地域再生を考える

2021年11月掲載

地域とともに育む女子野球部
「地域再生」×「女子野球」のモデルケースへ

広島県立佐伯高等学校女子硬式野球部監督 犬塚 慧さん

広島県立佐伯高等学校女子硬式野球部監督
犬塚 慧さん
宮崎県生まれ。広島大学総合科学部で地域科学を学び、同大学院で修士号を取得。2012年より広島県立廿日市西高等学校へ赴任。同校野球部監督として県ベスト16進出。16年、広島県立佐伯高等学校へ異動し、女子硬式野球部の監督に就任。
佐伯高校の「いま」

広島県立佐伯高等学校は、広島県廿日市市の中山間地域にある唯一の高校であり、地域に根差した特色ある教育を展開してきました。しかし、近年は地域の少子化に伴い、生徒数の減少が続いており、現在は地域と協力して学校存続のための努力をしています。

高校女子野球の「いま」

1997年に5チームではじまった全国高等学校女子硬式野球選手権大会の出場校は、第25回を迎えた今年、史上最多の40チームにまで増えました。さらには決勝戦を史上初めて甲子園で行うなど、近年の高校女子野球の発展は目覚ましいものがあります。

しかし、公立高校の女子野球部は全国でまだわずか5校(1校は休部中)と、男子野球に比べればいまだ一般的とは言えません。

佐伯高校女子野球部の「使命」

広島県立佐伯高等学校女子硬式野球部は2015年に創部されました。廿日市市外から生徒を集め学校や地域の活性化を図りたいという学校・地域・行政の思いとともに、県内で野球をしている女子の受け皿をつくりたいという女子野球関係者の思いも重なり、創部への運びとなりました。この創部当初の関係者の皆さまの思いを引継ぎ、「地域再生」と「女子野球の発展」という2つの大きな社会的使命を果たすことが、佐伯高校女子野球部の存在理由だと私は考えています。

「地域再生」×「女子野球」のモデルケースへ

女子野球部の創設に伴い、佐伯高校の生徒数はいったん増加に転じました。しかし、近年の私学を中心とした女子野球部創設ラッシュの影響を受け、今年度の女子野球部入部員数は3名まで減少しました。これに伴い、佐伯高校の生徒数も80名を下回り、学校存続の危機に立たされています。

この危機を克服するためのカギとなるのが、地域一体となった体制づくりです。

2020年12月、廿日市市が全日本女子野球連盟と提携し、「女子野球タウン」に認定されました。これを契機に、その後の佐伯高校と女子野球部を取り巻く状況が一変しました。

SDGsへの関心の高まりなど時代の機運とも重なって、多数のメディアに佐伯高校や女子野球部、廿日市市の取組を取り上げていただきました。地元での認知度がより一層高まり、民間企業や個人事業主の方、行政や地域住民などさまざまな立場の方が支援の手を差し伸べてくださるようになりました。地域の方からの練習用具の寄贈や、民間企業によるグラウンドの黒土化など、野球に打ち込める環境をさらに整備していただいたほか、選手の下宿費や通学費、遠征費、物品購入費などの手厚い経済的支援をいただき、公立高校の特色でもある保護者の負担軽減をさらに推し進めることができました。

人的な交流も活発になりました。今は毎週のように行政関係者や民間企業関係者などと学校で協議を継続していますし、SNS等でも頻繁に連絡を取り合っています。さらに、こうした「ヨコ」の体制だけでなく、「タテ」の体制も整いつつあります。廿日市市の支援のもと、市内の小中学生の女子野球チーム発足に向けた動きが活発化しています。また、廿日市市に拠点を置く民間企業がスポンサーとなって、社会人女子野球チーム「はつかいちサンブレイズ」の発足も決定しています。近い将来、このように地元小中学校、佐伯高校、社会人チームが相互に連携し、一貫した育成プログラムによって選手たちの成長を支援していく体制がつくられていけば、全国でもまれなケースになるのではないでしょうか。

「地域再生」と「女子野球」をかけ合わせ、地域が一体となって「まち」の新たな価値を創造するというこの挑戦がモデルケースとして全国に拡がれば、廿日市市には全国から野球に打ち込みたい女子生徒が集まってくるようになるかもしれません。全国の公立高校に女子野球部創設の動きが拡がり、女子野球の裾野はさらに拡がっていくでしょう。その頃には、佐伯高校女子野球部も安定的に存続し、社会的使命を十分に果たすことができると思います。

「危機感」から「ワクワク感」へ

佐伯高校女子野球部を取り巻く、こうしたある種の熱気を帯びた動きの根本には、佐伯高校を何とかしたい、女子野球を何とかしたい、地域を何とかしたい、という関係者一人一人の情熱があります。その情熱が、時代の機運と危機感の共有、そして「女子野球タウン」というビジョンによって一気に重なり合い、今の状況を生み出してくれているのだと思います。

まさにピンチはチャンスです。当初私たちが抱いていた危機感は、今はワクワク感に変わっています。

地域一体となったこの支援の力を、選手たちの成長に結び付けることが、監督である私の役割だと思います。選手たちの成長する姿、躍動する姿、そして輝く姿を、応援してくださる全ての方々にお見せできるよう、今後も前進を続けてまいります。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 今年度生徒数は76名の小規模校。女子硬式野球部やアーチェリー部など特色ある部活動の他、生徒が自由な発想で地域の課題を解決する「SAEKI QUEST」など特色ある教育を地域一体となって展開している

    今年度生徒数は76名の小規模校。女子硬式野球部やアーチェリー部など特色ある部活動の他、生徒が自由な発想で地域の課題を解決する「SAEKI QUEST」など特色ある教育を地域一体となって展開している

  • 選手たちはとにかく明るく、元気にのびのびと野球を楽しんでいる

    選手たちはとにかく明るく、元気にのびのびと野球を楽しんでいる

  • どんなに苦しい展開の試合でも、笑顔を絶やさず戦うのがモットー

    どんなに苦しい展開の試合でも、笑顔を絶やさず戦うのがモットー

  • 佐伯高校の下宿は地元住民が提供している。家庭的で温かく、選手にとって第2の実家のような存在

    佐伯高校の下宿は地元住民が提供している。家庭的で温かく、選手にとって第2の実家のような存在

  • 2020年12月、地元の民間企業からのピッチングマシンとヘルメットの寄贈

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  • 地元商店街や運動公園などにはためく、地域の温かい応援の象徴

    地元商店街や運動公園などにはためく、地域の温かい応援の象徴

  • 2020年12月21日、全日本女子野球連盟と廿日市市による女子野球タウン認定式。女子野球の普及を通して、女性が活躍できるまちづくりに地域と一体となって取り組んでいる

    2020年12月21日、全日本女子野球連盟と廿日市市による女子野球タウン認定式。女子野球の普及を通して、女性が活躍できるまちづくりに地域と一体となって取り組んでいる

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