連載コーナー
本音のエッセイ

2025年11月掲載

携帯トイレ、備えていますか?

加藤 篤さん/日本トイレ研究所  代表理事

加藤 篤さん/日本トイレ研究所 代表理事
まちづくりのシンクタンクを経て現職。災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、子どもたちにトイレやうんちの大切さを伝える出前授業などを展開している。著書に『トイレからはじめる防災ハンドブック』等。
 

大きな災害が起きると、人はまず水や食料の心配をします。しかし、私が繰り返し現場で見てきたのは「トイレの問題」です。

阪神・淡路大震災では、断水で水洗トイレが使えなくなり、避難所のトイレはあっという間に不衛生な状態に陥りました。東日本大震災でも「避難所で最も困った設備」としてトイレが挙げられています。排泄は待ったなしで、数時間で対応を迫られる現実があります。

マンションで暮らす人にとっても、これは他人事ではありません。上下階がつながる排水管に無理に水を流せば、詰まりや漏水、逆流することもあります。つまり、断水時に自宅の水洗トイレを使うことはできないのです。

ここで欠かせないのが「携帯トイレ」です。自宅の便器に袋を取りつけて使うもので、凝固剤や吸収シートで大小便を固め、一定期間、衛生的に保管します。災害直後は仮設トイレがすぐに届くとは限らず、まず自宅でしのぐ時間が生まれます。その最初の数日を支えるのが携帯トイレです。仮設トイレ等が設置されたとしても、夜間や悪天候時に外のトイレに行くのは大変です。

トイレが使えないと、人は水分を控えがちになります。その結果、脱水症やエコノミークラス症候群、誤嚥(ごえん)性肺炎といった命に関わる問題が起きます。安心して使えるトイレがあることは、命を守ることに直結するのです。

備えとしては、ひとり1日あたり5回分、最低でも3日分。つまり15回分が必要です。できれば1週間分を準備してください。最近はネットなどで多くの携帯トイレが販売されています。しっかり吸収する能力があるものを備えていただきたいので、日本トイレ研究所では性能評価を実施し、その結果をホームページで公開していますので、参考にしてください。

使用済みの携帯トイレを入れるフタ付き容器や、アルコール手指消毒やウエットティッシュも一緒に備えると安心です。

私は多くの被災地を訪れ、そのたびに「もっと早く、もっと多くの人にトイレの備えを伝えなければ」と痛感してきました。トイレは決して後回しにしてよいものではありません。水や食料と同じように、命を守るライフラインだからです。

マンションの自宅で避難生活を送ることを想定して、まずは携帯トイレをトイレ内に置いたり、防災セットに加えてください。その小さな備えが、災害時に自分と家族を守る大きな力となります。

(無断転載禁ず)

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