地域再生を考える

2020年11月掲載

100歳プロジェクトチームの取り組み
「ライフデザインカレッジ」「多世代交流企画」の実践

星槎大学副学長・教授 細田 満和子さん

星槎大学副学長・教授
細田 満和子さん
星槎大学副学長・教授。東京大学大学院で博士号取得後、コロンビア大学、ハーバード大学で社会学、公衆衛生学、生命倫理学の研究に従事。主著書は『パブリックヘルス 市民が変える医療社会』、『グローカル共生社会へのヒント』等。
誰でも、いつでも、どこでも学べる大学

星槎大学は、誰でも、いつでも、どこでも学べる大学として2004年に開学した通信制大学である。単位ごとに授業料を払う仕組みで、在籍の年限がなく、全学校種の教員免許状(幼稚園、小学校、中学校〔社会・保健体育・英語〕、高校〔地理歴史・公民・保健体育・英語〕、特別支援学校)を取得できる。学生はすべての都道府県にいて、海外在住者もいる。年齢層も幅広く10代から90代までで平均は37歳である。約6000人の在学生の約8割は社会人で、教員や公務員が半数近くを占め、既に他大学で学位を取得している学生も多い。

より専門性の高い大学院教育にも力を入れており、2013年からは修士課程、2020年からは博士課程もスタートし、150名を超える大学院生が教育学を中心に学んでいる。

このように星槎大学では多世代の多様なニーズの方々へ学びを提供するとともに、メインキャンパスのある神奈川県箱根町を中心に、活力ある個性豊かな地域社会の形成・発展に貢献することを試みている。

今回は2018年から2年間に渡って実施した星槎大学100歳プロジェクトについて紹介する。

人生100歳時代の到来

ロンドンの大学のリンダ・グラットンは著書『LIFE SHIFT ライフシフト』で、2000年を超えて産まれてくる子どもたちは、寿命が100歳を超える可能性が50%あるという時代の到来を告げた。超高齢化社会の日本で、これは現実のものになってきている。

しかし、高校生や高齢者を対象にしたヒアリングでは、100歳までの人生どころか60歳以降の人生について、「考えたことがない」「想像がつかない」という声が多く聞かれた。100歳までの人生を有意義に過ごすためには、どのような心の在り方が必要なのか、いかなる社会的環境が重要になっているのか。人生100歳時代の見本となるような生き方を提示し、小さなところからでも実践することが大事と考え、星槎大学100歳プロジェクトチームが設置された。このアイデアは、2017年に神奈川県『大学発・政策提案制度』に採択され、2018年から実施された。

100歳プロジェクト—ライフデザインカレッジと住民学会

人生100歳時代で大切なことについてリサーチした結果、「働き続ける場作り」、「学び続ける場作り」、「仲間を作れる場作り」、「社会参画の意識を持つこと」の重要性が浮かび上がってきた。そこでプロジェクトの目標を、100歳時代を迎えるための住民の意識改革と地域コミュニティの再生とし、実現する仕組みとして、ライフデザインカレッジと住民学会を設置した。

ライフデザインカレッジでは、本学教員だけでなく、地域をよく知る住民が講師となる講座を設定した。2018年度は18講座、2019年度は26講座が企画された。箱根寄木細工師や箱根関所関係者などが講師を務める箱根マイスター養成講座、地域の日本舞踊家が講師になる伝統文化継承講座、地元の食材を使ったお料理上手が講師になる食の講座など、地域の特色が出た講座がいくつも立てられた。住民に講師になっていただくことで、働く場、学び続ける場、仲間を作れる場、社会参加意識を持つ場が創られた。

住民学会は、ライフデザインカレッジを検証し、地域の課題について立場や役割の壁を越えて対等に話し合う場として構成された。最終回は新型コロナ感染症のために中止となってしまったが、2年間で5回の住民学会が開かれ、地域住民や地元企業やNPOなど各種団体や学校関係者や役場職員などさまざまな主体が参画し、高齢化の進む地域の再活性化のための意見交換も行われた。

スピンアウトしてできた多世代交流企画

ライフデザインカレッジの講座に参加した住民が、仲間を募って自主的な活動をする姿も見られた。例えば、「自分史講座」で知り合った若い母親たちが、箱根町仙石原の伝統行事である「どんど焼き」を子どもたちに見せたいと言ったところ、年長世代の男性が案内役を買って出て、さらに年長世代の女性たちが伝統料理を振る舞ってくれることになった。こうして講座からスピンアウトした1泊2日の宿泊型の多世代交流が実現し、約25名が参加した。

箱根の年長世代にとって子どもや若い親たちとの交流は新鮮で、「楽しかった」という感想をもらった。親たちも「伝統的なお雑煮の作り方を教わり、コミュニケーションができて良かった」と述べていた。子どもたちは終始笑顔で、いつもは苦手な野菜もおいしいといって完食したり、大人に混じって片付けの手伝いをしたりしていた。

共生するコミュニティへ

100歳プロジェクトを通して、さまざまな年齢、性別、職業、立場の地域の方々と出会い、交流・協働をさせていただいた。本学を擁する星槎グループでは、「人を認める」「人を排除しない」「仲間を作る」を大事な3つの約束として、共生社会を目指している。今後も地域の皆さまと共に学びを続け、活性化に役立つ活動をしていきたい。誰もが人生に希望を持ち、共に生きるコミュニティを目指して。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 箱根マイスター養成講座(箱根寄木細工)

    箱根マイスター養成講座(箱根寄木細工)

  • 食の講座

    食の講座

  • 伝統料理を作って食べる

    伝統料理を作って食べる

  • 3回にわたる箱根マイスター養成講座にすべて出席された方に「箱根マイスター」の称号を箱根町長の山口昇士さんより授与(住民学会にて)

    3回にわたる箱根マイスター養成講座にすべて出席された方に「箱根マイスター」の称号を箱根町長の山口昇士さんより授与(住民学会にて)

  • 箱根住民学会後の懇親会

    箱根住民学会後の懇親会

  • どんど焼きを見学して

    どんど焼きを見学して

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