地域再生を考える

2021年10月掲載

町民が持ち寄った建材でつくる、参加型の町づくり
ゼロ・ウェイストの町らしい建築を目指して

NAP建築設計事務所 代表 中村 拓志さん

NAP建築設計事務所 代表
中村 拓志さん
1974年東京生まれ。99年明治大学大学院で建築学修士を修めた後、隈研吾建築都市設計事務所を経て2002年NAP建築設計事務所設立。自然現象や人々のふるまい、心の動きに寄りそう「微視的設計」による、「建築・自然・身体」の有機的関係の構築を信条としている。2021年日本建築学会賞(作品)受賞。
ゼロ・ウェイストの町づくり

2003年に日本の自治体として初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町は、豊かな自然や暮らしを守るために、持続可能な循環型社会を目指している。町民は生ゴミをコンポストによって自家処理し、その他のゴミはセンターに持ち寄って45分別することで、町の再資源化率は8割を超えている。

小さな店から始まった

この町で最初にわれわれが設計したのは、「RISE & WIN」と呼ばれている、小さな日用品の量り売りとブルーパブ(クラフトビールを提供する醸造所)の店である。クライアントは「上勝町でもいまだに焼却・埋め立てせざるを得ないごみがある。それらをなくすためには、生産や輸送といったいわば川上の変革が不可欠だ」と語り、ここで自ら創業して生産から販売まで一気貫通して行うことで、その変革を実践し、上勝町の取り組みを広く伝えたいと語った。それを聞いた時、われわれはその川上に建築設計も含まれていることの責任の重さに、身が引き締まったことを覚えている。

建設業は全産業の中で、廃棄物量、最終処分量共に20%前後を占め、とてつもない物量の廃棄物と再資源化のためのエネルギーを費やしている。簡単に解決できる問題ではないが、われわれはゼロ・ウェイストを価値判断の最優先事項とすることで、設計行為そのものを見直してみたいと考えた。

これは民間企業による小さなパブではあるけれども、町の理念を生産と消費の現場で具現化することで、そこに集う町民が町を誇りに思えるような、パブの語源どおりの「公共的な家」を目指すことにした。

上勝ゼロ・ウェイスト センター「WHY」

次にわれわれが設計したのは、ゴミ分別の利便性向上や作業の合理化に加え、リユースショップ、町民の交流や体験学習のためのコミュニティホール、ゼロ・ウェイスト体験型ホテル、ラボ機能を付帯した、ゼロ・ウェイストの発信・交流・教育・研究を担う環境配慮型コミュニティー施設である。

この建築は、プラン、セクション、構造、素材、建設現場で出たゴミの利用、そして町民参加など、数多くの水準でゼロ・ウェイストの理念を軸とした設計判断がなされている。廃材をどのように組み合わせて建築化するかを考え、そこから建築の形が決まるという、部分から全体を決める手法をとっている。プランは「分別→保管→再生・販売」というリサイクル&リユースの行程に沿って部屋を並べている。

構造はかつて上勝の主要産業であった杉を用いて加工を極力少なくし、無駄を出さないよう丸太のまま架構として使用。杉丸太材の太鼓落とし材を2つの半割材で挟み込んでボルト締めすることで、町の業者でも工事やメンテナンスができ、解体時の分別を単純化できる。この簡素なボルト締めのフレームは、柱の位置を徐々にセットバックし、トランスフォームすることで、車や重機が作業しやすい軒下空間をつくっている。

町民が廃材を持ち寄ってできた建築

外装や什器は、廃棄された建具や農具等を再活用している。われわれは住民説明会や町の広報誌を通じて、特定の廃棄物を募集した。その結果、人口わずか1500人ほどの町で、建具が700枚以上集まった。それらを1枚ずつ採寸リペアし、コンピューター上でパズルのように組み合わせてダブルサッシのファサードとしている。

ゼロ・ウェイストセンターは、ごみを捨てに来る場所から、コミュニティーの場となった。かつてはごみを捨ててすぐに帰っていっていたおばあちゃんたちも、今では待ち合わせをして、おしゃべりを楽しんでいる。視察者の目を避けていたおじいちゃんも「これは私の家の窓だった、あれは中学校の机だよ」と気さくに話しかけてくる。皆がごみの資源化とは創造的な行為だと、ゼロ・ウェイストの取り組みを誇らしく感じているようだ。

センター内に使われている思い出の品々について語る町民の姿を見ると、これは新しい住民参加型の公共建築だと実感している。

さまざまな形をした窓が並んだ夜景を眺めていると、かつて明かりを灯していた家々の窓が再び集合しているかのようである。われわれはこの建築が過疎化にあえぐ町を照らす希望の行灯(あんどん)となるよう願いを込めた。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 町民の協力のもとつくられた公共建築。人口1500人の町で700枚の建具や廃材が集まった

    町民の協力のもとつくられた公共建築。人口1500人の町で700枚の建具や廃材が集まった

  • RISE & WIN外観。坂下の町から見えるように高さ8mとした

    RISE & WIN外観。坂下の町から見えるように高さ8mとした

  • オフィス/ラボラトリー前よりゼロ・ウェイスト体験型ホテルを見る。客室はメゾネット形式の4室が円環上に配置されている

    オフィス/ラボラトリー前よりゼロ・ウェイスト体験型ホテルを見る。客室はメゾネット形式の4室が円環上に配置されている

  • リユースショップでは町民が不要となった物を持ち込むことができ、町内外の誰でも無料で持ち帰る。さまざまな廃材を創造的に再利用した内装

    リユースショップでは町民が不要となった物を持ち込むことができ、町内外の誰でも無料で持ち帰る。さまざまな廃材を創造的に再利用した内装

  • 芝生広場から見る夕景。かつて明かりを灯していた家々の窓が再び集結して、過疎化にあえぐ町を照らす希望の行灯となるよう願いを込めた

    芝生広場から見る夕景。かつて明かりを灯していた家々の窓が再び集結して、過疎化にあえぐ町を照らす希望の行灯となるよう願いを込めた

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