地域再生を考える

2021年8月掲載

楽しい美味しい美しいが人の心を動かす
「豆本」でマチおこし、ヒトそだて

「まちづくり広報の助っ人」代表 平 義彦さん

「まちづくり広報の助っ人」代表
平 義彦さん
長崎市出身。男3兄弟の長男で、3人とも高校野球に打ち込んだ。駒澤大学(中退)では考古学を専攻。趣味はルアー釣り、家族旅行、食べ歩き。仕事柄、30のSNSを日々更新。実家は「たいらベーカリー」(長崎市)。
「何もない」との嘆き

新聞記者時代に長崎県内の政官財界を、ムラおこし雑誌の編集者時代には九州各地の農家民泊や農産加工品づくりを取材して回った。急成長の食品会社でブランディングの重要性を学び、産業支援の仕事で長崎県五島列島に3年赴任した。各県の農山漁村に足を運ぶと、大人の多くが「うちのマチ(ムラ)には何もない」と嘆く。ふるさとに住むことを選んだ青年や次代を担う中高生は大人が発するその言葉を繰り返し聞き、育つのだ。

「平成の大合併」を経て“地方創生の時代”を迎えた。「このままではいけない。新たに動かなければ」。各市町村は他都市の成功事例を参考に新たな活性化策に挑むが、地域ビジネスが稼ぎ続けるのは本当に難しい。そして今も「地元の人は地元の真の魅力に気づかない」という事実が重くのしかかる。例えば、若者や移住者が新たな事業を開業しても、地元の人はなかなか足を運ばない。

「食」の魅力再発見

九州地方・中国地方どこに行っても、美味いものに出合う。地方こそ「食」で勝負。山海の旬の食材を使った、物語ある伝統食だけではなく、カツどんやラーメンだって、ものすごく美味い。ふるさとに住み続ける地元住民が食べ支えている。でも、こうした日々の暮らしの中の“よかところ”にも案外気づかない。身近すぎて、当たり前すぎて、足元の魅力に気づかない。もったいない。

2019年4月、山口県周南市「中心市街地活性化協議会タウンマネージャー」という公募職に就いた。初の業務委託だったので「個人事業の開業届」を提出し独立、ぎりぎり49歳。このとき、決めたのが「まちづくり広報の助っ人」という屋号と「楽しい美味しい美しいが人の心を動かす」というキャッチフレーズだった。地方経済はヒト・モノ・カネなど難題が増え続ける中、自分が持つ取材力と情報発信力を生かして「今あるモノのよさを伝えたい」との思いを込めた。

さまざまな地域活性化策があっていい。風景や歴史、音楽、伝統行事なども確かに大事だが、多くの旅行者は「地元絶品グルメ」を欲する。「世界文化遺産」に登録された五島列島でもそうだった。美しい教会を見て回った人は必ず「五島の美味しいお魚を食べたい」と話した。

「豆本」誕生秘話

周南市は工業出荷額1兆円を超える「周南コンビナート」が集積し、観光客は「ほぼゼロ」という土地柄。だが、徳山駅近くを行き交う人々を観察すると、キャリーバッグを持つスーツ姿のビジネス者とつなぎ姿の現場作業員の姿が目立つ。そう、ここは「出張者の街」なのだ。となると、目も舌も肥えた出張者が通う飲食店がある。

県立徳山商工高校の生徒と一緒に市民アンケート(150人)を実施し、昼・夜・甘味のベスト5店を決定。コロナ禍の第1波だったが、「まちづくりを停滞させてはいけない」と高校生も執筆を担当し、クラウドファンディングでも約25万円を集めた。2020年4月、豆本第1弾『徳山駅旅グルメ豆本』の発刊にこぎ着けた。

素人の目線が大事

第2弾『山口県カレー豆本』(20年9月発刊)に続き、21年4月15日に発刊した第3弾『山口県パン豆本』がよく売れている。①文庫本サイズの持ち運びやすさ②1冊300円③よそ者視点で美味いパンのみを厳選取材—コロナ禍での「マイクロツーリズム」の追い風にも乗っているが、豆本ゆえに、レジ横に置いてもらえるのがありがたい。地元メディアの応援報道にも心から感謝している。

52歳の私。いつまでも「自分が!自分が!ではいけない」と気ばかりが焦り、明確な人材育成術を持ち合わせていなかった。『山口県パン豆本』の取材には大学生6人、高校生6人、社会人4人、アマチュア写真家5人が参画。豆本に集う学生たちは部活でも学校行事でもなく、自らの意思で取材に参加している。一眼レフで撮った写真を見せ合うなど取材を心底楽しんでいる。プロの正確な仕事ぶりを知る私だが、素人の目線が読者(消費者)に一番近いことに気づいた。就職面接に臨む学生には「豆本取材で感じたふるさとへの思い」を大いに語ってほしいとお願いしている。

次号は『ラーメン豆本』3県版

コロナ禍の今あらためて思うことは、大人も子どもも自分が好きなことは自らやる。ワクワクドキドキがいかに大切か。「勇気を出して相手から話を聞く」「自分の気づきを記事に盛り込む」。記者の皆さまに書き直しを命じる鬼デスクかもしれないが、取材魂は今後の人生できっと役に立つ。

次の豆本は「ラーメン」を取り上げる。山口を飛び出して、福岡、広島も取材エリアに入れる。ネタ集めの段階から高校生も大学生も参戦。取材に行く前に徹底して調べ上げる習慣も身についてきた。自ら考え、即行動する“豆記者”たちの成長がまぶしい。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 豆本シリーズ3冊

    豆本シリーズ3冊

  • 書店のレジ前にて販売される「豆本」

    書店のレジ前にて販売される「豆本」

  • 豆本写真はすべてアマチュアが撮影

    豆本写真はすべてアマチュアが撮影

  • 取材を心から楽しんでいる高校生記者

    取材を心から楽しんでいる高校生記者

  • 取材に応じる大学生記者

    取材に応じる大学生記者

  • カレーパンを取材した高校生記者

    カレーパンを取材した高校生記者

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