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地域再生 -地域再生を考える-

地域再生を考える 第23回

肝高(きむたか)スピリッツを世界に!
子どもが主役の舞台でマチ再生の軌跡

平田 大一さん

沖縄文化芸術振興アドバイサー
平田 大一さん

1968年沖縄県生まれ。舞台「肝高の阿麻和利(2000年)」演出を機に「沖縄県文化観光スポーツ部長(2011年)」就任。「(公財)沖縄県文化振興会」理事長を経て現職に。文化に軸足をおいた地域活性化のトップランナーとして挑戦を続ける。52歳。


「現代版組踊」誕生

「舞台ではなく人をつくる」がコンセプト。地元の中高校生が演じる「肝高の阿麻和利」
(提供:あまわり浪漫の会)
「舞台ではなく人をつくる」がコンセプト。地元の中高校生が演じる「肝高の阿麻和利」 (提供:あまわり浪漫の会)

 沖縄本島中部の東海岸に位置するうるま市で20年近く続く舞台がある。2000年3月の初演から公演回数334回、のべ観客動員数19万2945人を数える「現代版組踊肝高の阿麻和利(げんだいばんくみおどりきむたかのあまわり)」だ。15世紀半ばに活躍した勝連城10代目城主「阿麻和利王」を軸に、地元の中高校生100人余りが演じる歴史劇である。

 「肝高」とは沖縄の古語で「誇り高い」の意味。琉球古典劇の様式「組踊」を現代的にアレンジした演出は「現代版組踊」と呼ばれ、音楽、踊り、演技が絶妙のバランスで構成された「沖縄版ミュージカル」とも称される。

 2019年には、念願の東京国立劇場公演も実現し大成功を収めた。問題行動が多かった子どもたちがみるみる輝き成長する姿から「奇跡の舞台」との呼び声も高い。

 初演から演出家として関わり、今はまた新たに大きな取り組みの渦のど真ん中で一連の動きに携わる僕自身の目線で、この活動のリアルを紐解きたい。

逆賊から英雄に

女性アンサンブルの躍動感あふれるダンスは琉球舞踊がベースに。笑顔がはじける(提供:あまわり浪漫の会)
女性アンサンブルの躍動感あふれるダンスは琉球舞踊がベースに。笑顔がはじける(提供:あまわり浪漫の会)

 琉球の歴史上で阿麻和利は「王府に立て付いた“逆臣・逆賊”」と記録され、これが通説とされてきた。長い年月蝕んできた「逆臣あまわり」の言い伝えからか、地域を語れず郷土の偉人を誇れず、加えて極東最大ともいわれる米海軍基地ホワイト・ビーチが地域振興に影を落とし…行政も地域も突破口が見いだせずにいたその時、「郷土の偉人を演じることで地域を元気にしたい!」と企画し提案したのが旧勝連町の上江洲安吉教育長(故人)その人であった。

 「民から慕われた阿麻和利王の真実を世に問いたい。平田さん!逆賊あまわりを、英雄に仕立ててほしい!」まだ30代そこそこの若い演出家である僕に舞台制作の全てを依頼してきたのである。

難航した舞台づくり

劇中の音楽もすべて子どもたちが担う
劇中の音楽もすべて子どもたちが担う

 当初、上江洲教育長のこの提案に賛同する者は少なく、舞台稽古の参加児童もわずか7人で始まった。教育委員会の無茶ぶりに積極的でない学校現場、稽古場への送迎が大変だと抗議する保護者、沖縄の高尚な伝統芸能「組踊」を子ども主体での成功に困難視する委員会職員、その思いの矢面に立たされ僕は期待の大きさに身震いし、俄然(がぜん)やる気になった。

