Ms Wendy

2021年1月掲載

金メダルを取る人は何が違うのか?取った今でも分かりません(笑)

高橋 礼華さん/元バドミントン日本代表

高橋 礼華さん/元バドミントン日本代表
1990年奈良県生まれ。6歳からバドミントンを始め、中学から親元を離れ聖ウルスラ学院英智中学校へ入学。高校時代に1年後輩の松友美佐紀選手とのペアでインターハイ団体、ダブルスの2冠達成。2009年に日本ユニシスへ入社、引き続き松友選手とのダブルスでヨネックスオープン優勝をはじめ世界の大会で活躍、日本人初の世界ランキング1位を長く維持した。16年リオデジャネイロ五輪で日本バドミントン史上初の金メダル獲得など数々の金字塔を打ち立て20年現役を引退。
中学から強豪校で寮生活

両親と妹の4人家族で奈良県橿原(かしはら)市で育ちました。バドミントンとの出合いは小学校1年生のとき。地域のママさんバドをやっていた母の練習についていったのがきっかけです。

体育館で妹やほかの子どもたちと一緒にラケットを持って遊んでいるうち「私もやりたい」と母に頼み、地域のジュニアチームで本格的に練習するようになりました。

練習は毎日、夜6時から9時くらいまで。それまではスイミングなどもやっていたのですが、4年生からはバドミントン一本にしぼって練習するようになりました。

当時、母はバドミントンのコーチでもあったのですが「自分のことは自分でやりなさい」という方針でした。全国大会に出場するようになると地方遠征があるのですが、もし忘れ物をしても自己責任(笑)。父は野球をやっていた人なので礼儀やあいさつ、周囲への感謝といったことには厳しかったです。

卒業文集には「バドミントンでオリンピックに出たい」と書きましたが、小学生なので大きな試合といったらオリンピックしか知らないのです。だから本気で「世界と戦いたい!」とか、そこまで重く感じてはいなかったと思います。

中学校進学にあたっては、小学生の大会で全国優勝をしたことがあったので、4、5校から声をかけていただきました。その中で私が希望したのは、宮城県の聖ウルスラ学院英智。中高一貫校で、寮生活になる不安もありましたが、憧れの強い選手がいる環境で頑張りたかったので自分で決めました。

練習はきついだろうけど楽しみ、という気持ちで入学しましたが、実際「日本で一番練習がきつい」といわれていたバドミントンの練習はもちろん、寮生活も勉強も本当に厳しくて、慣れるまでは大変でした。

目標が定まったロンドン五輪

私が高校2年生のとき、1学年下の松友(美佐紀選手。徳島県出身)が入ってきました。小学校時代から試合で顔を合わせていたので知らない仲ではありませんでしたが、まさかパートナーになるとは思っていませんでした。松友とは先輩後輩の関係なので、意見がぶつかることはほとんどありませんでしたね。その後、私が卒業してからも日本代表ペアとして試合をしていたので「タカマツペア」は私が高校2年生から引退まで、14年にわたって続いたことになります。

ロンドン五輪は私が22歳の時でした。当時私たちは事実上、国内の4番手。もちろん五輪出場を目指して頑張ってはいましたが、もし出られたとしてもメダルは無理だと思っていました。でも、そのロンドン五輪で藤井(瑞希)さんと垣岩(令佳)さんのペアが銀メダルを取った試合を見て、「次は私たち」という具体的な目標ができました。

リオで叶えた夢

ロンドン五輪が終わった瞬間から、私たちはリオの金だけを目標にやってきました。ただ「メダルが取れればいい」ではなく、まだ出場権が取れているわけでもないのに「リオでは私たちが金メダルをとる!」という思いで戦っていました。

もちろんずっと勝ち続けていたわけではありませんが、その4年間はすごく濃かったと思います。2016年に実際にリオ五輪を迎えたとき、「思い描いていた場所にやっと来ることができた」と思いました。オリンピック自体が初めてでしたし、「人生最初で最後のオリンピックになるかもしれない」と思い、リオに入ってからは金メダルを取りたいと言うよりも「まずはオリンピックという大会を楽しもう」という思いで試合に臨みました。

今だから分かる自分たちの強み

フィギュアスケートの羽生結弦選手やレスリングの吉田沙保里さんなどを見ていて「金メダルを取る人たちは何が違うのだろう?」と、ずっと思っていました。

実際に自分が金メダリストになってみたらその秘密が分かるのかなと思いましたが、まったく分かりませんでしたね(笑)。私は多分、他の人と同じような練習しかやってこなかったと思います。でも、もしも私に何か他の人と違うところがあったとしたら、その「当たり前」を、手を抜かずに10年間続けられたことかなと思います。

