地域再生を考える

2019年5月掲載

建築を作りて街を創る
居心地の良さが人を元気にする

建築家 𠮷羽 逸郎さん

建築家
𠮷羽 逸郎さん
金沢市生まれ。1969年神戸大学建築学科卒。建築家、一級建築士、アイ・エフ建築設計研究所代表。元神戸大学建築学科非常勤講師、元日本建築家協会理事近畿支部長。BCS賞、渡辺節賞、公共建築賞、日本建築士会連合会賞を受賞。
建築と街

私たちが1つずつ建築を作ることは、結果として街を創ることになる。1つの建築が街の構成要素になる。街は1つのコンセプトやデザインで創られるものではない。

1つの建築を取り巻く街の歴史は、50年100年、もっと永遠に続く、長く積み上げられたものである。そこには時代時代の変化する価値観や技術の裏付けがギッシリと詰まっている。

街は織物のように時代時代の多様な色、質感、素材等によって、縦糸横糸をよって創られ、全体としてすばらしく美しい街になる。

また、歴史の積み重ねられた街は、もっと長い時間で見ると地層のように地球レベルの自然や環境の集積になって続いている。

このように考えると建築を作る時、絶対的な正解はなく、気が楽になる。

建築は誰のものか

街をどのような視点で見るか、見えるかはいろいろある。住民の目、通過する人の目、訪問者の目、年齢の違いによる目、感性による目等たくさんある。街の歴史にもいろいろあり、たどってきた歴史の重みのある街、新しくこれから歴史をスタートする街、住宅や工場等用途による違い、自然や環境による違い等それぞれの特性がある。

建築を通じて、街に関わることは、このような視点や歴史をどのように評価し判断するかである。その上で、現代の建築家が現代の人々のために建築を通した環境を創ることである。建築は、オーナーのために作られるが、その存在は広く社会的なものである。私たちは、日々その狭間で創造を続けているわけである。バブルの時代には、コマーシャリズムがまん延し、建築は消耗品になり短期間の間にスクラップアンドビルドされた。

経済的価値だけが重視される時代だった。ちょうど、地層の中で大洪水や大噴火が記録されているような特異点だった。建築が私たちの手から離れていた。

人々の思いを集約できるのか

建築には、答えはいくつもある。正解はあるのだろうか。その意味で、少しでもベターを、よりベターを、目指す中で正解(?)に近づけたらよいと考えて設計をしている。

近年、設計の過程でワークショップを取り入れることもある。私の経験したワークショップでは、役所の方は、どこへ向かうのか、無理難題を求められないか、心配された。しかし回を重ねていくうちにお互いの価値観を認め信頼関係が生まれ、自然と集約して良い結果になった。みんなで勉強を重ね話し合いを重ねる中で、広範な課題に対処し、現代の自分たちの答えを出していくのに有効な方法の1つと考える。

古いものに価値を再発見する

戦後の経済成長の時代やバブルの時代には、古い物から新しい物へ、自然素材から工業製品へと、すべての価値が変わった。

建築も同じだった。しかし、ネズミが子どもを産む実験で木の箱と鉄の箱では、自然な木の箱の方が多いという結果がある。人間も木・紙・布といった自然素材が、鉄・ガラス・コンクリートといった工業製品よりも安らぎや落ちつきを得られる。明かりも蛍光色より白熱色の方が安らぎや落ちつきを得られる。

近年、田舎の朽ちかけた木造家屋に手を入れ再生し、町おこしに活躍している。それは観光客のためだけでなく、住民の目を開かせ、古い物と一緒に新しい生活環境を創ろうという動きになっている。もちろん経済効果も大きい。このように価値の再発見により、みんなが幸せになれれば、すばらしいことである。

再開発と再生

都市部では巨大資本による巨大都市再開発が各地で行われている。人間のためというより、経済のためといえるだろう。私たちはテーマパークへ遊びに行かせてもらうといったところだろうか。残念ながらバブル時代の観光地だ。

地域再生とは、街の歴史の中で積み重ねられた中から価値を再発見し、それを再生し新たな価値を付加し、自分たちの環境を再生することだと考える。

上記の町おこしの例はその1つだ。私たちは均質化した文化の中で同じ方向に歩いているように感じる。

地域再生のもう1つの側面は、地域の歴史の中から文化の再生もしたいものだ。もちろん過去からの発見・延長だけでなく、未来に向かって新しい価値を創造することも再生の1つだ。スポーツ・レクリエーション・産業・自然・農業等いろいろ考えられる。

団地の再生

近年、公営住宅団地の再生をいくつか行った。それぞれの住戸については、快適で住みやすいことをモットーに設計するが、団地と街との関係を重視している。近隣の街並みとの調和やコミュニティーが活性化し、住民のみなさんが交流できる屋内外の空間創りや仕掛け作りが地域再生のために最も有効と考える。また場所場所にあったデザイン・素材・色彩・ディテールを重視することで、住みやすく愛される街創りに役立ちたいと考える。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 風景の一部となるオーケストラハウス

  • オブジェとしての万博公園休憩所

  • 街を活性化する大阪労働センター

  • 古民家を街の起爆剤のレストランに

  • 環境を体感する公園トイレ

  • 街並みと調和した小山町落合住宅

団地再生まちづくり3
団地再生・まちづくりプロジェクトの本質
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価1,900円(税別)/水曜社

団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり
編著
団地再生支援協会
合人社計画研究所
定価1,900円(税別)/水曜社

(無断転載禁ず)

地域再生を考える

Wendy 定期発送

110万部発行 マンション生活情報フリーペーパー

Wendyは分譲マンションを対象としたフリーペーパー(無料紙)です。
定期発送をお申込みいただくと、1年間、ご自宅のポストに毎月無料でお届けします。

定期発送のお申込み

マンション管理セミナー情報

お問い合わせ

月刊ウェンディに関すること、マンション管理に関するお問い合わせはこちらから

お問い合わせ

関連リンク

TOP