全国1万2000の湖沼を歩く~手描きで挑む『ニッポン湖沼図鑑』づくり~

- 市原 千尋/湖沼文化研究家
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現在、全国1万2000の湖沼を踏破しデータベースに
子どもの頃は父の転勤により全国を2年ごとに転々とする日々。そんな地方の生活で出会ったのが、釣り。新天地にはいつも池があった。
中学生になるとより遠くの池に行きたくなって、深夜に1人、自転車にまたがり、まだ見ぬ未知の池へと繰り出しては心躍らせた。釣りがしたくて向かった池だったが、次第に「池そのもの」への興味が高じ、飽きもせず追いかけるうちに、池のデータベースを作ってブログで発信することを思いついた。
湖沼のデータベース作りは釣りに劣らず楽しかった。池を求めて、日本全国を駆けめぐった。でもやればやるほど、果たしてデジタルではどうかなあという気持ちに。50年、100年、300年たって、たとえ地球が石器時代に戻ったとしても、後世の人たちが「日本の湖沼ってすごかったんだ」と思えるような図鑑―誰かが無人島、シェルター、火星、避難所に持っていきたくなる、そんな『ニッポン湖沼図鑑』を今こそつくっておきたいと思うようになった。
湖沼の知られざる魅力を伝えたい
とはいえ、湖沼の図鑑づくりは想像以上に難しかった。日本にいまだ全国を網羅した湖沼図鑑がないのが不思議だったが、やり始めて分かった。動物図鑑なら与えられた1ページのなかで、その生き物の多くをシェアできる。もちろん、イメージ画や写真も添えて、見やすく、そしてアカデミックに。しかし動物と比べてはるかに大きい湖沼の場合、その全貌を一体どのようにして数センチ角のスペースに押し込めるんだろう?美しい絶景写真を何枚も並べたところで、それは湖沼のある一瞬の一面にすぎない。湖沼の真の魅力は別のところにある。
一つ一つの湖沼の全貌を捉えつつ、構造や設備、人と関わってきた歴史、産業から動植物のゆりかごとしての自然環境までが一目で分かる、そんな図鑑がどうやったら実現できるのか…。「模型のような鳥瞰図(ちょうかんず)」という答えに行き着くのに、何年もかかった。
掲載する湖沼の選定も前例がないので苦労した。自分の目で見てきた全国1万2000の湖沼から、日本を代表する46湖沼を筆頭に、その土地土地で特に大切にされてきた池、ユニークな特徴を持つ池や消失した古代湖なども候補に入れた。
湖沼はすべて手描きで鳥瞰図にし、文字に至るまですべて手書き。将来、もしパソコンやネットワークがなくなったとしても、生きている限り図鑑を成長させていきたい。
多くの人が知っている代表的な湖沼さえ、じつは意外な裏ネタや怖い伝説の宝庫。そんなところまで伝えることができたら。
引きこもっても刺激たっぷりのマンション暮らし
住んでいるマンションからは山、海、川を遠景に、足もとの町並み、鉄道、行き交うクルマ、歩く人なんかがよく見える。行き詰まった時、外の景色を見れば何かしら気づきがある。不思議な雲の形、毎日変わる海の色、四季の木々。それらは鳥瞰図を描くうえでどれも欠かせない。
そして階段。遠征時以外はほとんど外出せず、部屋で図鑑づくり。買い物も週末だけ。でもひとたび池調査の遠征に出れば、飲食も惜しんで連日の池渉猟(しょうりょう)。山を越え、池を目指して1日歩いても、肝心な池を拝めず現地で落胆することも。それだけに遠征時以外の生活では、マンションの階段だけが唯一の運動。新聞を取りに下りては上り、ゴミを捨てたらまた上り、クルマへの機材の積み下ろしも大型リュックを背負って階段で。そして机に向かったら、図鑑、また図鑑―そんな毎日を過ごしている。
今後の世界的展望
日本国内は離島に至るまで津々浦々、池をめぐってきたものの、実はこれまで一度も日本の外に出たことがない。今手がけている湖沼図鑑が一段落したら、海外にある想像もつかないスケールの湖沼を見てみたい。
そして次は、『世界湖沼図鑑』に着手したい。今はそれが、ぼくの将来の夢だ。
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