地方創生コンサルティングの取り組み
まち・ひと・しごとの観点から
- ㈱YMFG ZONEプラニング 代表取締役社長
椋梨 敬介さん - 1970年山口県で生まれ、広島市で育つ。1995年早稲田大学大学院商学研究科経営経済学専攻修了後、山口銀行に入行。2016年山口フィナンシャルグループ100%出資子会社である(株)YMFG ZONEプラニングに配属。
地方創生コンサルティングとは?
通常コンサルティングというと個別企業や個人に対するものを想定しがちであるし、そうしたコンサルティングが、一般的といえるかもしれない。一方で、私たちの取り組んでいる地方創生コンサルティング事業は、地域・事業環境などの視点でコンサルティングを展開し、地方創生のキーワードである地域の生産性向上に向けた総合的な事業活動支援を行っている。
具体的には、中央官庁や地方自治体とともに地域にて実証実験の実施や、地方創生にかかる取り組みの調査、分析、実行支援がある。地方創生といっても、その内容は幅広く、多岐にわたり、弊社が取り組んでいるプロジェクトも40を超える。
以下では、まち、ひと、しごとの3点から弊社の取り組んでいるプロジェクトの一部を具体的に説明したい。
まちの再生
山口県北部の日本海側の長門市(人口約3万3千人)に長門湯本温泉という温泉街がある(2016年ロシアのプーチン大統領来日の際に宿泊した温泉街といえば、思い出される方もいらっしゃるかもしれない)。長門湯本温泉は、宿泊者がピーク時(昭和59年)39万人であったが、平成26年には18万人と低迷を続けている。同温泉街は、長門市役所、地元旅館の若手経営者や後継者候補、まちづくりにかかるあらゆる分野のコンサルタント(チームをまとめる司令塔、道路交通分野、夜間照明分野、建築デザイン分野等)、来年営業開始する星野リゾートがチームとなって温泉街再生を図っている。
弊社はこの中で、温泉街に事業者を呼び込む事業者オーディションを開催したり、まちづくりファンド設立の支援を行ったりと、主に域内域外を問わず新たな事業者の呼び込みの支援をお手伝いしている。今は全国温泉地ランキングで53位(平成30年度)であるが、トップ10に入る人気温泉地となることを目標にチーム一丸となって取り組んでいる。
長門湯本温泉のような地域再生プロジェクトに取り組む場合、地元のメンバーの主体性は非常に重要であるが、地元だけではカバーできない部分の役割も多々ある。建設デザインや夜間照明、道路交通といった首都圏・関西圏からの専門家が温泉街に刺激を与え、地域に新たな風を吹き込む融合も発生している。チームを構成する「ひと」はいうまでもなく地方創生の重要なキーとなる。
ひとを呼び込む
そこで弊社が、中小企業庁とともに実証実験として昨年度から取り組み始めたのが、「TSUNAGU PROJECT」である。これは、首都圏から山口・広島・福岡という弊社の取り組んでいるエリアにひとを呼び込み、首都圏のひとと地域の企業やプロジェクトをつなげ、地域企業や地域の成長につなげることを目的とし、首都圏の人材仲介会社と連携し進めている。
このプロジェクトは、①首都圏から地域企業の経営陣となるフルタイム人材を呼びこむ(経営人材還流)と、②首都圏の副業解禁企業から地域企業にそのスキルを副業として呼び込む(副業受入支援)の2面展開を実施している。①の経営人材は移住を含むためハードルは高く、その実績は昨年度5件にとどまるが、②の副業受入支援は当初の予想以上の18件の成果に結びついている。
先日、実際に当プロジェクトで副業人材を獲得したベンチャー企業の経営者から、「専門的かつ高度な知見を得ることができ、企業の成長の一つのエンジンとなっており、非常に感謝している」といううれしい言葉もいただいた。今後、地方に人材が少ないIT部門やマーケティング部門をはじめ副業人材の地方企業での活躍の場は多いと感じている。また、首都圏の人材を受け入れることにより、地方企業は現在の自社におけるIT環境を含めたハード、ソフト面で従来型の働き方を見つめなおすいい機会にもなっている。
しごとを見つめる
働き方という面で、弊社では、地域の労働生産性向上面から、地方における働き方改革の支援も設立当初より行っている。
具体的には、①女性が活躍するステージをデザインする。②モチベーションスキルをデザインする。③IT等の活用を支援し生産性の向上につなげる。といった面からのアプローチを実施し、ワークライフバランスコンサルタントが、自治体とともにセミナーを開催し、経営者やそこで働いている人の意識改革を促している。首都圏と比較し、働き方や働く環境で、大幅な遅れを取ることは、地方企業の生産性低下、地域間格差にもつながることであり、地道に意識付けと行動を促す活動を展開している。
視点を変え、自分のこととして地方創生を考える
まち、ひと、しごとの面から弊社の一部ではあるが、具体的な活動をピックアップして説明させていただいた。一部読者の方々の中には、地方創生というと地方の問題と捉えがちな側面もあると思うが、今後の人口減少社会、首都圏との地域間格差を見据えると、もはや国全体の問題であり、ひとりひとりが、自分のことと捉え、まずは自分のできることを考えることが重要である。
そういった意味では、今後、教育分野を含め地方創生の問題に真正面から国全体で取り組んでいく、さらなる機運上昇と行動が求められている。弊社としても、主体性をもって、まずは「行動」をしていかなければならない。
「地域再生を考える」編集委員会
- 団地再生まちづくり3
団地再生・まちづくりプロジェクトの本質 -
編著
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合人社計画研究所 - 定価1,900円(税別)/水曜社
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