地域再生を考える

2022年4月掲載

morineki(もりねき)のまちづくり
公民連携でまちも人も元気に

株式会社コーミン 代表取締役 入江 智子さん

株式会社コーミン 代表取締役
入江 智子さん
1976年生まれ。京都工芸繊維大学卒。元大阪府大東市職員。在職中に稼ぐ公民連携のエンジン役となるまちづくり会社を立ち上げ退職、2018年より現職。大東市はもとより全国のまちづくりに関わる。二級建築士。
市営住宅が北欧のまちに!「morineki」の誕生

morinekiは、大阪府大東市JR四条畷(しじょうなわて)駅から徒歩5分、飯盛山(いいもりやま)のねき(根際=河内弁で近く)にある官民複合エリアです。老朽化した約1ヘクタールの市営住宅エリアが、北欧の暮らしをテーマにした飲食店などが軒を連ねる、子育てファミリーのお出かけスポットへと生まれ変わりました。

商業施設の2階にはアパレル企業の本社が大阪市内から移転、入居しています。エリアでは約70人の社員が働き、全国からバイヤーが商談に訪れます。店舗はこの企業の直営店7店と、トレイルランニングイベントなども主催するアウトドア企業のショップです。もともとの団地に住んでおられた方は、敷地内に建てられた低層木造の民間賃貸住宅の市が借り上げた部屋に移られています。

これらのテナントを誘致したのは、市が出資してつくったまちづくり会社(株)コーミンです。大東市と共に公民連携(PPP)という手法で整備を行いました。建物を所有するのはコーミンと市が共同出資する特定目的会社東心(株)で、代表は地域にある市営住宅の住民さんです。

底地は市の所有のまま、50年の定期借地契約を結んでいます。建設費に補助金は使わず、市の出資に加え、地域金融機関からプロジェクトファイナンスで調達しました。このプロジェクトにおけるテナント賃料収入の確かさだけで判断された、無担保で市の補償もついていない融資です。

市が民間と関わってこのような借り上げ市営住宅と商業施設を開発するメリットはどこにあるのでしょうか。多くのものが縮退する時代、公営住宅の戸数も必要最低限とする必要があります。建物の所有者がパブリックマインドを持った民間であれば、20年の借り上げ期間中に借り上げ戸数を徐々に減らしていくことも、維持することもできます。余剰地にベーカリーや食堂など近隣住民にも喜ばれる店舗ができ、公共サービスの質の向上にもつながっています。

エリア全体の設計をコーミンが担うことで、都市公園と住宅、店舗が一体となった美しいランドスケープが実現しました。住宅地としての価値が上昇することによって、将来的な固定資産税の増収も見込めそうです。公営住宅としての借り上げが終わっても民間賃貸住宅として部屋が埋まるように、テナント企業がこの地でより発展するように、公と民が協力して、日々地域の価値を向上させ続けています。

これが必然的に真に長寿命な『サスティナブル公営住宅』=『サスティナブル地域』となる仕組みです。

すっぴん女子の社交場、ズンチャッチャ夜市♪

JR住道駅前デッキで毎月最終水曜日に開催しているナイトバル「大東ズンチャッチャ夜市」も、コロナによる休止もありましたが5年目となり、まちの風景が少しずつ変わってきました。

ターゲットは「すっぴん女子」。すでに大東市内に一定数存在し、今後もっと増えてほしい人物像で、男女は関係なく、ブランド志向ではないけれど良いモノを求める人。行動力があり世話好き、地域での暮らしを楽しんでいる、皆がちょっと憧れる存在です。ターゲットといっても外向きにではなく、運営側の言葉として、例えばチラシのデザインに悩んだ時、すっぴん女子的にはこっちだよねという風に使います。

川に沈む夕日が美しく、風も、ゆるく流れる生演奏の音楽も心地良い。いつもは足早に通り過ぎるだけの駅前道路空間が、月に一度仕事帰りのすっぴん女子たちがクラフトビール片手にくつろぐ社交場となっています。週末はかき入れどきの地元飲食店も、水曜日ならと出店してくれているところもあります。まちにあるおいしいご飯屋さんを知ってもらう絶好の機会でもあるのです。

マーケットをまもる・つくることで持続可能なエリアに

morinekiからは山がきれいに見える、ズンチャッチャ夜市で飲むお酒はなぜか格別、といった声を聞きます。特別なことをしていなくても、そのまちが持つ本来の魅力が引き立っているのだと思います。付加価値の高いものを相応の対価で売り買いする。価値がない、または低いと思われていたものの中から価値を見いだし、付加価値を付けて売り出す。地域が持つ課題を同時複数的に解決するような、新たなサービスを生み出す。コーミンでは、行政の周辺では崩れがちなマーケットをまもる・つくるこれらの事業を、公有財産を活用して行っています。

遊休不動産だけでなく、介護予防などの知的財産を使った「地域健康プロフェッショナルスクール」も開催しています。公は、補助金を出すのではなく、民のやりたいことを、黒子となって本来業務で応援する。バイ・ローカルな暮らしを楽しむお手本を、民と一緒になって本気でやって見せる。そんな公民連携が、持続可能なまちをつくるのです。

「地域再生を考える」編集委員会

  • もりねき住宅中庭。公園とひと続きになっている住民たちの憩いの場

    もりねき住宅中庭。公園とひと続きになっている住民たちの憩いの場

  • もりねきのみち。ベーカリーや衣類、雑貨などの店舗が並ぶ。2階は企業の本社オフィス

    もりねきのみち。ベーカリーや衣類、雑貨などの店舗が並ぶ。2階は企業の本社オフィス

  • リビングインの間取り。ガラスの玄関サッシ越しに中庭の緑が見える

    リビングインの間取り。ガラスの玄関サッシ越しに中庭の緑が見える

  • 北欧ファミリーレストラン。器も料理も本格的で、子ども連れにも優しい

    北欧ファミリーレストラン。器も料理も本格的で、子ども連れにも優しい

  • 大東ズンチャッチャ夜市。多いときには50店舗の飲食・物販店舗が並び、3,000人以上が楽しむ

    大東ズンチャッチャ夜市。多いときには50店舗の飲食・物販店舗が並び、3,000人以上が楽しむ

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団地再生支援協会
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日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある
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