地域再生を考える

2020年1月掲載

絶対的インバウンド視点での創生
〜特徴を特化して世界が目指す地域へ〜

広島マツダ 代表取締役会長兼CEO 松田 哲也さん

広島マツダ 代表取締役会長兼CEO
松田 哲也さん
広島マツダ社長を経て2015年12月より現職。原爆ドーム横に「おりづるタワー」をオープンする等、新観光名所や自動車文化を創り上げる一方、ICT、アパレル、人材派遣、飲食事業など多種多様なビジネスを積極展開。国内・海外にグループ20社を統括。
地域再生とは地方創生

地域再生とは地方創生。少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくために、まち・ひと・しごと創生に関する施策を総合的かつ計画的に実施することと定義されている。

しかし、日本の人口はもう増えることはない。最も憂慮する事態であり、短中長期それぞれの観点で日本人を増やす政策こそ、全てに優先されるべきだと私は思う。

そして、人口だけでなく東京圏への集中も改善されることもないだろう。データがそれを証明する。人口増減には2つの要因があり、1つは出生と死亡による自然増減、もう1つは転勤や進学等に伴う転出と転入による社会増減である。出ていく人が多くなる転出超過は、その地域が魅力的になれば防ぐことができる。

東京一極集中

総務省統計局が出した2018年の転入超過数を都道府県別にみると、東京都が7万9844人と最も多く、次いで埼玉県、神奈川県、千葉県、愛知県、福岡県、大阪府そして滋賀県の8都府県で転入超過となっている。社会人口が増えているのは8都府県のみ、その他の39道府県は転出超過、つまり三大都市圏以外は全て社会人口減少という事態となっており、特に東京への集中は是正どころか加速しているのだ。

今後さらに東京オリンピックや大阪万博と国際的イベントが都心で目白押しであり、この潮流つまり「都心へ一極集中、地方の衰退一途」という趨勢(すうせい)を変えることはもはや不可能であろう。10秒後の未来は誰も分からない。しかしこの現象は事実だ。そうであれば、これを前提とした生活の基盤を整えていく。まち、ひと、しごと創生を。さあ地域再生をはじめよう。

田舎は田舎のままで

田舎は、より田舎になる。いや、田舎にする。本来の自然豊かで不便を美徳とするように、人がいない静かな環境を善とするように、情景に映える高齢者がより輝くように。行政サービスはどんどん消えていく。大きな開発はもうしない。できないのだ。でも、手を広げて「空気うめー、気持ちえー」って東京では言えないのだ。日本の美しい景色を深め、都会の疲れた心を開放させることに特化する。

私の住む広島をはじめ地方の都市は、東京という都会や閑散とした田舎では決して実現できないバランスを両立し、独自の個性を発揮する。東京にも向かわない。田舎にもしない。世界で唯一無二の地域を目指すのだ。ただ、このことは当たり前に叫ばれているが、実際には全くそのように進んでいない。単純な邁進(まいしん)こそが重要なのだが、地方政治の難しさか。

開発はしない

例えば教育。地方に新しい大学や高校はもはや建てる必要はない。教育基盤を確立することはとても大切だが、新しい学校を作りそこで実現を目指すことはナンセンスだ。ただでさえ税金がなければ賄えない私学は、今や生徒を集めることさえ腐心している。そうであれば、新しい取り組みは、既存の学校で試す方が正しい選択だと思う。企業はとっくに合従連衡をしており、M&Aも盛んである。学校も統廃合し、残った片方は高齢者のための施設や、インバウンドを集める何かにした方が合理的で発展的ではないか。

つまり、絶対的に人口が減るのだから、もう開発を前提としてはいけない。行政も、そして我々企業経営者も。思考と行動のベースは「古いものの中に最新の技術を投入し、新しく蘇らせる」ことなのだ。

タイトルの名の通り、ようやく初めてインバウンドという言葉が登場した。本題と同時にこの寄稿の結論に入るが、つまりは絶対的インバウンド視点である。人が増えないのなら、観光客、それも外国からの観光客、インバウンドが目指す地域にするのだ。

学校を例に出したが、学校であれば男子校を男女共学にするという短絡的でどこでも取る政策ではなく、逆に半分を外国人留学生で埋めるのはどうだろうか。税金はここに投入し、全世界から若い生徒を集める。学生は自然に外国文化と触れ、豊かな国際人として勝手に育っていくであろう。

おりづるタワーの顔と心

広島であれば、平和に特化する。平和を顔とし、宮島の情景を心とする。その顔と心は反戦反核だけではない。人種や宗教やイデオロギーさえ凌駕(りょうが)する、いわば全てを受け入れる「赦(ゆる)す」文化を創るのだ。この顔と心がベースとなり、徹底した明るく豊かなまちづくりを推進していく。駅前にデパートや家電量販店の誘致はもうしなくても良い。そんなもの既に充分過ぎるほど溢れているし、どの地方都市の駅前とも同じであってはならない。改札を降りた時から平和感を感受できるよう他との違いを徹底していくのだ。

原爆ドーム横に佇む「おりづるタワー」もその感性で改築して再生させたつもりだ。ここに来れば誰もが争う気持ちが失せる。全てを赦し、感謝し、享受し、未来に共に進む気持ちにさせる。決して難しい理論ではない。この場所の顔と心に地域再生の道がある。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 季節ごとにさまざまな催しを行う、おりづるタワーの屋上展望台「ひろしまの丘」

  • 体験コンテンツが多数取りそろう、12階おりづる広場

  • 広島の特産品を多数取りそろえる、おりづるタワー1階物産館「人と樹」

  • 広島市民球場跡地から見た、おりづるタワー外観

    広島市民球場跡地から見た、おりづるタワー外観

団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価1,900円(税別)/水曜社

団地再生まちづくり5
日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある
編著
団地再生支援協会
合人社計画研究所
定価2,500円(税別)/水曜社

(無断転載禁ず)

地域再生を考える

Wendy 定期発送

110万部発行 マンション生活情報フリーペーパー

Wendyは分譲マンションを対象としたフリーペーパー(無料紙)です。
定期発送をお申込みいただくと、1年間、ご自宅のポストに毎月無料でお届けします。

定期発送のお申込み

マンション管理セミナー情報

お問い合わせ

月刊ウェンディに関すること、マンション管理に関するお問い合わせはこちらから

お問い合わせ

関連リンク

TOP