地域再生を考える

2020年9月掲載

木造の建築を再生して残す
――まちに新しい歴史をつくる

建築家 青木 茂さん

建築家
青木 茂さん
大分県生まれ。青木茂建築工房代表取締役。首都大学東京特任教授(2008年〜2012年)、大連理工大学客員教授。博士(東京大学工学)。一級建築士。著書に『公共建築の未来』『長寿命建築へ』『未来へつなぐリファイニング建築』など。主な受賞に日本建築学会賞・業績賞(2001)、BCS賞(2015) 、BELCA賞(2001,2016)など。
リファイニング建築

約30年にわたりリファイニング建築という手法で、築年数30年を超えた建物の再生を行ってきた。

既存建物の調査から始まり、耐震診断を行い内外装を現在のニーズにあった仕様にして、耐震補強を行って新築と同等の耐力にし、改めた建築確認書を提出して検査済証を取得。法的にも構造的にも新築と同等の建物とすることができた。銀行から融資もできるシステムを構築して建築再生に伴う全てのことが確立できたと考えている。

歴史で紐解くリノベーション

現在リノベーションと呼ばれる建築手法は一般的に行われるようになったが、歴史を紐解けば面白い事例がたくさんある。

特に代表的なものは戦国時代にある。戦略上の点から急いで城を作らなければいけない。そこで現在ある城を壊して、その部材で別の場所に城を立てるということをやっていた。どうも彦根城がその最たるものらしい。また、茶室もかなり移築されている。別の見方をすれば秀吉の清洲城などはプレハブ建築の走りかもしれない。

現在各地で行われているリノベーションと呼ばれる木造の建築の再生は、この戦国時代に行われていた建築手法のスモール版と考えればよいのではないだろうか。城を作るほどのインパクトと緊急性はないが、資源の再利用という点では今の時代にマッチしている。

木造建築の再生で200年住宅に挑む

以前、福田内閣の時に200年住宅を提唱していたが、あまり普及は見られなかった。理由は掛け声と解説にあるが、その具体的な方法論や工法、技術が机上で論じられ、実務としての工法と広報がなされなかった。

この頃築100年の木造住宅を再生してほしいとの依頼を受けた。新築マンションを頼まれ、ついでに母屋もやってほしいとの話だったが、木造建築の再生はやりませんと言ったら貴方は大きな仕事はするが小さい仕事はしないのかと言われて、「よし」と思い設計にかかった。

築100年の建物を再生し今から100年使えるとすると200年住宅になる。これが200年住宅と考えて設計にかかったが、この頃建築の再生はほぼ皆無に近い状況で、築年数の古い建物はコストがいくらかかるかわからないので、新築すべきだという意見がほとんどであった。

この建築再生を始めるにあたり、木造建築の再生は長野県の建築家降幡廣信氏(古民家の再生を行い新築以上の建物を作り多くの賞を受賞している)によって確立されていたため、このジャンルには足を踏みいれず、コンクリート造で再生を行った。

今後リノベーションは定着するのか

現在、リノベーションが大流行しているが、この頃から見れば大変な変化である。降幡氏の再生との違いは、使われる時間の違いではないかと思える。氏がどう意識したかは不明ではあるが、向こう50年から100年は使える仕様とされている。現在行われているリノベーションは目標に掲げてはいないが十数年は利用できると考えられるし、既存の利用としては良い手法である。

本来であれば再生後、何年使われるか、使われることができるか、技術的な裏付けと使われる時間と投資金額を考えて目標を掲げて行わなければならない。今後日本にこの手法が定着するか否かの大きな問題ではないかと思われる。

世界で自然災害の多くの原因となっている地球温暖化への一手として適切な行為であるし、環境的な配慮や建築コスト等現在のスローの時代には適している手法であることは確かである。

港区立伝統文化交流館の再生

設計活動の駆け出しのころ小学校や中学校の同世代の職人となった友人から多くの木造建築のあり方を教わった。建築家としての原点はここに尽きる。

その後、縁あって大きなチャンスが舞い込んできた。お寺の設計の依頼である。このことで寺社仏閣の伝統技術も学ぶことができ、完成後、お寺の実績をまとめた『寺院空間の演出』という本も共著で出版できた。

この春完成した港区立伝統文化交流館(旧協働会館)は昭和時代に見番として建てられた築80年の木造2階建の建物で、2020年のオリンピックに合わせて再生を行った。正直なところ、ぼろぼろの建物で台風から逃れるために見るも無残な串刺しの囲いがなされていた。建物の再生は様式、構造、場所、年代により多様であるので一つの手法だけではうまくいかないことが多くある。ここではもっと大きな問題がこの囲いである。

建物は既存の位置より8メートル西側に曳家を行い、新しく作られたコンクリート造の基礎に移転を行った。公共建築であるという性格と文化財としての両面を考慮しながらの作業を行い、文化財としての価値を保全するため、極力使用可能な部材を残すことにした。玄関ホールの床タイル、外壁、垂木などである。

耐震性は役所に3案提示して最適な補強を行って確保した。また、公共建築としては現行の法と適合するように必要な機能を増築し、エレベーターをつけるなど利用方法に適した配慮も行った。港区にとっても我々にとっても、これまで経験したことのないようなプログラムであり大変な苦労があったが、東京の都心にあって、この木造の建築を再生して残すことは大変意義のあることであり、また地域の人からも喜びの声をお聞きした。この建物の歴史を体感し、この地に新しい歴史をつくることを願っている。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 築100年の母屋を再生。木造の建築を鉄骨コンクリート造で補強し、増築棟と渡り廊下でつないだ。

    築100年の住宅の再生
    築100年の母屋を再生。木造の建築を鉄骨コンクリート造で補強し、増築棟と渡り廊下でつないだ。

  • 再生前

    築100年の住宅の再生
    築100年の母屋を再生。木造の建築を鉄骨コンクリート造で補強し、増築棟と渡り廊下でつないだ。

  • 再生後のリビング・ダイニング

    築100年の住宅の再生
    築100年の母屋を再生。木造の建築を鉄骨コンクリート造で補強し、増築棟と渡り廊下でつないだ。

  • 港区立伝統文化交流館の再生

  • 再生前の外観

    港区立伝統文化交流館の再生

  • 曳家工事の様子

    港区立伝統文化交流館の再生

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