文化を纏うという選択肢 ~使われなくなった素材でつくるスカート~
- 大河内 愛加 さん/ディレクター・デザイナー
- 1991年、横浜市出身。株式会社Dodici代表取締役。15歳でイタリア・ミラノに移住。 ヨーロッパ・デザイン学院(IED)ミラノ校 広告コミュニケーション学科卒業。 2016年2月に、ブランドrenacnatta(レナクナッタ)を立ち上げ、日本とイタリアのデッドストックや伝統工芸品などの素材を組み合わせたアイテムを展開している。現在は日本とイタリアの2拠点生活。
https://www.renacnatta.com
文化がふつうにある暮らしを、もう一度。
15歳でイタリアに渡り、私は10年以上を向こうで過ごしました。1800年代に建てられたアパートメントに暮らし、通っていた学校の横には3世紀から残る教会。週末は美術館でルネッサンスの絵画を眺める。
そんな、「変わらずそこにあり続けるもの」に囲まれた日常が、私の中にひとつの感覚を育ててくれました。文化や美意識は、特別なものではなく、暮らしの一部として自然にそこにあるもの―。無理に”守る“のではなく、意識せずとも”息づいている“ような状態こそが、本当に豊かなかたちなのではないか。
そうした思いが、私のブランド「renacnatta(レナクナッタ)」の出発点です。
使わ”れなくなった“ものから、始まる物語
2016年にミラノで立ち上げたrenacnattaは、「文化を纏う」をコンセプトに、日本とイタリアの生地を裏表に組み合わせたリバーシブル巻きスカートを展開しています。
使っているのは、日本で仕入れたヴィンテージの着物地と、イタリアのハイブランドのデッドストックシルク。どちらも、それ自体に価値があるにもかかわらず、さまざまな理由から行き場を失ったテキスタイルです。そんな布たちを、もう一度主役にしたい。本来なら出合うことのなかった素材が出合い、新しい美しさを宿す瞬間を、renacnattaは大切にしています。
ブランド名の「renacnatta」は、「使わ”れなくなった“」という言葉から生まれました。名もなき布地たちが再び光を浴び、日本とイタリア、それぞれの文化を纏う1着として生まれ変わる―。それがrenacnattaのものづくりです。
モノの向こうにある、人と文化のこと
renacnattaの活動は、ただ”モノをつくる“だけにとどまりません。布の背景にある文化や職人の技術、受け継がれてきた手仕事を、現代の感覚で再び身近なものにしていく。そのために、ワークショップや工房見学、職人との対話などを通して、「背景にある物語」に触れる場づくりも行っています。
誰かの暮らしのなかに、文化との小さな接点がひとつ増える。そんな時間が積み重なっていけば、文化はきっと自然なかたちで未来へ残っていくと信じています。
この先も、残るべきものが、残っていくように
私はこの先もずっと、価値が変わらず残るべきもの、そしてそれを残すことのできる人たちが、生き生きと働ける世界を見ていたい。そんな思いに共感してくださる方が少しずつでも増えたら―。その願いを胸に、日々ブランドを続けています。
すでにあるものに、もう一度目を向けてみる。そこに眠る美しさや力を信じて、今の時代に合ったかたちでよみがえらせていく。1着のスカートから、そんな未来が始まるかもしれません。一緒に”文化を纏う“という選択をしてみませんか。
纏うことから、文化を未来につないでいけたら―。それほどうれしいことはありません。
(無断転載禁ず)