地域再生を考える

2020年2月掲載

行政経営改革なくして地域再生なし

滋賀大学 経済学部 教授 横山 幸司さん

滋賀大学 経済学部 教授
横山 幸司さん
行政職員を経て2013年度より現職。行政職員の間に国、県、市、町村という地方自治の全ての層に勤務した経験を持つ。これまでに延べ380以上の自治体に関わる。内閣府地域活性化伝道師、同PFI推進委員会専門委員をはじめ公職多数。博士(学術)。
はじめに

筆者は「地方自治論」を専門としているが、この数年来、地方自治体から特にご相談が多いのが、行政経営改革と地域自治(コミュニティ)に関する問題である。この2つの問題は自治体においても別物のように捉えられているが、実は表裏一体の問題であるというのが本稿の趣旨である。

最近の地域再生策といえば、何といっても「地方創生」であろう。「地方創生」では、企業誘致や移住定住の促進、観光(インバウンド)政策に取り組んだ自治体が多く見受けられた。いずれも、外部からの経済の移転を目的とした歳入増加策であったといえよう。歳入増加策は重要である。

ただ、地域再生は果たして、外部からの経済の移転だけで解決する問題であろうか。地域再生とは換言するならば、地域が安定して維持され、住民が安心して暮らすために必要な地域経営の健全化ではなかろうか。

例えば、歳入面では、使用料・手数料は適切に徴収されているだろうか。過度な減免措置を行っていないだろうか。歳出面では、補助金や負担金、委託費などは既得権益化していないだろうか。施策は効率的、効果的に実施されているだろうか。こうしたことを見直していくのが行政経営改革である。しかし、この行政経営改革についても、自治体によってその定義や手法もまちまちである。

そこで、筆者は「行政経営改革塾」(写真①)や、「事務事業見直し」(写真②)の実施など、行政経営改革の各フェーズにおいて自治体の支援をさせていただいている。

行政経営改革とは地域を含めた改革である

行政経営改革は通常、①総合計画(行革大綱)の策定→②業務の棚卸し→③事務事業の見直し→④具体的な改善(歳入歳出の見直し、民間活力の導入など)→⑤政策評価→⑥定期的なモニタリングという流れで行われるが(図①)、多くの自治体においてこれらの作業が一連のものとして機能していない。行革と組織、人事、予算が連動していないことをはじめ、公共施設のマネジメントや民間活力の導入も別々の部署で行われていて、行政全体で経営しているという感覚がない。いわんや地域自治政策は行革に関係ないと思われている。

しかし、歳出の多くの割合を占める補助金等の支出先の多くは地域住民ならびに地域の団体である。歳入も然り。公共施設の使用料における減免措置の対象は地域の住民や団体である。地域に対する補助金等が不祥事とまではいかなくても非効率的、非効果的に支出されているとしたら、それは行政経営にとって損失であり改善されねばならない。ゆえに、行政経営改革とは単に役所内の改革に留まらず、地域全体の改革といえるのである。

地域自治の課題

地域は年を追うごとに疲弊している。2060年には、日本の人口は現在の約4分の3である9000万人、高齢化率は約40%と予想されているにも関わらず、全国の自治体において、こうした人口減少、超高齢社会に備える地域社会システムの再構築はほとんどといっていいほど進んでいない。

自治会などの地域自治組織やPTA、子ども会などの社会教育団体、あるいは福祉団体など、現在、地域に存在する団体の多くは、戦後の高度経済成長期、人口増大期につくられたものであり、いずれも担い手不足や財源難に悩まされている。組織や事業が形骸化し、現代の需要に対応しておらず、機能不全に陥っているのに、ただ、それらを維持しようとすることに汲々としている団体も少なくない。

このような地域に対して、地方自治体は戦前戦中の反動により積極的な関与をしてこなかった。その結果、補助金の既得権益化や不祥事の問題が後を絶たない。地方自治体は今こそ、地域のあり方を積極的に示していくべき時に来ている。

地域改革の手順

それでは地域改革の手順はどのように行えばいいのか。それは、行革の手順に比例する。順に説明していくと、まずは「①地域診断」である。公式統計調査に出てこない、引きこもりや交通弱者等の状況や、自治会等の組織や事業は負担になっていないかなどを的確に把握することである。そのうえで、「②事業や組織のスクラップ&ビルド」である。組織の統合再編、不要な事業の廃止、逆に本当に必要な組織、事業の再構築などである。次に「③適切な中間支援」である。ボランティア活動の事業化や人材育成も含まれる。最後に「④適切なモニタリング」である。行革と同じく地域の改革も不断の見直しがなされていく必要がある。(図②)

おわりに

 地域再生は、とかく景気のいい話が注目されがちだが、限られた人と予算の中でいかに民主的に皆が幸せに過ごせる社会を構築できるかが基本である。そのためにはまずは足元の行政経営改革から始められることを提唱する。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 写真① 行政経営改革塾の様子

    写真① 行政経営改革塾の様子

  • 写真② 事務事業見直しの様子(愛知県西尾市)

    写真② 事務事業見直しの様子(愛知県西尾市)

  • 行政経営改革の流れ

    図① 行政経営改革の流れ

  • 地域改革の手順

    図② 地域改革の手順

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