尾道の魅力を空き家から
ひとつひとつの空き家再生が町を変える
- NPO法人尾道空き家再生プロジェクト
豊田 雅子さん - 1974年広島県尾道市生まれ。関西外国語大学を卒業後、(株)JTBサポートプラザで海外旅行の添乗員として勤務後、尾道にUターン。結婚、出産を経て2007年に「尾道空き家再生プロジェクト」を立ち上げ、翌年法人化し、現在も代表理事を務める。
尾道の町の魅力と現状
尾道は広島県の東部の瀬戸内海の小さな港町だが、文学や映画のおかげで古いお寺や路地に囲まれたレトロな町並み、坂を登れば眼下には多島美と尾道水道…そんな共通のイメージがあるのではないかと思う。
その独特の坂と路地の景観は尾道の顔ともいえる部分でもあるのだが、一方で深刻な空き家問題を抱えるエリアでもある。開港850周年を迎えた旧市街地は戦火や災害、開発の手を免れ、船の時代に築かれたヒューマンスケールの町並みがまるでそこだけタイムスリップしたかのように残っている。しかしその尾道らしいエリアは車中心の社会への変化や核家族化、少子高齢化による中心市街地の空洞化といった現代社会の問題を多く抱えており、500以上の空き家、空き店舗が点在。そしてその多くは長年の放置により廃屋化してきており、建て替えや新築することが不可能なロケーションにおいて、現存する空き家をいかにうまく活用し、後世に伝えていくかが最重要課題であった。
尾道空き家再生プロジェクトの誕生
私は尾道で生まれ、路地と坂、石段と石垣に囲まれた場所で育った。進学で初めて尾道を離れ、大都会大阪のワンルームマンションで1人暮らしを始めたとき、尾道はなんと住みよい町だったんだろうと改めて実感した。車がなかった時代に形成されたヒューマンスケールの町は、人が近く、私にとっては非常に心地よかったのだ。
卒業後、海外旅行の添乗員という仕事を通して、歴史や自然と共存するヨーロッパのまちづくりに感銘を受け、スクラップしてはどこにでもあるような町並みを作り出すような日本のまちづくりを尾道はすべきではないという思いから、Uターン後、今の活動を始めた。
個人的に「通称ガウディハウス」という1軒の空き家を買い取り、ブログなどを通して発信。「尾道空き家再生プロジェクト」を有志と共に2007年に立ち上げた。
空き家の再生と移住支援
最初はボランティアを中心とした活動で、空き家の再生につながることならなんでもやり始めた。「尾道空き家談議」や「空き家再生チャリティイベント」、「現地でチャリティ蚤の市」などだ。また、建築士さんや大学の先生に協力してもらい、「尾道建築塾」として町歩きをしたり、職人さんに頼んで空き家再生の現場ワークショップなども繰り返してきた。
同時に子連れママの井戸端サロン「北村洋品店」やものづくりの拠点「三軒家アパートメント」、坂暮らし体験ハウス「坂の家」など小ぶりの再生事例を生み出し、尾道の建物や風景の魅力と空き家の可能性を目に見える形で広げていった。
また、2009年から尾道市と共同で空き家バンクを運営し、民間のフットワークの軽さと培ってきたノウハウを生かして100軒以上の空き家のマッチングを行ってきた。
若い移住者が古い空き家を上手にリノベーションして暮らし、パン屋や古本屋、カフェなど空き家を再生した尾道らしい店舗も増え、人が人を呼ぶような町になってきた。
空き家を使って若者の仕事を増やす
その頃見えてきた課題は、個人では動かすことが難しい大型の空き家や文化財級の空き家の活用と、移住してくる若者の雇用問題だった。このふたつの課題解決に向けて、2012年から新たに大型空き家によるゲストハウス展開に取り組み始め、路地が魅力の明治時代の長細い町屋を「あなごのねどこ」に、2016年には登録文化財の大正時代の別荘建築を坂の町が楽しめる2号店「みはらし亭」としてオープンさせ、運営も若い移住者や地元大学の卒業生を起用している。
最近は、駅裏の元旅館の独立した宴会場を貸しスペース「みんなの大広間」として活用を始めた。
地域資源に磨きをかけ、その町ならではの地域再生を
我々自身も20軒近い空き家を再生してきたが、どの物件もそのまま放っておいたら、廃屋化して更地になってしまう運命だったものばかり。古い=悪い、不便=悪いではなく、都会では見られなくなった風景や人の近いコミュニティが残っていることを尾道の強みだと捉え、ひとつひとつ空き家の片付けから始め、辛抱強くコツコツと再生してきた。そういった小さな再生事例の広がりと人のつながりが町の魅力をつくり出しているのではないかと思う。
近代化する都会のまねをするのではなく、それぞれの地域資源を見つめ直し、若者の新しい価値観をもって力強く生き抜いていく町がひとつでもふたつでも地方に増えることで、日本社会は本当の豊かさを取り戻すのではないか。
特にこれからのコロナ収束後、働き方も見直され、地方への移住が更に加速する時代がくると思う。
住みたいと思ってもらえる町になれるよう、「尾道」というローカルにとことんこだわって日々活動していきたい。
「地域再生を考える」編集委員会
- 団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり -
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所 - 定価1,900円(税別)/水曜社
- 団地再生まちづくり5
日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある -
編著
団地再生支援協会
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