一体感を生むビジョンと活動の継続がカギ
「弔う空間」と地域再生の視点から
- 一般社団法人火葬研 代表理事・会長
武田 至さん - 1965年新潟県生まれ。東京電機大学大学院修了。博士(工学)、一級建築士。任意団体を経て2009年一般社団法人火葬研設立、代表理事就任。研修事業、火葬場・墓地建設の支援業務を行うほか、講演、執筆活動も行う。海外の葬祭事情にも詳しい。
私は、葬祭施設の調査研究をもとに、弔う空間はどうあるべきかをさまざまな視点から考え、墓地や火葬場建設の支援業務を行っているが、設計まで行う建築家でもある。
仕事柄、北海道から沖縄まで全国を訪れ、離島もいくつか巡った。国内だけでなく、アジアと欧州を中心に20数カ国を訪問している。同じ国でもさまざまな文化があり、地域によって全く違う国のように感じることもある。それは食文化と人の弔い方など葬送に大きく見いだすことができる。
意外と知らない我が街
街を楽しむにはゆっくり歩き巡ることであるが、時間がないときは地元の人が街を案内できるかがカギとなる。
仕事の際、担当者とランチを一緒にすることもあるが、お薦めの店が意外と出てこない。結局、全国展開のファミレスに。普段外食することがないので、店を知らないという。Webで調べている訪問者の方が、知っている場合がある。また、外から来た人が感動する風景も、見慣れているので、特に気にならないのである。
薄れる地域性と画一化していく景観
各地で若者は全国展開している居酒屋へ行くという。料金が明確で、安く気軽に飲めるのが理由のようである。
また大型商業施設の展開により、全国どこへ行っても似たような景観となっている。歩いても面白みに欠ける。チェーン店はどこで食べても変わらないが、冒険したくない人にとっては、外れがないといった安心感はある。
旅は非日常を求めてのことで、不便さも魅力につながることがあるが、そこで生活する人にとっては、便利で快適な生活が求められる。利便性を求めていくにつれて街も変化し、地域性が感じられなくなってきている。
平成の大合併で、約3200あった市町村が約1700に減少した。豊かになればと、大きな市に合併した町村もあるが、独自の文化を守りたいと、独立を選んだ町村もある。どちらが正解だったかの評価は難しいが、人口が少ない地区は、合併しても結局社会インフラの整備は後回しになり、町の独自性も消えてしまっている。
サービス精神あふれる住民が町の広報担当
山形県金山町は人口5300人の町で、合併を選択しなかった。
樹齢300年を超える杉の美林、石堤を流れる山水に鯉が泳ぐ大堰、地元職人が建てる白壁と杉板張りの家並み、山間を黄金に染める田んぼ。自然、季節、人、それは町が考えるおもてなしの全てとなる。
金山町は、風景を生かしたまちづくりを昭和58年(1983)から推進している。これは、100年かけて自然(風景)と調和した美しい街並みをつくっていくもので、あわせて林業等の地場産業の振興や人と自然の共生を図るというものである。基準に合った建物の建設にも助成がある。公共施設も同様で、火葬場も基準に合わせて作られた。どこにもない空間は、この町オリジナルである。
小学校の授業で町の文化を教えており、愛着を持つ人が多い。全住民がサービス精神にあふれる町の広報担当といった感じである。
町営バスの時刻が変更になりホテルまで辿り着けず、タクシー待ちの際、迷惑をかけたということで、町職員がホテルまで案内してくれたこともあった。
町の人に触れるにつれて、合併しなかった理由が分かってきた。文化が違うのである。
町全体で「花のまち」づくり
業務で数年の付き合いがある「花のまち」北海道東神楽町は、農業が盛んな町である。
花のまちといえば、広いラベンダー畑がある美瑛町や富良野地区の市町の方が印象深い。
昭和33年(1958)に始まった住民運動が、現在全町の総合的な環境美化運動に発展、この運動の一部門の「花いっぱい運動」は、住民に広く浸透し、単なる環境美化運動にとどまらず「個性あるまちづくり」に貢献している。最近では観光や花き栽培等の産業振興にも生かされている。
現在計画中の霊園は、町のイメージに合わせた、大雪山系を望む花咲く安らぎの緑の霊園を目指す。全国から来てほしいといった願いもある。
住む街を好きになるには
日本では地域による分け隔てのない、ユニバーサルサービスが提供されてきたが、人口減少や財政悪化もあり、居住地により住民サービスに違いがでてくることになる。やれることが限られる。
どの街にも、培ってきた歴史、文化がある。人口減少は、その文化の維持も困難にさせる。補助金を当てにした町おこしはうまくいかないケースが多い。ハードがあれば何とかなるのではなく、それを生かすソフトが重要となる。日本ではその視点が欠けていた。
独自の街の魅力が人を呼び込む原動力になる。全国を巡り感じたことは、地域再生には、地域が一体となる明確なビジョンを示した上で、活動の継続がカギとなる。
地域再生のキーワードは、自分たちが住む街が好きかどうかである。住む街をもっと知り、楽しめる場所をつくっていくことが求められるのではないか。
「地域再生を考える」編集委員会
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進むサステナブルな団地・まちづくり -
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