地域再生を考える

2021年5月掲載

大学生とともに学ぶ「地域の力」
福島県昭和村での取り組みから

上智大学総合人間科学部社会学科 教授 田渕 六郎さん

上智大学総合人間科学部社会学科 教授
田渕 六郎さん
1968年東京都世田谷区生まれ。東京大学文学部卒業、同大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学、2012年より現職。修士(社会学)。専門は社会学(家族、地域研究)。著書に『現代中国家族の多面性』(弘文堂、2013年、共編著)など。
はじめに

「地域の衰退」が指摘されて久しい。しかし、「衰退」とは何を指すのだろうか。人口減少が地域社会を大きく変えてきたことは事実だが、人口減少イコール「地域の衰退」と考えるのは単純に過ぎる。人口が減りつつも、伝統行事や文化を維持してきた地域も少なくないからだ。

以下では、筆者がこの数年関わらせていただいている、福島県昭和村を事例に、「地域の力」について考えてみたい。

福島県昭和村の紹介

福島県大沼郡昭和村は、福島県西部の会津地域に位置する。現在の村となったのは昭和2年である。豪雪地帯であり、冬期の交通は長らくの課題であった。ピークの昭和30年に人口は4800人以上を数えたものの、主要な生業(なりわい)たる米作の他に大きな産業を持たないこともあり、昭和30年代以降は人口流出と高齢化が進んだ。2015年の人口は1322人、高齢化率は54.8%であった(国勢調査)。

昭和村の取り組み

平成の大合併に際して、昭和村は隣接する町との合併を選ばなかった。近年の村の取り組みとして、カスミソウ栽培の振興と、「からむし織体験生」事業が特筆に値する。前者は、1980年代以降、葉たばこ栽培の縮小とともに進められ、夏期全国第1位の栽培量を占めるに至った。村外から転入してきた新規カスミソウ農家も見られる。後者は、歴史的にからむし(苧麻)の栽培地であった昭和村の伝統産業復興と交流人口の増加をねらって、1994年に開始された。体験生は1年をかけて村に滞在し、からむし織の工程を身につける。現在に至るまで、100名を超える体験生(多くは若い女性)が誕生し、30名ほどが村に定住したとされる(昭和村HP)。

昭和村佐倉地区の「サイノカミ」行事

昭和村の佐倉(さぐら)地区(集落)は江戸期まで昭和村の九旧村の一つであった地区であり、1724年の記録では35家族、140人を数えたとされる。現在は27世帯、54人(2015年国勢調査)。人口に比べると世帯数は大きくは減っていない。

筆者は、昭和村のNPO法人苧麻倶楽部のご紹介で、2013年より定期的に佐倉地区を中心に調査や交流活動を行わせていただいている。2014年以降は、コロナ禍の2021年を除いて、毎年1月の正月行事である「サイノカミ」には欠かさず上智大の学生たちと参加してきた。現役のゼミ生が中心だが、卒業後も参加してくれる先輩もいる。

サイノカミは、「歳の神」という字が宛てられることが多い。小正月の火祭り行事に分類される、日本で広く見られる行事である。「とんど(焼き)」「左義長」などと呼ぶ地方もある。

サイノカミは、昭和村の各地区で行われるが、佐倉地区では、地区内の一つの田を会場として、以下のように行われる。朝、男性たちが地区の山からご神木を切り出し、田に運ぶ。長さ4~5メートルほど(かつては10メートルを超えたという)のナラの木だ。これを「芯」として、周囲に藁や茅を何重にもくくりつけ、太い「柱」を作り、田に立てる。力の必要な作業だが、男性たちの手際の良さは見事である。1月15日、夜6時ごろから地区の人々が集まり、区長の指名により、年男などがサイノカミに点火し、燃やす。サイノカミが燃え上がる姿は圧巻である。参加者には御神酒がふるまわれ、だんだんと火が弱まり、消えていくまでの30分ほど、各自は家から持参した餅などを細い木に刺して焼き、互いにふるまいながら共に食し、歓談に興じる。

サイノカミの変容と継承

佐倉地区にとってサイノカミは重要な伝統行事の一つである。地区では、以前は1月15日の朝に木を立て、その晩に燃やしていた。しかし、農家が減少し、平日の午前に作業を行う人を集めにくくなったため、立てる作業は1月15日の直前の日曜日に行うようになったという。写真に紹介した2016年1月は、10日(日)に立て、15日(金)に燃やした。こうした工夫によって、サイノカミは、地区の人口が減っても形を変えて維持されてきた。

興味深いのは、私たち上智大生が参加させていただくようになってから、地区では以前よりも少し高いサイノカミを立てるようになったことだ。私たちは地区にとって「交流人口」であるが、地区では私たちの存在を念頭に置いて、行事のあり方を変化させながら、維持している。この間、既に行われなくなってしまった行事も少なくない。しかし、人口が減っても維持される行事がある。そこには地域の人々の取捨選択がある。状況に応じて、柔軟に、形式より内実を重視して、したたかに守るべきものを守っていく。「地域の力」とは、地域が持つこうした「継承」の力であり、それは人口だけに左右されるものではないと私は思う。

若い学生たちは、こうした行事参加や交流を通じて、佐倉の方々から多くのことを学び、変わっていく。そうした場をまた共にできる日は、遠くないと信じている。

「地域再生を考える」編集委員会

  • ご神木を切り出す

    ご神木を切り出す

  • 準備された膨大な量の藁

    準備された膨大な量の藁

  • 藁を巻き付ける

    藁を巻き付ける

  • サイノカミを立てる

    サイノカミを立てる

  • サイノカミの前にて

    サイノカミの前にて

  • サイノカミを燃やす

    サイノカミを燃やす

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