私は代表に入って10年間、ケガで休むことなく選手を続けられました。私と松友は、二人ともきつい練習にもへこたれないし体も強い。代表監督から「ケガをしないことが強みだよ」と言われていましたが、当時は「それって普通のことだよね」と思っていて、それが自分たちの武器だとは思いもしなかったのです。

でも、引退してから現役選手を見ていると、そんな人はあまりいないのです。私から見ると「どれだけ痛いところを抱えて試合に出ているんだろう?」と思うくらいです。今になって「これが監督が言っていたことなんだ。ケガをしないで試合を続けられたって、すごいことだったんだ」と分かりました。

バドミントンを一番に考え行動した

そして「練習で手を抜かない」ということで言えば、私だけでなく松友もそうでした。ダブルスは二人が同じ気持ちでいないと、結果を出すのは絶対に無理です。

むしろ、松友は私よりも練習も手を抜かずにやるし、自主練もすごくたくさんやる選手です。私たちはお互いがバドミントンを一番に考えて行動しましたし、地味で当たり前のことをコツコツやってきました。それをどこかでバドミントンの神様が見ていてくれたのかなと思います。

すべてやり切って悔いなし

リオ五輪が終わったときに現役を引退することも考えました。でも、4年後に東京五輪が控えていたこともあって、そう簡単には辞められないということも分かりました。現役を続けるからには、オリンピックを目指さないと意味がないと思い、すごく悩みました。

もともと東京五輪に出られなければそこで引退するつもりでしたから、リオ五輪後は「早ければ東京大会の代表が決まる2020年4月末まで、長くても8月末の大会終了まで」というのが自分のイメージでした。

ところが東京五輪が1年延びることになって、その発表を聞いたとき、1年後に自分がバドミントンをしている姿がまったく想像できなかったのです。それで「もう私はすべてやり切ったんだな」と思いました。

バドミントンで叶えたかった夢も叶えられたし、このタイミングで引退することに全く悔いはありませんでした。たとえ少しでも悔いがあったら、多分辞めていないと思います。

お笑いで気分転換

自粛期間中は、自宅でお笑い芸人さんの YouTubeを見ることにハマっていました。私はお笑いがすごく好きで、選手時代も遠征中の飛行機の中や待ち時間中によく動画で気分転換をしていました。相方の松友もお笑い好き。遠征中のホテルの部屋では二人で「見てみて、これ笑える!」と教えあったりして、めっちゃ笑っていました。

現役時代、練習が休みになるのは日本にいるときは日曜日、海外遠征のときは帰国した翌日の1日だけでした。自由に過ごせる貴重な時間なので美容院やネイルの予約を入れたり、友達と会ったり、買い物をしたり、外で過ごすことが多かったですね。1日中家でダラダラするのが得意ではなく、すぐ表に出たいと思ってしまうタイプです。

前を向いてポジティブに

8月末に引退してからは、テレビ出演や地方でのバドミントン教室など、いろいろなお仕事をさせていただいていますが、今後は子どもたちに自分が経験してきたことを伝えていきたいと思っています。ジュニアチームに所属して技術の指導をするというよりも、もっと幅広く、いろいろな子どもたちと触れ合う機会を作って、バドミントンの楽しさを広める活動をしていきたいですね。

それ以外に挑戦してみたいのが飲食業です。私はカフェが好きでよく行くのですが、自分でプロデュースしたカフェメニューをバドミントン観戦のお客さんにキッチンカーで提供できたら楽しいだろうなと思っています。

バドミントン界も、今は予定されていた試合がほとんどできない状況です。でも、私は現役時代からすごく前向きでポジティブな性格だったので、これからも前向きに生きるしかないと思っています。今後は試合で皆さんを勇気づけることは難しいかもしれませんが、お互いに前を向いて、毎日を生きていきましょう。

(東京都千代田区にある事務所の一室にて取材)

  • 幼少期、父と妹と。右が本人

    幼少期、父と妹と。右が本人

  • 小学生の頃に出場した大会。この頃から本格的にバドミントンを始めた。右が本人

    小学生の頃に出場した大会。この頃から本格的にバドミントンを始めた。右が本人

  • 小学校6年生のとき。全国大会での優勝を経験し、さらにバドミントンへのめり込む

    小学校6年生のとき。全国大会での優勝を経験し、さらにバドミントンへのめり込む

  • 現役時代。16歳から引退するまでペアを組んだ松友美佐紀選手(右)と

    現役時代。16歳から引退するまでペアを組んだ松友美佐紀選手(右)と

  • 現役時代。試合中は声を掛け合うより「黙ってプレイで助ける」ことを心がけたという

    現役時代。試合中は声を掛け合うより「黙ってプレイで助ける」ことを心がけたという

  • (なし)

(無断転載禁ず)

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