地域再生を考える

2024年8月掲載

しあわせづくりカンパニーの挑戦
地域資源を活かした高知のまちづくり

和(かのう)建設株式会社 社長室長 中岡 竜太郎さん

和(かのう)建設株式会社 社長室長
中岡 竜太郎さん
1988年高知県生まれ。土佐高校卒業後、京都の大学を経て、JTB中国四国に入社。高知支店にて法人営業を経験し、JTBニュージーランドへ出向。後、広島支店にて地方創生事業に関わり、2021年結婚を機に高知へUターン。現在、和建設にて経営企画に携わる。
地域交流事業

京都でよさこいに明け暮れていた大学時代、3年生も秋に差し掛かった頃、同級生が次々と髪の色を黒くし、リクルートスーツに身を包み始めたのを見て、自分も就活生をやるのか、と重たい腰を持ち上げた。JTBでの面接では「自分は地元高知が大好きです。御社で地域交流事業に関わり、将来高知を元気にしたいです」と声を張り上げた。その言葉に嘘偽りはなかった。

入社後、実際に地域交流に関わって感じたことはソフト整備ももちろん大事だが、同等あるいはそれ以上にハード整備も重要であるということだ。つまり「建築の力」である。かくして、かねてより御縁の強かった和建設に入社し、JTBで培った経験と建築の力を融合させ、地域づくりのお手伝いをさせていただいている。

海岸線を望むスモールリゾート建築

高知県・芸西村の、東西に糸を引いたかのようにまっすぐ伸びる琴ヶ浜の海岸線は筆舌に尽くしがたい美しさを誇る。その琴ヶ浜を望む丘の上に蒼碧の洋上を思いのままに駆けたヨット「クリスティーナ・ロゼッティ号」を配し、船内をホテルの客室とする宿泊事業プロジェクトが始まった。

「コンテナ棟」、「ヨット棟」、建設用3Dプリンタで外壁を印刷した「サウナ棟」、木工CNCルーターで板材をデジタルデータで切り出し、組み立てた(「ネスティング」工法と呼んでいる)「木造の離れ棟」と、建築的にも最先端の技術を取り入れた個性豊かな4棟の宿泊棟と1棟のサウナ棟からなる貸別荘スタイルのスモールリゾートとして、「ナミテラス芸西」が今年2月に開業した。特に、東京に本社を置き建設用3Dプリンタの開発を手掛けるPolyuseと共同で建築した“3Dサウナ”は国内では非常に事例の少ないものであり、建築物としての注目も集めている。また内部、つまりサウナ部分に関しては全国に名の知られるSAUNAグリンピアのオーナーが監修していることもあり、「極上のととのい空間だ」と評判は上々だ。

資金調達の一部は芸西村のクラウドファンディング型ふるさと納税を活用させていただいた。現在も官民連携での芸西村への誘客を促進している。

仁淀川町「和の森」プロジェクト

そして、芸西村でのホテル建築をきっかけに「和の森」プロジェクトも大きく動き始めた。「和の森」とは仁淀川町と協働の森パートナーズ協定を結ぶことで名付けた町有林の一部のことである。協定は民間と高知県内の市町村が結ぶもので、民間は森林整備資金を寄付すると同時に町有林を活用して、森林保全に関するイベント等の実施を約束し、市町村は民間に対して、町有林のネーミングライツを与え、イベント実施をサポートするものだ。

弊社は木造建築を扱う会社なので、木材資源を森林から頂戴して、ビジネスを行っているといえる。ビジネスを持続的にするためには森林資源が欠かせない。伐期を迎えた木を建築に使い、次世代の木が育つ環境を作り、再造林を促進していくサイクルを作ることこそ我々がビジネスを通じて、森林保全に貢献できる方法だ。

2022年12月仁淀川町森林保全基金が発足し、設立総会が開かれた。そこで私は和の森活動や芸西村でのネスティング工法による木造建築について講演を行った。「ネスティング」工法とは神奈川県のVUILDという会社が企画設計したもので、地域木材を地元製材所で板引きし、木工CNCルーターで最終材まで加工し、現場で組み立ててしまう究極の地産地消建築を実現させる画期的な工法である。森林資源豊かな仁淀川町とは非常に相性がよく、また町内にはCLT用のラミナ材、つまり木材を板に加工することを得意とする池川木材工業があり、これまた相性抜群という環境が整っていた。早速その講演をきっかけに和建設×VUILD×池川木材工業による「ネスティング仁淀川町モデル」の開発がスタートした。

今回取り組んだのは移住者向け町営住宅平屋一戸建て。使用する部材は全てが町内産の板材で通常県外に出荷されCLTに加工される間柱材を活用した。2024年3月に竣工したこの町営住宅「仁淀川スタッドハウス」は県内外から注目を集め、4月にはタイからの視察団が訪れた。仁淀川町と我々のチームはこの地産地消モデルを原木流通サプライチェーンの出口戦略として、県内外へ流通させる地産外商モデルへと展開していくことをもくろんでいる。

人と人、気持ちと気持ち

弊社の企業理念は「人と人、気持ちと気持ちのしあわせづくり」。よく社員たちは「家を建ててからが一生のお付き合いです」という言葉を使っている。住宅に限らず、建築物を扱うことには大きな責任が伴う。建築の力を通じて、人々の交流を創造し、そこに住まう人々の暮らしを豊かにし、訪れる人々に驚きを提供する、しあわせづくりカンパニーとしてこれからも地域づくりに貢献していきたい。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 【ナミテラス芸西(NAMI TERRACE GEISEI)】全体図。全4棟の客室と1棟のサウナ棟からなる

    【ナミテラス芸西(NAMI TERRACE GEISEI)】全体図。全4棟の客室と1棟のサウナ棟からなる

  • 【ナミテラス芸西】フランスのベネトウ社のヨット「クリスティーナ・ロゼッティ号」を客室として利用

    【ナミテラス芸西】フランスのベネトウ社のヨット「クリスティーナ・ロゼッティ号」を客室として利用

  • 【ナミテラス芸西】木造の離れ棟“Deauville”(ドーヴィル)は、屋外ジャグジーが付いた2階建て

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  • 【ナミテラス芸西】建設用3Dプリンタで作られたサウナ棟。3Dプリンタ独特の積層模様が見える洞窟のようなサウナ内部空間

    【ナミテラス芸西】建設用3Dプリンタで作られたサウナ棟。3Dプリンタ独特の積層模様が見える洞窟のようなサウナ内部空間

  • 【和の森】間伐作業

    【和の森】間伐作業

  • 【仁淀川スタッドハウス】リビングダイニングキッチン。全ての部材を板材だけで建築

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  • 【仁淀川スタッドハウス】仁淀川町内で製材から乾燥、加工、施工まで行った町営住宅。南東側外観

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