すぐのことだが、その頃から広さや装備等が大きく変わることはなかった。理由の一つは仮設トイレの耐用年数(消耗品を除く)が長いことだ。現在全国に流通している単体型仮設トイレ【室内の便器の数が一つのトイレ(出典:日本トイレ協会 災害・仮設トイレ研究会)】(写真①)の多くが樹脂製であり非常に丈夫で、1980年代に発売された商品がいまだに現役で活躍しているケースもある。
他にも、建設現場のトイレは「価格が安く、用さえ足せればよい」とされ、長く仕様の進化を求められなかったこと、日本では狭い道路が多く、仮設トイレの輸送に使用するトラックの大きさが限られる中でより効率的に、より多くを積載するため製品サイズが限られていたこと等がその理由として挙げられる。
仮設トイレが変わるきっかけは「女性活躍」と「快適トイレ」
そんな仮設トイレが変化するきっかけは何だったのか。2013年の当時の政権による女性活躍推進をきっかけに国土交通省と建設業五団体から「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」が発表され、建設現場における女性専用トイレの重要性が示された。その後、日本建設業連合会による「けんせつ小町が働きやすい現場環境整備マニュアル」が発表され、女性専用トイレの設置の指針がさらに詳細に示された。このような動きを受け2014年、当社内に建設現場で働く女性技術者・技能者のための仮設トイレ開発を行う「フラワートイレプロジェクト」が発足し、筆者も後に加わることとなる。プロジェクトではまず女性技術者・技能者に評価を頂くためのピンク色のトイレ試作に着手した。
なぜピンク色なのか。「女性はピンク色が好き」という固定観念の現れではないのか、という意見もあったが、その理由は女性専用仮設トイレの存在を認知してもらうことにあった。建設業界で働く女性技術者・技能者は男性と比べてマイノリティーであり、トイレ設置の決定権を持つ立場の多くが男性であった。決定権を持つ方にインパクトのある色で女性専用仮設トイレの存在を知っていただき、女性が働く環境を重視しているというPRツールにしてもらおうと考えたのだ。
2014年10月に試作品が完成。「フラワートイレ」と名称を付け、キャラクターも設定し展示会への出展等PRを行った結果多くの建設業界関係者にその存在を知っていただけた(写真②、写真③)。その後正式に商品化され、シリーズ化されている。
2016年、国土交通省が「快適トイレ」を原則化しその仕様を発表した。これは同省直轄の工事現場に男女共に一定の仕様(洋式便器、容易に開かない施錠機能等)(図①)を満たした仮設トイレを設置し、建設業界の労働環境改善と担い手不足解消を目指す取り組みである。当社をはじめ仮設トイレメーカー各社は多くの新商品を発表し、全国の建設現場で「快適トイレ」が使用されるようになった(写真④)。
災害時・イベント時のトイレとの関係
実は建設現場の仮設トイレと災害時・イベント時に設置される仮設トイレは、ほぼ同じものである。災害が起こると、普段建設現場で使用されている仮設トイレの余剰在庫が被災地に運ばれる。花火大会や野外イベント時も同様だ。そのため、建設現場のトイレが「快適トイレ」になれば、災害時・イベント時に使われるトイレもおのずと「快適トイレ」になるのである。
トイレは人間の生活に欠かせないものである。災害時やイベント時のトイレが使いづらいと飲食を我慢するようになり、災害時には健康を害することに、イベント時にはその満足度や飲食物の売上の低下につながる。つまり、トイレ環境が整備されれば安心して避難生活を送り、イベントを楽しめるようになる。写真⑤は今年3月〜5月に設置された、プロ野球チーム千葉ロッテマリーンズの本拠地「ZOZOマリンスタジアム」の様子である。こちらの球場では来場者の満足度アップを狙い、飲食スペースである球場外周部のフードトラックエリアに男性用四棟、女性用五棟、多目的トイレ一棟の仮設トイレを設置した。キャラクターを配したピクトサインでPRを行い、多くのお客様が利用しその感想も満足度の高いものが多かった。
直近の国交省直轄現場における「快適トイレ」設置率は50%に近い。さらにこの数値が上がることが期待される。自治体や民間の現場を「快適トイレ」とする動きも広がっている。この取り組みはやがて全国の建設・災害・イベント現場のトイレ環境を変えることになるはずだ。
「地域再生を考える」編集委員会
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