~市民が連携した次世代の「まちづくり」~
市民と市が築いた信頼関係
- 朝霞市景観アドバイザー
戸田 芳樹さん - 1947年広島県尾道市生まれ。ランドスケープアーキテクトとして国内外に作品多数。1995年(社)日本造園学会賞 修善寺「虹の郷」、2005年 愛・地球博ディレクター、茅ヶ崎市景観アドバイザー、(株)戸田芳樹風景計画 代表取締役、元東京農業大学客員教授。
私は埼玉県朝霞市の「まちづくり」に市民と共に参加している。それは2012年朝霞市景観アドバイザーに就任したことから始まった。市民と行政の声を聞きながら調整し、専門分野のランドスケープデザインの視点からアドバイスを重ねた。
朝霞市の歴史
朝霞市は埼玉県南部に位置し、池袋から電車で15分ほどのベッドタウンで、人口(現在14万人)は今も増加、30~40代の子育て世代が中心のまちである。
市の真中にある米軍基地跡地は、1974年に返還後、一部は未利用のまま40年近く取り残されていた。そこに国の公務員住宅建設が計画されたが、建設は中止になった。
多くの樹木が失われた土地の活用に市民からさまざまな意見が寄せられ、「市民のための空間に」が共通の思いだった。当初、「木は一本も切ってはならぬ」という抽象論や原理的な意見も多かったが「現実的な事例」を学ぼうと、市の主催で見学会を催すことにした。
市民に一体感が出た見学会
運営がしっかりしている横浜市の古民家公園を訪ね、運営の中心人物から熱のこもった話をうかがった。それは参加を募り、組織をつくり、四季の変化に応じた活動で参加者を増加させる方法だった。多彩な年間プログラムと実行エネルギーに朝霞市民は圧倒される思いだった。
この見学会がきっかけとなり、理念型の対話から現実型に変化して基地跡地計画が前に進み出した。また、見学会をビデオにして参加できなかった市民に繰り返し見てもらったことも有効だった。
市民が主役の「朝霞の森」
市民と市によって基地跡地の一部を「朝霞の森」計画としてスタートした。この会のモットーは「使いながらつくる つくりながら考える」で、通常の計画手法ではなく、現実的な行動が主体の計画であった。名称を公園から「森」にしたのは利用規則で自由が失われがちな公園に対する市民感情の表れだった。
何もない跡地に残っていた大木と、はらっぱは何とも清々しい空間であった。日頃規則ずくめの中で育った子どもたちに、自由な活動ができる「はらっぱ」は理想の空間ともいえた。
まずトレーラーハウスを設置し、ベンチは伐採木を再利用、大木にロープを掛けた遊具は手づくり、舗装した路は子どもたちの自転車乗りと、各々工夫した遊びの空間となった。
発足間もなく自転車の接触事故があった。乗り入れ禁止看板も考えたが、子どもたちに「注意し合う」を合言葉でまとまり、その後事故は起こっていない。
また、昼は地元高校生のジャズバンド、夜はローソクの「あかりの会」など市民が主役のイベントも開いた。これらの活動が市民に力を与え、次のシンボルロード計画や、商店街のイベントに引き継がれていった。
シンボルロードと冬のあかり計画
シンボルロードは基地跡地に接したケヤキ並木の歩道を拡幅する事業で、市民は現地を何度も見て検討会を重ねた。
竣工後、鬱蒼(うっそう)としていたイチョウやプラタナスがくっきり姿を現し、新たな風景に市民は喜んだ。
2020年のオープニングは軽食や音楽会、ダンス、軽スポーツなどで大いに楽しんだ。市民が意見を交わし工事現場まで足を運んだ気持ちが成功を導いたのであろう。
シンボルロードの成功に朝霞市民も市もさらに自信を得て、冬の夜は寂しい通りになるこの地にライトアップを計画した。手づくり感の強いイベントには事業推進の協力が必要で、今までの実践がスムーズなコミュニケーションをもたらした。さらに完成したライトアップに参加した市民の喜びが次への計画に勇気を与えた。
アサカストリートテラスの開催から
シンボルロードライトアップの前、2020年10月に朝霞駅から市役所までの道路を歩行者天国にして「アサカストリートテラス」と銘打って商店街のイベントを行った。各店舗の協力も得て、軽食などのキッチンカーも出店、路上の絵づくりに子どもたちは大喜びであった。シンボルロードにも小物販売、喫茶、音楽、ダンス、遊具、軽スポーツなど多彩なプログラムでまちの連携はさらに強くなっていった。
あさかエリアデザイン会議の設置
さらに朝霞市では市民と市のコミュニケーション活性化のため、2021年に官民横断的な組織「あさかエリアデザイン会議」を設置した。身近な情報を共有し、新たな「まちづくり」を発信するプログラムはいつでも市民に開放、リアルタイムの情報があふれている。すでにさまざまな企画が若者中心に計画され、頼もしい限りである。
今後の活動は若い層に期待されるが、20年前に行動した人々とのコミュニケーションも重要である。誰もがアクセスできるプラットフォームの活用を期待したい。「使いながらつくる つくりながら考える」をモットーに、信じることを信じられる人々と協働する喜びが市民活動のエネルギーになっている。
「地域再生を考える」編集委員会
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