災害後の仮の住まいと地域の力
進化する仮設住宅。プレハブ、木造、ムービングハウス
- 東洋大学 ライフデザイン学部人間環境デザイン学科 准教授
冨安 亮輔さん - 1981年福岡県久留米市生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学大学院工学系研究科建築学専攻修了、2019年より現職。一級建築士、博士(工学)。専門は建築計画。主な受賞に日本建築学会奨励賞(2016)、東京大学総長大賞(2012)など。
はじめに
東日本大震災から10年を迎えるにあたり、災害後の住まい、特に仮設住宅について”地域“をキーワードに10年間の変化を紹介し、将来への考察を試みたいと思います。
地域の工務店
仮設住宅といえば、プレハブ建築協会に所属する企業が建設する鉄骨プレハブ型が主流で、それは現在も変わりません。東日本大震災では4.8万戸の仮設住宅が建設されましたが、そのうち約20%を地域の工務店や中小の建設会社が担ったことが特徴のひとつとして挙げられます。地域の材料を使い、地域の職人さんによって造られたため、その大半は木造でした。プレハブ建築協会による仮設住宅も一部に木造はありますが、地域工務店等が建設するものが木造仮設住宅と呼ばれるようになっています。
一般的な仮設住宅の基礎は木杭ですが、2016年熊本地震の木造仮設住宅ではコンクリート基礎を採用することで居住性はさらに向上し、仮設住宅としての役目を終えたあと恒久的な住まいに変更できるよう工夫がなされました。実際、半数の仮設団地で公的な住宅への転用が進んでいます。熊本地震での経験と教訓は、工務店の各地域のネットワークを生かし、2018年西日本豪雨、2020年熊本県南部水害での木造仮設住宅に引き継がれています。
地域の社会的資源と空間的資源
内閣府は、各家庭に災害対策として3日分以上の非常食等の備蓄を求めています。いわゆる自助にあたります。大規模な災害では支援が届くまで3日以上かかることもあり、そうなれば地域ごとの共助の重要性が増します。
例えば東日本大震災の岩手では、津波によって道路が寸断されたため支援が十分に届かず、人々が公民館に食材を持ち寄り、その広場で火を起こし数日間食事を共にした事例が複数ありました。そして、熊本地震では地域コミュニティといった社会的資源だけでなく、空間的資源も活用して復興にむかっている自治体があります。
熊本市の南にある嘉島町です。人口1万人ほどの町ですが、震度6強を記録し、全半壊あわせると住家被害は1000棟にのぼりました。208戸の鉄骨プレハブの仮設住宅が建設されましたが、ひとつの仮設団地に被災者を集めるのではなく、11カ所に分散して行政区ごとに仮設団地がつくられました。そうすることで、災害前の自宅から徒歩圏内で仮住まいでき、地域コミュニティの中で生活再建をすすめることが可能となりました。仮設住宅の敷地は街区公園が使われましたが、それぞれの公園敷地は20年ほど前から地域コミュニティが中心となって探した土地、つまり地域の空間的資源でした。もともと、行政区ごとの消防団の活動が盛んで防災意識が強く、町内会で要配慮高齢者の確認を行うなどの強いコミュニティが、背景にあります。
仮住まいを地域で備蓄
2018年西日本豪雨にみまわれた岡山県倉敷市で、仮設住宅として初めてムービングハウスが使用されました。ムービングハウスとは移動式の住宅で、クレーンで吊り上げ大型トラックに載せて輸送が可能です。平面的につなげれば集会施設のような広い空間もできますし、積み重ねれば2階建てとなります。平時は住宅のほか宿泊施設、店舗などに使われ、その居住性は高いです。そして、最大の長所は、災害が起きたあと被災地に運んでいけば早期に仮住まいの生活を始められることです。
2020年7月の熊本県南部水害では、人吉市と球磨村を中心に808戸の仮設住宅が供給されました。その木造仮設住宅で最も早い入居日は8月22日でしたが、ムービングハウスの仮設住宅は8月2日から始まりました。高齢者や子どもといった体力のない人にとって、体育館などの避難所での生活はできるだけ短いことが望まれます。コロナ禍においてはなおさらです。68戸のムービングハウス仮設住宅のうち、大半は岡山県倉敷市や茨城県、長野県、北海道などから運ばれてきました。それぞれ仮設住宅や宿泊施設として使われていたものです。
地域の防災倉庫に食料や機材を備えておくように、各地にムービングハウスを仮住まい用の空間として備蓄しようという構想があります。都道府県レベルで賛同が得られ、ネットワーク化されれば、もっと多くの人が短期間のうちに仮設住宅へ入居が可能となるでしょう。
将来に向けて
このように、災害後の住まいについて、さまざまなレベルで地域にできることがあります。災害は起きないことが望ましいですが、日本に住み続ける限り、誰もが住まいを失う可能性があります。そして、「天災は忘れたころにやってくる(寺田寅彦)」のです。私は、防災の第一歩は、過去の災害から得られた教訓と経験を忘れないことだと考えます。
「地域再生を考える」編集委員会
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