地域再生を考える

2022年3月掲載

コ・クリエーションが生み出す奇跡
「根っこでつながる」ことで引き出される本来の力

株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター 研究員 三田 愛さん

株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター 研究員
三田 愛さん
集合的ひらめきにより社会変容を起こす「コ・クリエーション(共創)」の研究者。約300人の実証研究コミュニティ「コクリ!」創始者。内閣官房、国土交通省、経済産業省など官公庁での各種委員を歴任。米国CTI認定コーチ。神戸生まれ、慶応義塾大学卒業。
ショートムービー「Re-member/リ・メンバー」はこちらから▼
https://www.youtube.com/watch?v=18fKbbMzbJk
コ・クリエーション(共創)とは

私は「コ・クリエーション」の研究者として、10年間日本の各地域で実証研究を行ってきました。さまざまな分野のリーダーからなる300人の研究コミュニティ「コクリ!」の創始者でもあります。

コ・クリエーション(共創)とは、コラボレーション(協働)とは異なります。コラボレーションは、合意された目的に向かって、今ある資源を組み合わせながら協業することで、計画的に進めることができます。それに対しコ・クリエーションは正解がわからない中で始まります。そして仲間と試行錯誤しながら生成的・集合的に価値を共創造し、予想もしない新しい未来を築いていく営みを指します。

自分の「根っことつながる」

コ・クリエーションの条件で最も大切なことは人と人が「根っこでつながる」です。私たちは、普段社会的な立場や役割を鎧(よろい)としてまといながら生きています。でも、自分の奥底にある自分が生まれてきた意味などの「根っこ」(図①参照)とつながると、鎧が溶け自分の内側からエネルギーが湧き出します。しかもそのエネルギーは純度が高く、周りの人たちへ伝播(でんぱ)します。

仲間と「根っこでつながる」

さらに仲間とも「根っこでつながる」ことで、肩書ではなく人としてつながり、自他非分離のような状態になります。ここから調和とコ・クリエーションが始まります(図②参照)。

具体的にどうやって根っこでつながるのか。例えば仲間同士で「これまでの人生を振り返り、誇りに思う、最もうれしかったこと、力を発揮したシーンをありありと教えてください」という問いを投げかけ合います。家族や親しい友人との間でも日常会話には出てこず本人も忘れているようなその大切な出来事を話すことで、自分の源につながり、エネルギーが湧いてくる。聞いている側も相手の源とつながり深い信頼関係が生まれる。それが「根っこでつながる」ということです。

「あーちゃん、これは山が動くばい!」

コ・クリエーション研究の原点は、2011年に黒川温泉(熊本県阿蘇郡南小国町)の北里有紀さん(以下有紀さん)と始めたプロジェクトです。当時、黒川温泉では強烈な成功体験を持つ親世代のやり方がまち全体に浸透する保守的な構造になっていました。青年部世代は現状に大きな危機感を感じながらも、親世代には意見を言えず、変化も起こせない。一方の私は、世代や業種を超えて人々が対等に関わる「コ・クリエーション研究」を構想している段階にありました。その構想を当時青年部部長だった有紀さんに話したら、彼女はこう言ったのです。「あーちゃん(愛ちゃん)、これは山が動くばい!」と。

私と有紀さんは、まちの人たちが根っこでつながり、地域全体を“みんなごと”で考えられるような場を月1回約1年間つくり続けました。当初、私たちの試みに対して「東京の大企業に騙されとる」と反対していた親世代も、会議に参加するようになり、少しずつ世代の関係性が変わっていきました。親世代は青年部世代を信頼し、若手が要職に抜擢されるようになりました。まちそのものが変容し始めたのです。

結果的に、40代の町長が誕生、旅館組合の全理事が30~40代になり、有紀さんが史上最年少・女性初の組合長に任命されるなど「まちが一体化した世代交代」が起こりました。そして10年連続で減少していた来訪者数は3年連続で増加しました。本当に「山が動いた」のです。

この経験から、コ・クリエーションは通常では動かないものが動き、多様な人がいかされあうことで奇跡が起こせると確信し、その後全国各地の仲間と共に、さまざまな研究と実践を繰り返してきました。

人間が他のいのちといかしあう未来を

現在の私の研究テーマは、どうしたら人間が他のいのち(植物・動物・鉱物・自然・地球)と共創する社会を創ることができるかを探究する「地球生態系全体のコ・クリエーション研究“地球コクリ!”」です。今は人間が他のいのちを無意識に消費・搾取する人間中心社会。人間と他のいのちは分断されています。結果的に気候変動などの地球規模の社会問題が引き起こされている。そうではなく、人間と地球生態系のつながりを取り戻し、全てのいのちがいかされあい、調和し、共創する地球中心社会をつくりたい。

それは人間の「視点転換」と「意識変容」によって可能だと思っています。人間が感性を解き放ち、他のいのちの声を聴き、彼らの気持ちに寄り添う。私たち人類が本来持っている創造性が発揮されれば、美しい地球になると信じています。そうした視点転換と意識変容、さらには社会変容をみんなで起こしていきたい。

地球コクリ!でみなさんと探究したい世界観を表現したショートムービー「Re-member/リ・メンバー」を制作しました。多くの方にご覧いただき、いろんな方々と共に、全てがいかされあう社会を創っていけるとうれしいです。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 地域リーダー・首長・経営者・農家・官僚・アーティスト・NPO・大学教授・社会起業家など、多様なリーダー約300人の研究コミュニティ「コクリ!」

    地域リーダー・首長・経営者・農家・官僚・アーティスト・NPO・大学教授・社会起業家など、多様なリーダー約300人の研究コミュニティ「コクリ!」

  • 【図①】アタマではなく、ココロでもなく、その奥のハラであり、自分の根っこ、丹田、源につながっていく

    【図①】アタマではなく、ココロでもなく、その奥のハラであり、自分の根っこ、丹田、源につながっていく

  • 【図②】仲間とも肩書ではなく、人として「根っこ」でつながっていきます

    【図②】仲間とも肩書ではなく、人として「根っこ」でつながっていきます

  • 親世代と青年部世代の混ざった黒川温泉でのコ・クリエーションワークショップの様子

    親世代と青年部世代の混ざった黒川温泉でのコ・クリエーションワークショップの様子

  • 親世代の1人が即興劇で「変なおじさん」というポストイットを自分でおでこに。普段の会議ではやらない手法を使うことで、これまで見えなかった多面性が互いに伝わり、若者も思い切りアイデアを言えるように

    親世代の1人が即興劇で「変なおじさん」というポストイットを自分でおでこに。普段の会議ではやらない手法を使うことで、これまで見えなかった多面性が互いに伝わり、若者も思い切りアイデアを言えるように

  • 地球コクリ!ショートムービー「Re-member/リ・メンバー」。ヒトが自然の仲間だったことを思いだす物語。ニューヨーク・デンマーク・メキシコ・ナッソー・イタリア・ドイツ等の映画祭で入選・受賞中です

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