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私の体験

2026年7月掲載

全国1万2000の湖沼を歩く~手描きで挑む『ニッポン湖沼図鑑』づくり~

市原 千尋/湖沼文化研究家

市原 千尋/湖沼文化研究家
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水辺遍路ブログ
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現在、全国1万2000の湖沼を踏破しデータベースに

子どもの頃は父の転勤により全国を2年ごとに転々とする日々。そんな地方の生活で出会ったのが、釣り。新天地にはいつも池があった。

中学生になるとより遠くの池に行きたくなって、深夜に1人、自転車にまたがり、まだ見ぬ未知の池へと繰り出しては心躍らせた。釣りがしたくて向かった池だったが、次第に「池そのもの」への興味が高じ、飽きもせず追いかけるうちに、池のデータベースを作ってブログで発信することを思いついた。

湖沼のデータベース作りは釣りに劣らず楽しかった。池を求めて、日本全国を駆けめぐった。でもやればやるほど、果たしてデジタルではどうかなあという気持ちに。50年、100年、300年たって、たとえ地球が石器時代に戻ったとしても、後世の人たちが「日本の湖沼ってすごかったんだ」と思えるような図鑑―誰かが無人島、シェルター、火星、避難所に持っていきたくなる、そんな『ニッポン湖沼図鑑』を今こそつくっておきたいと思うようになった。

湖沼の知られざる魅力を伝えたい

とはいえ、湖沼の図鑑づくりは想像以上に難しかった。日本にいまだ全国を網羅した湖沼図鑑がないのが不思議だったが、やり始めて分かった。動物図鑑なら与えられた1ページのなかで、その生き物の多くをシェアできる。もちろん、イメージ画や写真も添えて、見やすく、そしてアカデミックに。しかし動物と比べてはるかに大きい湖沼の場合、その全貌を一体どのようにして数センチ角のスペースに押し込めるんだろう?美しい絶景写真を何枚も並べたところで、それは湖沼のある一瞬の一面にすぎない。湖沼の真の魅力は別のところにある。

一つ一つの湖沼の全貌を捉えつつ、構造や設備、人と関わってきた歴史、産業から動植物のゆりかごとしての自然環境までが一目で分かる、そんな図鑑がどうやったら実現できるのか…。「模型のような鳥瞰図(ちょうかんず)」という答えに行き着くのに、何年もかかった。

掲載する湖沼の選定も前例がないので苦労した。自分の目で見てきた全国1万2000の湖沼から、日本を代表する46湖沼を筆頭に、その土地土地で特に大切にされてきた池、ユニークな特徴を持つ池や消失した古代湖なども候補に入れた。

湖沼はすべて手描きで鳥瞰図にし、文字に至るまですべて手書き。将来、もしパソコンやネットワークがなくなったとしても、生きている限り図鑑を成長させていきたい。

多くの人が知っている代表的な湖沼さえ、じつは意外な裏ネタや怖い伝説の宝庫。そんなところまで伝えることができたら。

引きこもっても刺激たっぷりのマンション暮らし

住んでいるマンションからは山、海、川を遠景に、足もとの町並み、鉄道、行き交うクルマ、歩く人なんかがよく見える。行き詰まった時、外の景色を見れば何かしら気づきがある。不思議な雲の形、毎日変わる海の色、四季の木々。それらは鳥瞰図を描くうえでどれも欠かせない。

そして階段。遠征時以外はほとんど外出せず、部屋で図鑑づくり。買い物も週末だけ。でもひとたび池調査の遠征に出れば、飲食も惜しんで連日の池渉猟(しょうりょう)。山を越え、池を目指して1日歩いても、肝心な池を拝めず現地で落胆することも。それだけに遠征時以外の生活では、マンションの階段だけが唯一の運動。新聞を取りに下りては上り、ゴミを捨てたらまた上り、クルマへの機材の積み下ろしも大型リュックを背負って階段で。そして机に向かったら、図鑑、また図鑑―そんな毎日を過ごしている。

今後の世界的展望

日本国内は離島に至るまで津々浦々、池をめぐってきたものの、実はこれまで一度も日本の外に出たことがない。今手がけている湖沼図鑑が一段落したら、海外にある想像もつかないスケールの湖沼を見てみたい。

そして次は、『世界湖沼図鑑』に着手したい。今はそれが、ぼくの将来の夢だ。

  • 「北海道三大秘湖」の一つ、東雲湖。機材と釣具を背負って登山でアタック。ここは霧が多く、三度目のアタックでやっと出会えた。これまで空撮した湖沼は1200に及ぶ

    「北海道三大秘湖」の一つ、東雲湖。機材と釣具を背負って登山でアタック。ここは霧が多く、三度目のアタックでやっと出会えた。これまで空撮した湖沼は1200に及ぶ

  • 7年に一度、静岡県の池から長野県の諏訪湖に行く龍がここで休息する時だけ現れるという幻の池「池の平」。2020年、登山の末、9年ぶりの出現に立ち会うことができた

    7年に一度、静岡県の池から長野県の諏訪湖に行く龍がここで休息する時だけ現れるという幻の池「池の平」。2020年、登山の末、9年ぶりの出現に立ち会うことができた

  • 図鑑用に作成した鳥瞰図の一つ。模型のような図とすることで、地形や水の流れを分かりやすく示しつつ、その土地の伝説なども織り込んでいる

    図鑑用に作成した鳥瞰図の一つ。模型のような図とすることで、地形や水の流れを分かりやすく示しつつ、その土地の伝説なども織り込んでいる

(無断転載禁ず)

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