地域再生を考える

2019年9月掲載

街は誰のもの?
小さな場を創る現場から

街制作室株式会社 プロデューサー 渋谷 正明さん

街制作室株式会社 プロデューサー
渋谷 正明さん
1973年札幌生まれ。建築事務所や再開発・都市計画コンサルタントを経験し、人を幸せにする施設づくりを目指し2007年街制作室入社。そこにしかない、行きたくてたまらない、そんなコミュニティの場創りを心がけ、開発から企画・設計まで総合的に携わる。
帰り道、つい寄りたくなる場所

鹿児島市の新しい玄関口として、九州新幹線の終着駅としてにぎわう鹿児島中央駅前。新幹線開業以降周辺は再開発が進み、街の顔つきも変わりつつあります。そんな駅前の一角に楽しそうな笑い声に包まれた場所があります。

かごっまふるさと屋台村

2012年春にオープンした飲食店26店舗の集合体。

街のにぎわいや発展のために、食を通じたコミュニティの場にと、地元企業が遊休地を提供し、僕ら街制作室や想いが一緒な街の人々と期間限定の暫定利用で開業した屋台村です。

楽しくなる黄金レイアウト

屋外の軒下に8席の外席、店内は店主を囲んだコの字型カウンターが8席の全16席です。この屋台村が盛り上がる秘密の一つが実はこのコの字型カウンターにあります。コの字型カウンターはどの席からも店主との近さが同じで、初めてのお客さん同士でも気軽に会話できる店内レイアウトの黄金配置です。

もちろん、店の方々の人柄が良く(オープン時には鹿児島弁でお迎えできるようにスタッフ皆で鹿児島弁を習得)、おいしい地元の食を堪能できるのが大前提ですが。

屋台村と聞くとオジさんが多いイメージですが、ここの屋台村は黄金配置カウンターによって毎夜店主を囲んで地元客・観光客、初心者・上級者、老若男女を問わず盛り上がっています。

心地よい人間的スケール

屋台村黄金配置のもう一つが心地よいスケール感です。楽しげな店内をのぞきながら今日はどのお店に入ろうかと少し狭い小路を歩き、その先には小さな広場があり、何やらイベントが行われています。

僕らは、普段から大きすぎるビルや駅前広場、クルマ優先の広すぎる道路に慣れてしまっているので、屋台村のクルマも通らない狭い小路や広場がとても新鮮で、ついもう一杯、もう一軒と、はしごしてしまうのでした。

ここは食を通じてコミュニティが生まれることを目指した屋台村でしたが、その試みは大成功!仲良くなりすぎて結婚したカップルも数組いると聞いています。誰もが食で笑顔になれる街を目指した関係者一同してやったり!笑

にぎわいやコミュニティを生み出す屋台村は全国に広まりはじめ、那覇市でも国際通り屋台村として開業し、うちなーんちゅ(沖縄人)と観光客で毎晩大にぎわいです。屋台村周辺には新たな飲食店もオープンし地域の再生にも一役買っています。

無人島に屋台村?

かごっまふるさと屋台村を見てくださったとあるオーナーからのオファーでその仕事は始まりました。

沖縄・那覇空港の滑走路端からすぐの場所にある陸続きの無人島に屋台村を創りたい!そんな一言から初めて現地を訪れると、そこは完成間近のホテルが一軒とバッティングセンターがあるだけの少し荒れた無人島でした。

ここに屋台村?クルマでしかアクセスできない島?しかも急斜面?なかなかの難プロジェクトの予感です。

悪条件を逆手にとり階段状の街を

そんな悪条件の敷地でしたが、海に向かった斜面は西向きでサンセットがとてもきれい。この夕陽を皆で眺められる街、斜面を逆手にとった階段状の街はどうだろう?下の階の屋根は上の階のテラスとして使えるかも?そして、テラスに座って思い思いに夕陽を眺めながら自分だけの時間を過ごしてもらいたい!

海の風を感じられる

そんなコンセプトで創りあげたのが2015年夏にオープンした瀬長島ウミカジテラスです。那覇市内からクルマで20分、島の斜面に飲食店や物販店・サービス店が街を創り、訪れた誰もがテラスや階段からの海の景色と海の風を感じられる新しいタイプの商業ゾーンです。

開業当初は、オープンモール(店舗間はいちいち外を歩く)で暑いよ、白くて眩しいよなど、さまざまなご批判もいただきましたが、テラスから眺める青い海や夕陽の素晴らしさ、ウミカジ(海風)の気持ち良さに、だんだんと皆さんに受け入れていただけ、今や瀬長島全体で年間280万もの方々が訪れてくださる沖縄の新しい名所に成長しました。

コンセプトの大切さ

どうして?暑くて、眩しくて、屋根もない、階段ばかりの不便な街に皆さんが訪れてくださるのか?それはきっと、創った僕ら街制作室も、お店の方々も、施設のオーナーさんも皆に共通しているのは、

1番目:訪れてくれた皆さんにテラスで海や風を感じてくださいね。

次に(ついでにかな?):せっかく来たのだから食事や買い物もしていってくださいね。

と、一般的な商業施設とは優先順位が逆なのも一因かもしれません。せっかくの素晴らしい眺め、素晴らしい風や時間、こんな大切なロケーションを皆さんと一緒に楽しみたい。一つくらいそんな一風変わったコンセプトの商業施設があっても良いですよね!

人のための街

僕ら街制作室は、人間本来の風土に根差した、最も自然なライフスタイルが実現できる「街」の確立。これが私たちの仕事の原点です。

クルマや建造物のための街ではなく、本当に自分たちが住みつきたいと思う、地域文化が根付く街づくり。いつまでもいたくなる、心やすらぐ空間づくり。そして、行きたくてたまらない、魅力あふれる施設づくり。

住むこと、食べること、遊ぶこと、学ぶこと、働くこと、生きることすべてに関わり、そして一番良い選択をし、街を創りたいと願っています。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 鹿児島の名産品である芋焼酎の仕込樽が皆さんをお出迎え。一歩入ると心地よいスケール感に誰もが笑顔になる。

  • かごっまふるさと屋台村の小路。明るすぎない優しい照明も歩きたくなる秘訣の一つ。

  • 上から眺めると屋根と屋根の間から小路のにぎわいが伝わって来る国際通り屋台村。(プロデューサー:街制作室 工藤優)

  • 赤瓦など沖縄らしさはあえて使っていないウミカジテラス外観。真っ白いペイントがサンセット時には夕焼け色に染まり自然と一体となる。

  • 階段状の街。縦(上下の階段)と横(通路)が迷路のようで、ついその先まで登りたくなる。

団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価1,900円(税別)/水曜社

団地再生まちづくり5
日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある
編著
団地再生支援協会
合人社計画研究所
定価2,500円(税別)/水曜社

(無断転載禁ず)

地域再生を考える

Wendy 定期発送

110万部発行 マンション生活情報フリーペーパー

Wendyは分譲マンションを対象としたフリーペーパー(無料紙)です。
定期発送をお申込みいただくと、1年間、ご自宅のポストに毎月無料でお届けします。

定期発送のお申込み

マンション管理セミナー情報

お問い合わせ

月刊ウェンディに関すること、マンション管理に関するお問い合わせはこちらから

お問い合わせ

関連リンク

TOP