地域再生を考える

2022年2月掲載

地域に活力を取り戻すための空間的実践
~「そこにあるもの」の再編集から始める~

DABURA.m株式会社 代表取締役 光浦 高史さん

DABURA.m株式会社 代表取締役
光浦 高史さん
神奈川県川崎市生まれ。一級建築士。早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、青木茂建築工房に所属。2015年DABURA.mとして法人化し代表取締役となる。グッドデザイン賞ベスト100をはじめ、国内外のアワードにて多数受賞・入選。
地域からの起業

私は神奈川県川崎市の出身であるが、現在は大分県別府市を拠点に建築事務所を営んでいる。きっかけは「リファイニング建築」で知られる青木茂先生の事務所に入所したことだ。入所当時は大分が本拠地で、初の非東京圏暮らしがスタートした。

東京圏しか知らない私にとって大分での暮らしは新鮮であり、街、海、山、温泉等さまざまな環境がある建築的なテーマの宝庫であることに気付いた。同時に、地域は自分たちの魅力を見失って自信と活力をなくしている側面があることにも気付いた。青木先生の元で7年間お世話になり、関東へは帰らず大分で起業することにした。

建築設計・空間再生・地域デザイン

現在「利他的な文化としての建築、空間、地域を創造し、持続可能な文明への転換に寄与する」という理念のもと、建築設計、空間再生、地域デザインに取り組んでいる。なぜこのような理念を持って活動するのかといえば、「地域に活力を取り戻すため」と言える。以下では、私たちのこれまでの空間的実践を紹介したい。

可動建築×パブリックスペースで街にチャレンジの場を

起業したばかりの頃、商店街のシャッター店舗や空き地を活用できないかさまざまに試みたが容易には進まず、今日の街には新参者のチャレンジの場が少ないことを痛感した。そこで可動建築によるパブリックスペースの活用を考えた。可動建築は容易に作れ、移動でき、既存の街の固定的な関係性に変化を与えられる。また道、広場、公園などのパブリックスペースは本来市民の共有財産である。この組み合わせで、街が新たなチャレンジの場にならないかと考えた。

そのような活動の一つ「カドウ建築の宴in OPAM」を紹介したい。大分県・県立美術館との連携で実施した「持ち寄り型」社会実験で、美術館前道路を広場と見立て、そこにさまざまな可動建築と、アーティスト、こだわりの飲食店主などユニークな地域の人々が「得意技」を持ち寄った。場所づくりは専門業者に任せず自分たちで実施した。美術、音楽、食、建築が有機的に絡まりあった新たなコミュニティが立ち上がった。

「時間」の再編集により生まれた現代の空間

大分銀行赤レンガ館は大正2年に完成した「辰野建築」である。空襲で焼けた後も再生され、今日まで使い続けられてきた。オーナーの大分銀行はこれをクリエイティブハブに再生することとし、私たちは設計に取り組んだ。建物を調べていくうちにさまざまな時代の要素があることが分かり、特に重要なのは、空襲に遭ったレンガ壁が砂漆喰で塗り込められていたことだ。試験解体を経て、最も大きな壁面を現すことにした。塗り込めた砂漆喰を丁寧に剥がしていく様子は、遺跡の発掘現場のようだった。こうして現れた明治から大正にかけて積まれたレンガ、昭和の戦後復興で再生されたRC柱、平成の改修でつくられた時計盤ウォールなど各時代の要素が現され、現代のクリエイティブハブを構成する要素となっている。

地域リソースの再編集から生まれたホテル建築

別府八湯のひとつ堀田温泉エリアで新たなホテル「GALLERIA MIDOBARU」を設計した。ここは歴史的な温泉場であるが、それを感じさせる要素は既に失われていた。全国の地域で見られる均質化である(私はこの均質化と地域の自信喪失は深い関係があると考えている)。

設計にあたり、地質学的時間の中で生まれたこの地の独特の断層崖地形から考え始めることで、今日の新たな地域性への思考を触発したいと考えた。断層崖の大地から削り出されたような壁の群れを想定し、洞窟を掘り抜くように穴をうがつことで内外がつながっていく空間とした。

酸化鉄の成分で調色したコンクリートを地域産スギ材による「まく板型枠」で打設している。色調は支持層の凝灰角礫岩や地下に無数にある別府石を参照し、白華、ムラなど打設過程で発生する「現象」を受け入れて「景色」としている。内部では地域産の広葉樹、貝灰しっくい等、地域の素材や職人の手仕事を多用している。

また12組の現代美術家が参加して、別府との巡り合いから生まれたアートワークを製作・展示している。

「そこにあるもの」の再編集で新たな固有性を発見・発明する

上記で紹介した三つの空間的実践は一見全く異なるようで、実は全て現場、環境、地域に既にあるものや技に注目し、それを再編集することで成立している。どの地域にもこれまでに積み重ねられてきた長い時間と人の営み、人と人、人と場所のつながりがある。これらをよく見直して再編集していくことで地域の新たな固有の魅力を発見・発明し、自信と活力の根源になるような新しい文化を紡ぎ出していけるのではないか。

「地域再生を考える」編集委員会

  •  カドウ建築の宴 in OPAM 全体の様子

    カドウ建築の宴 in OPAM 全体の様子

  • カドウ建築の宴 in OPAMで、「はしごマルシェ」を会場である道路へと運搬するスタッフや学生

    カドウ建築の宴 in OPAMで、「はしごマルシェ」を会場である道路へと運搬するスタッフや学生

  • 大分銀行赤レンガ館 外観

    大分銀行赤レンガ館 外観

  • 大分銀行赤レンガ館 内観

    大分銀行赤レンガ館 内観

  • GALLERIA MIDOBARU“現れ”る建築

    GALLERIA MIDOBARU“現れ”る建築

  • GALLERIA MIDOBARU 外観

    GALLERIA MIDOBARU 外観

  • GALLERIA MIDOBARU ロビーメインホール

    GALLERIA MIDOBARU ロビーメインホール

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