 自ら稽古場への送迎バスを運転し参加者を増やし、ゲームや遊びをふんだんに取り入れたユニークな稽古内容で子どもたちのやる気を引き起こし、3カ月後の本番当日には出演者150名を集めた。本番観客も2日間で4200名余りという大盛況ぶり。勝連城跡特設ステージに駆けつけた大勢の大人たちの声援と拍手を受けた舞台上の子どもたちの達成感からの大号泣。その嵐の中で、上気した顔の上江洲教育長が「平田さん!これが本当の教育です!道徳とは感動体験の異名なんだ!」と豪語した。

 難航した舞台づくり。だがこの初年度のエネルギーが20年間ロングランを続け、やがてこのマチを再生させる原動力となっていったのである。

持続可能な取り組み

舞台立ち上げの恩師上江洲先生の仏前にて国立劇場公演成功のご報告に。長男安邦さん(左)あまわり浪漫の会長谷川会長(左から2人目)と一緒に(2019年8月)
舞台立ち上げの恩師上江洲先生の仏前にて国立劇場公演成功のご報告に。長男安邦さん(左)あまわり浪漫の会長谷川会長(左から2人目)と一緒に(2019年8月)

 初演から20年。市町村合併など時代の荒海の中も継承されてきた活動は、世代交代を繰り返しながらも「舞台を通じた人づくり運動」として「現代版組踊推進協議会」が設立され、今や全国16カ所に拡大、大きな展開を見せている。また、子どもたちが地元の歴史を「追体験」し生まれたマチを誇りに思う感動教育を行う…。これらの手法は「きむたかメソッド」と呼ばれ全国の教育関係者からの問い合わせや見学者も多い。

 僕自身は2011年、県要職の就任に伴い舞台演出全てを教え子たちに委ね現場を離れた。また2018年に92歳で逝去された上江洲教育長の意思は後進に引き継がれ「あまわり浪漫の会」と呼ばれる保護者中心の運営組織に加え、舞台卒業生で構成する「一般社団法人TAO Factory」が事業の継続的制作を担い、今も「自主財源確保」と「子どもが主役」を合言葉に活発な活動が展開されている。

 何よりうれしいことは最近の歴史書に「…近年に至っては阿麻和利英雄説が唱われ始めている」の一文が加わってきたことだ。無名な子どもたちによる歴史変革のうねりはこの20年の最も大きな成果である。

新たな展開をみせる活動

勝連城跡周辺整備事業。子どもたちの舞台が軸となって、うるま市の地域再生を掛けた取り組みがダイナミックに展開されつつある(提供:うるま市)
勝連城跡周辺整備事業。子どもたちの舞台が軸となって、うるま市の地域再生を掛けた取り組みがダイナミックに展開されつつある(提供:うるま市)

 現在「肝高の阿麻和利」の活動と地域のつながりは新たな局面を迎えている。うるま市が進める「勝連城跡周辺整備事業」が本格的に始まり、2019年、僕はそのプロジェクトの総合プロデューサーに就任した。世界遺産である勝連城跡周辺の環境を整備し、2021年の歴史文化施設「(仮称)きむたかミュージアム」開館をはじめ、うるま市の周遊型観光ターミナル機能を持った地域特産物の拠点「物販・飲食施設」を併設、そしてプロジェクトの最終目標として阿麻和利の時代を体感できる「勝連城跡公園一帯の整備」が見事完了し、宿泊施設まで誘致するという、一大事業が始まっているのである。

 連動して阿麻和利舞台の本拠地「きむたかホール」の機能強化事業も決まり「現代版組踊専用劇場計画」も現実味を帯びてきた。目指すは「肝高スピリッツを世界に!」である。

 コロナ禍に挑み、2021年新春には勝連城跡の野外舞台「肝高の阿麻和利勝連グスク公演」も計画された。先行き不透明な未来は今も昔も変わらない。大海原に乗り出した誇り高き「きむたかの船」は官民連携の新たなチャレンジに臨み、この国の考えるはるか先を見据えた大いなるフロントランナーとして大航海を続ける。

「地域再生を考える」編集委員会

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