食エネ自給のまちづくり
~アフターコロナ時代の新しい暮らし方~
- 社会起業家・小田原かなごてファーム社長
小山田 大和さん - 1979年神奈川県生まれ。2016年合同会社小田原かなごてファームを設立。16年にソーラーシェアリング1号機を建設。全国初のオフサイト型自家消費モデルを21年に完成させ、自家消費先として農家カフェSIESTAをオープン。『クローズアップ現代』(NHK)などテレビ出演多数。早稲田大学招聘研究員。
地域再生に取り組むことになったきっかけ
私が今日のように農業や自然エネルギーを組み合わせて、地域の再生、地方創生を事業として行うに至る大きなきっかけは東日本大震災と原発事故でした。正直に書けば、私は環境も農業も好きではありませんでした。自分で農業をやっていることが不思議なくらいです。また原発事故が起きるまで、日本のエネルギーの問題についてまともに考えることもありませんでした。
あの震災が起きた時「人生は何が起こるかわからない」「いのちは時間だ」そんな思いを強く抱きました。自分がこの世の中に生を受けて、何をするために生まれてきたのか?そんなことを考えた時、農業や自然エネルギーの事業を持続可能な状態にすることが自分がやるべきことだと思ったのです。
日本の農業の危機的な状況
日本の耕作地は現在約400万haといわれています。そのうちの約42.5万haが耕作放棄地。神奈川県小田原市の耕作放棄地も年々増加し178haです。農家の平均年齢は約68歳。農業人口に至っては統計の取り方の問題もありますが122万人で、いよいよ100万人を割り込む状況が見えてきています。また、日本の食料自給率はカロリーベースで38%、東京都は統計を取って以来初のゼロ%、神奈川県も2%という散々な数字となっています。
農家を取り巻く状況は収入面でも決して楽ではありません。私は米を作っています。半年間、懸命に働いても300坪からとれる米は10万円にもなりません。こうした農業の現実を知ってしまった時、私は30代半ばでした。こうなってしまった責任は僕たちにもある。ならば、責任世代といわれている僕ら世代が農業を持続可能な状態にして次の世代に継承させなければ一体、地域やこの国はどうなってしまうのか?そう思ったのです。
おひるねみかんプロジェクトの取り組み
農業も農薬や除草剤や肥料を使わない自然栽培をやろう。そして、みかんをみかんのままで売らないで6次産業化してジュースにして販売しよう。耕作放棄地は“おひるね” していた畑だと捉えて、その活性化をすることで負債を資産に変えよう。
こうして2013年の暮れから始まった「おひるねみかんプロジェクト」は10年目を迎え、近隣の箱根の有名ホテル、星野リゾート 界 箱根さんや塔ノ沢温泉 鶴井の宿 紫雲荘さんなどでも取り扱われています。
100%自然栽培米・自然エネルギーで作る日本酒
もう一つの取り組みが農業と自然エネルギーを組み合わせるソーラーシェアリングです。ソーラーシェアリングとは、太陽の光を発電と農業でシェアをすることからこうした名前が付けられています。現在5基の発電所を運営しています。水稲のソーラーシェアリングは神奈川では私どもだけの取り組みです。
そこで作られた自然栽培米は地元で寛政元年(1789)創業の井上酒造さんに持ち込んで日本酒にしています。同時にこの水稲ソーラーシェアリングで作られた太陽光の電気を同酒造に送っています。100%自然栽培米・自然エネルギーで作られた日本酒はおそらく世界でこの日本酒しかないと思います。
SDGsの12番に「つくる責任、つかう責任」という項目があります。これからは生産者も地球に負荷をかけないように商品を作るべきであり、消費者もそうした商品を積極的に選択することが当たり前になる社会になってほしい。そんな願いを日本酒の銘柄『推譲』という言葉に込めました。推譲とは小田原が生んだ郷土の偉人二宮尊徳の言葉で、「儲けが出たならばそれを今の自分のために使うのではなく、将来の自分のため、そして、広く社会のために使うべきである」という意味です。行動の質を決めていくという点でとても重要な言葉であると思っています。
発電した電気を自分が運営するカフェに
さらに、自分で作った電気を物理的に離れた自分の運営する施設に届けるというオフサイト型PPA自家消費モデルのソーラーシェアリングにも日本で初めてチャレンジしました。いわばFIT(固定価格買取制度)に依存しない形の発電形態をつくるべく、おひるねみかんプロジェクトで伝えたかった思いと価値を共有する場として、農家カフェSIESTAを21年の1月にオープンしました。そこに同時期に建設したソーラーシェアリングから既存の送電線を使って電気を届けました。この手法は電気代高騰の現在、それを緩和する切り札として、多くの事業者が取り組みを始めるまでになりました。
「食エネ自給」のススメ
原発事故やコロナ、ウクライナ問題は、私たちに人間の生存に必要なものはできるだけ自分の手元足元に留めておくことの重要性を教えてくれたように思います。地域が地域であるためには、地域で自給できるものをできうる限り自給する取り組みを推進する方がしなやかで魅力的な地域を創ることができる。地域の外に出ているお金を地域内に留め、地域で経済を回すことこそ究極の地域経済活性化策との思いから「食エネ自給」のまちづくりを推進しています。
「地域再生を考える」編集委員会
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進むサステナブルな団地・まちづくり -
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団地再生支援協会
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日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある -
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