地方で起きている空き家の現状
空き家はあるけど、空き家はない
- NPO法人ふるさと福井サポートセンター 理事長
北山 大志郎さん - 1969年福井県生まれ。神奈川県の地場ゼネコンに勤務後、94年北山建設に入社。現場作業員・現場監督さらに経営者としての経験を積み、2012年代表取締役に就任。美浜町人口減少対策委員会委員長、美浜町空家等対策協議会会長なども歴任。
私が理事長を務めるNPO法人ふるさと福井サポートセンターは、福井県美浜町で空き家のマッチング活動を行っています。今回は、皆さんに地方で起きている空き家の現状をお伝えします。
NPOを立ち上げたきっかけ
私の本業は、建設業です。株式会社北山建設という建設会社を経営しています。この仕事が本業で、主に土木工事をメインとした事業を行っています。
その事業の中で最近「解体工事」の依頼が多いのです。これは昨今、空き家問題が社会現象として表に出てきている流れの一つかもしれません。解体工事を請け負う中で、まだ利用価値があるにも関わらず、持ち主の都合で解体されていくことに、とても違和感を覚えました。せめて、使える家は第三者に使ってもらう、そんなことが建設会社の事業の延長上にあればよいなと思い、仲間に声をかけて、NPOを立ち上げました。
空き家は「ある」のに「ない」
NPOを立ち上げたのはよいのですが、何から手をつければよいか分からず、その当時ニュースなどでよく報道されていた「空き家見学ツアー」の記事を見つけて、手始めにツアーをやってみるかと始めました。これが2012年6月です。手探り状態で始めた空き家見学ツアーも、空き家マッチングツアーと名前を変え、24回と回数を重ねることができました(2023年7月現在)。
ツアーではバスを利用して、空き家を5~7件ほど、20名程度で見て回ります。希望者は家のことはもちろん、地域のルールなども区長を通して説明を聞きます。ツアー終了後、アンケートを基に持ち主の方と連絡をとりながら、マッチング成功へと道筋をつけていきます。
そんな活動の中で、気づいたことがあります。「空き家はあるけど、空き家はない」という現実です。
これは、空き家はたくさん存在するのだけど、貸したり売ったり、流通に出すことを決断する持ち主の方が少ないということです。空き家のほとんどが放置され、行く末が決まらないまま、どんどん老朽化していくという現実をたくさん見てきました。
空き家マッチングツアーを行うにも、毎回空き家の掘り起こしにとても苦労しています。本当は毎回新しい物件を紹介したいのですが、それもままならないという状況になっています。
空き家を放置してしまう現状
持ち主の方が空き家の行く末を決められないまま放置するのは、もちろん誰にとっても良いことはありません。ただ、持ち主の方も好き好んでこの選択をしているわけではないことも、私たちは理解しています。
よくある問題としてあげられるのは、仏壇問題です。皆さんも実家に仏壇があると思います。田舎に行けば行くほどその問題が大きく、代々続いた仏壇を誰が引き取るのか、そしてそこにまつわる墓の問題もあります。
自分の代で途絶えてしまうのか?先祖に申し訳ない。一方で、実家から離れた場所に生活基盤をつくってしまったため、実家に戻ることも考えにくい。こんな思いがループし、放置しているつもりはないのに、結果放置してしまっているという現状。
また、売る貸すという決断はしたものの、家の中の家財道具がたくさんあり、そのスタートラインに立てないという方もいらっしゃいます。実家と現住所の距離が遠ければ遠いほど、この現象は生まれやすくなります。自分の車に荷物を乗せて、地元のクリーンセンターに運び出す。最初は気合を入れて家族総出でやってしまおうと思われるのですが、実際にやってみると1、2日では終わりそうもないという現実に直面し、私たちの経験上、片付けることを諦めてしまう方がほとんどです。そんな時には家財道具片付け業者を紹介するのですが、見積もりの額に驚かれて、結局何もせず放置してしまうケースも多いです。
最善の方法は「空き家になったらすぐ行く末を決めること」
これらのケースのように、自分が放置してしまおうと思っていなくても、そうならざるを得ない状況が起きてしまうことが多いのです。その一方で、家の老朽化は誰にも止められません。
老朽化を防ぐためには、空き家の管理が必要です。昔のよしみで、ご近所さんに草刈りや窓の開け閉めによる空気の入れ替えをやってもらっている方もいらっしゃいますが、その近所の方も高齢化が進み、世代交代となると、依頼できる関係性が途絶えてしまって、自分でするか、もしくは業者に頼まざるを得ない状況になるわけです。
空き家は放置すればするほど、打つ手がなくなるというのが私たちの実体験です。では回避するためにはどうすればよいか。答えはひとつです。「空き家になったらすぐ行く末を決める」。これが最善の方法だと私たちは考えます。
何から始めたらいいの?「この記事を読み終えたら、家族と行く末をじっくり話すこと」。これに尽きます。
まずは家族で話し合うこと、ここから始めてみませんか?
「地域再生を考える」編集委員会
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