福島で学んだこと
〜復興支援を「支援」でなくした地域の力〜
- 予備校講師
藤井 健志さん - 岡山市出身。東京大学教育学部卒業後、銀行員を経て予備校講師に。元河合塾講師。現在は代々木ゼミナール本部校・福岡校・新潟校に出講。サテライン講義では「東大現代文」「小論文」等を担当。東日本大震災以降のボランティア以外にも地元公立小PTA会長、町会長職を通じて地域の活動に携わる。
剣道部OB集合
2011年3月末、当時東大医科学研究所特任教授の上昌広氏の声掛けで久しぶりに仲間たちと会食することとなった。氏は私の大学時代剣道部の1期先輩で、震災、原発事故直後から福島の浜通りに入って医療支援を始めており、その日は現場から一時帰京していた。集まった仲間も同じく学生時代に剣道部で共に過ごした同年代の仲間たちで、学者、公務員、民間企業のサラリーマンに予備校講師と現在の仕事も専門もバラバラ。いま思えばそれが総合大学運動部の醍醐味であったのかもしれない。
当日の情報交換も、その後の被災地での活動もその分多角的な連携の下で行うことができた。また、基盤に学生時代の部活動があったためボランティアでの活動に親和性の高い集団が一瞬でできた、というよりすでにできあがっていたように思う。
各界の「型破り」な面々
最初の情報交換で上氏から「医療の次は必ず教育面での支援が必要になる」と声掛けされてほどなく、私にも具体的な支援活動を始める機会が訪れた。2011年4月、東大経済学部松井彰彦先生の研究室で行われる福島県立相馬高校の先生、生徒有志の特別研修の場で大学入試に関する特別講義をさせていただくこととなったのだ。「今こそ学びの力を」という思いを共有しているという1点で松井先生が温かく迎え入れてくださったおかげで、その後度々福島でもご一緒し、「大学教授と予備校講師のコラボレーション」の機会を持たせていただいた。
また、この研修を機に出会ったのが当時の相馬高校の先生方だ。研修当日の「次は先生、福島で一緒に剣道をやりましょう!」という剣道部の生徒からの声掛けをきっかけに翌月から毎月相馬に通うようになったのだが、剣道の稽古では「昔とった杵柄」とはいかない私も、先生方がハブとなってくださるおかげで、子どもたちの進路や学習に関する活動を今や福島県内各地でさせていただいている。公立高校教員と予備校講師のこれだけ幅広く、長い期間のコラボレーションは異例なことだろう。おかげで生徒たちも私を先生の一員であるかのように扱ってくれ、涙がこぼれるようなメッセージ(写真参照)も届いている。
そして剣道も。剣道界で選手としても指導者としても活躍し続けている筑波大学准教授の鍋山隆弘氏のおかげで私の同期生は皆、剣道界では「鍋山世代」で通じる。その彼が、今では定期的に福島に足を運び、地元の中高生、あるいは指導者の皆さんに剣道講習会を開催しているのだ。剣道を愛好する人は各界に多く、この活動は剣道にとどまらず、さらなる広がりの契機ともなっている。
相馬は隣接する伊達市に対抗し、また度重なる天災を乗り越えるために外部の力をうまく取り入れてきた歴史を持つ。そのせいか「内を守るために逆に外を利用する」、今風の言い方をすれば「win‐winの関係を築く」のがうまい。組織の枠組みに縛られるのでなくむしろうまく利用して個人の力が活かされている。
そのような地域のリーダー立谷秀清相馬市長は「型破り」の極めつけのような人物で、震災直後、まだまだ復興もこれからだという時期から「私は『こちらは何もできずに困っています。助けてください』だけじゃいかんと思っている。それじゃあせっかくのご縁も続かないんだよ。来てくださった皆さんにも何かを得て帰ってもらわないと」とおっしゃっていた。
これぞ「地域の活性化」
震災から9年。いま思えば、私が相馬を中心に福島で見てきた「地域の活性化」は、「地域がそこを訪れる我々を活性化する」と同時に「地域自体が活性化される」という二重の意味を持っていたようだ。
我々外部の人間が地元の方々と結びつくのはもちろんだが、都会での生活では出会うはずのなかった者同士、あるいは都会生活の中でかつての縁が薄れていた者同士が地域の包容力のもとで結びつき、そこに新たな価値が発見される。だからこそ我々も足を運び続け、また地域の方々も受け入れ続けてくださっているのであろう。
外部からは復興「支援」と呼ばれる我々の活動は、当事者同士の「支援している・されている」関係を消失させながら今後も続いてゆく。
「地域再生を考える」編集委員会
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団地再生支援協会
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