地域再生を考える

2020年3月掲載

災害から立ち直る
ー災害大国における、災害調査と復興ー

東京大学 地震研究所 教授 楠 浩一さん

東京大学 地震研究所 教授
楠 浩一さん
1992年東京大学工学部卒業、97年東京大学大学院工学系研究科 博士課程修了。東京大学生産技術研究所助手、独立行政法人建築研究所主任研究員、横浜国立大学准教授、東京大学地震研究所准教授を経て、2018年より現職。博士(工学)。
はじめに

わが国は、世界でも有数の自然災害国です。地震、津波、火山、台風、大雨、洪水、それらに伴う土砂災害などです。ある日、東京ではかなりの頻度で発生する震度3程度の地震が発生した翌日、短期で来訪していた研究者が、驚いた顔で研究室にやってきました。「あんな大きな揺れを経験したのは初めてだ」と興奮した顔で話してくれましたが、「まだしばらく日本にいるのだから、もっと強い地震を経験できるよ」とお伝えしました。期せずして、すぐにさらに強い地震が発生し、翌日、今度は呆れた顔をして私の部屋にやってきて、「どうしてこんなところに住んでいるの?」と聞いてきました。「日本には、地震、火山、台風による災害が至る所にあり、逃げようにも逃げるところがないんだよ」とお答えしたところ、「海外にでも逃げるしかないね…」と言い残して出ていきました。

わが国は災害が多いことと、その国民性から、災害に対応するために改善を着実に重ねてきたため、災害に対し世界に例を見ない強さを有しています。一方、2018年には北海道胆振東部地震、2019年には台風15号、19号など、災害が続きました。都市は災害に強い分、それを超えた災害が発生すると、甚大な被害が生じます。広範囲で建物が損傷してしまいますが、日々の人々の営みがやがて災害前の様に戻ってくるように、都市は復興していきます。

ここでは2011年東北地方太平洋沖地震を振り返ってみたいと思います。

震災と地震被害調査

2011年3月11日14時46分ごろ、東北地方太平洋沖を震源とする巨大地震が発生しました。当時は横浜国立大学の教員で、ちょうど加力実験を行っていました。横浜でも強い揺れを経験し、学生全員を建物外に誘導しました。地震が非常に長い間続く、その揺れの特徴から、北方での地震を予想しましたが、テレビを見て、衝撃を受けました。

数日して、文部科学省の依頼を日本建築学会が受託し、東北・関東の学校建物・文教施設の被災度調査を実施しました。これまでの想像をはるかに超える広域被害で、とても数人でカバーできる広さではありません。そこで、日本全国の主要な大学の建築構造を専門とする研究室総出で対応しました。われわれの研究室は、主たる調査地域として、相馬・南相馬・いわき市が割り当てられました。福島県沿岸地域で、津波と強い振動に襲われた地域です。現地へ向かう高速道路を走るのは、各県の消防車、警察車両、自衛隊車両がほとんどでした。現地の状態は、例えば写真①に示すように、壊滅的に破壊されていました。

われわれ研究者は、発生した災害に対しては無力です。建物の被害状況を調査・記録し、未来の地震に対する対策を検討するものの、今目の前で被災している人々には何の役にも立ちません。兵庫県南部地震の際と同じく、強い無力感を感じました。

写真②は、いわき市のとある高校を襲った津波が校舎の壁に残した跡です。その浸水深は2mを超えています。この地域を襲った津波は比較的速度が遅かったようで、閉じているガラスは割れていなかったことが印象的でした。先生方がすぐに高台へ避難誘導したため、幸い、この学校で亡くなられた方はいませんでした。ただ、たまたまその日、風邪などで学校を欠席していた学生で津波に巻き込まれた方がいるという話を伺い、非常にやり切れない思いをしました。

また、強い揺れにより大破した建物は実は福島県南部にもいくつか存在します。写真③は、倒壊寸前で止まった高等学校の被害調査状況です。柱が大きく壊れていることが分かります。

地域の再生

まちは災害が起こらない限りは、建物はランダムに建て替えられます。日本の建築構造に関する基準としては、1971年、1981年に大きく変更になりました。しかし、規則だけ新しくなっても、それが反映されるのはいわゆる「新築建物」だけで、地域の建物がすべて新しい基準に入れ替わるまでには、50年近い時間がかかります。一方、災害で地域が壊滅的に破壊された場合、地域の全てが新しいまちに入れ替わることになります。地域再生においては、災害により強いまちにしなければいけません。

東北地方太平洋沖地震では、女川町は20mにおよぶ高さの津波に襲われ、写真④のように壊滅的な被害を受けました。女川港には漁船があり、漁業を生業としている方もおり、全ての方を高台移転させることは現実的ではありません。また、長大な耐津波壁を洋上に構築することも、東北地方太平洋沖地震のような地震の再現期間と構築物の寿命を考えると、やはり現実的ではありません。女川町では、図①に示すように、地域をかさ上げし、標高をあげる再生方法を選びました。

災害後の地域の再生は、人々の普段の生活、文化、コミュニティーに配慮しつつ、災害により強いまちへと生まれ変わるため、住民・行政・技術者がチームになって知恵を絞っていかなければいけません。そこには唯一の答えは存在しません。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 写真①津波に襲われた相馬市周辺

  • いわき市の高校を襲った津波の浸水深

    写真②いわき市の高校を襲った津波の浸水深

  • 写真③強振動により大破した高等学校の被害調査状況(写真中央が筆者)

  • 写真④女川町の被害

  • 図①女川町の復興(http://www.town.onagawa.miyagi.jp/hukkou/より)

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