Ms Wendy

2013年2月掲載

規則正しく健全な生活が、脳と上手に付き合うコツです

中野 信子さん/脳科学者

中野 信子さん/脳科学者
1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳科学者、医学博士。フランス原子力庁で研究員として勤務後、脳科学についての研究と執筆活動を行う。著書『世界で通用する人がいつもやっていること』(アスコム発行)ほか。「音楽と脳」「恋愛と脳」「香りと脳」など、脳科学の基礎をふまえつつ、従来にないような分析も得意。世界の上位2%のIQ所有者のみが入会を許される団体MENSAに所属。
工学部を経て本来やりたかった脳科学に進みました

今、私は脳科学を専門に研究していますが、大学は工学部でした。脳について勉強する前に、まずベーシックな部分をきちんと修めてからにしたかったんですね。その後、大学院は医学系研究科を受けました。精神科にも興味があったのですが、健康な人を対象にした学問をしたかったし、なおかつ心理学ではなく生理的なこととなると脳科学になるんです。

脳は心理学とは隣接領域ですが、科学的な部分で立場の違いがあります。心理学は理路整然としていますが、心理学では「ある」とされることが実は、自然科学ではそうは言えない部分がある。例えば、ユングの集合的無意識というのは、ユング派の人たちにとっては「ある」ことが前提になりますが、自然科学の世界では、まだ脳にユングのいう集合的無意識があるということは実証されていないんです。

大家族の中で育まれた多彩な価値観

私が人間や科学的なことに興味を持つようになったのは、育った環境も大きく影響しているように思います。私の両親は4人姉妹だった母の実家に父が入る形で結婚したので、私が生まれたときには、すごくたくさんの大人がいたんです。

母が長女でしたから、私が初めての赤ちゃんで、皆が寄ってたかって、かまったんです(笑)。母のすぐ下の妹が面白い知育玩具を買ってきてよく遊んでくれたり、母の姉妹は3番目は音楽家、1番下はパティシエと、すごく多才な人たちで、そのころの非常に豊かな環境が、私の脳に良かったのかもしれません。情報も多く、いろいろな価値観があるということを幼いころから知ったのは良かったと思います。

その後、私が5歳のときに茨城に引っ越しました。そこでは小学校6年間を過ごしました。今、茨城は筑波研究学園都市のイメージもあり、都会的な感じもありますけど、昔はまだ田舎だったんですよ。学校へ行くのも4キロの道を毎朝1時間くらい歩いて通っていました。

山や田んぼといった自然環境に恵まれていたことが、理科系に興味を持つきっかけになりました。田舎には、植物がたくさん生えていますが、掛け合わせると花の色がどうなるか、などを実際に観察して「こうなってるんだ!」と発見する喜びを知ったり…。

また、アリが巣を作る様子をじっと観察するような遊びが好きでした。研究というのは、実はそれらの延長なんですよ。アリの巣がどうなってるのかな、と見るように、人間の脳ってどうなってるのかなと。

友達をつくるのが下手だったことが人間に興味を持つきっかけに

子どものころはあまり友達はいませんでした。体育でペアを組むときに自分は1番最後に残るような…。それがちょっと寂しかったですね。疎外感というより、溶け込めない感じがすごくありました。

ただ、その溶け込めない感じが人間に興味を持つきっかけになったと思います。中学生のころには、皆がどんどん仲良くなっていくのを見て、すごいなぁと。それは特別な能力のように思えて。勉強は教わったことをただ出すだけですから、自分の中から生まれてくるものではない。

でも、コミュニケーションというのは誰にも教わらないのに、自然にできるというのは、“すごい”と。半ばうらやましく焦る気持ちがありつつ、半ばそれを観察しながら、将来勉強してみたいと思ったりしていました。

大学に入ってからは、東大はちょっと変わった人が多かったので、自分も大丈夫なんだ、と安心しました。他人がそばにいてもずっと本を読んでいたり、授業のときに先生の話を遮ってまでどんどん質問する人がいたり。でも言ってることは理路整然としていて、ちょっとエキセントリックな感じがするユニークな人がたくさんいるんです。

本当は、作家の栗本薫さんとか聖飢魔Ⅱのデーモン小暮さんが好きだったので、早稲田大学に行きたかったんです。でも、私立は学費が高いので、私には国立しか選択肢はなかったんです。それに、東大にはユニークな先生や話の合う人がいそうでしたし、1番コストパフォーマンスが良いのではと思ったのです。

普通東大にはよほど頑張らないと入れないと思われているでしょう?でも、私はこんな風に考えていたんです。東大合格者は全学部で1学年に3000人いる。3000人受かるってことは全国で1番じゃなくていいってことですよね。3000番に入るぐらいの成績ならばいいんだと。この辺だったら大丈夫そう、みたいな感覚を持っていた方が安心感もあると思うんです。その点、私は要領良く、効率的にやろうと考えるタイプだったんでしょうね。

フランスの原子力庁での2年間でディベート力を鍛えられました

2008年から2010年まで、フランスの原子力庁サクレー研究所に勤務していました。原子力庁といっても、原子力を研究したわけではなく、脳科学の研究に従事していました。

脳の活動を見るために、かつてはMRI(磁気共鳴画像)がまだ開発されておらず、使えなかったため、PET(ペット、陽電子放射断層撮影)といって、体の中に放射性物質を注射して、その放射性物質が脳まで達したときにどこから使われていくのか、ということを見ながら脳の活動を計っていたんです。だから、放射線医学として発達してきたという経緯がある。それで、原子力庁と一緒に研究をしているんですよ。

原子力庁では、皆、活気にあふれて、伸び伸びと研究をしていました。どんなにバカバカしいと思える意見でも、取りあえず言ってみると、誰かが反応して面白い形になる可能性があるんです。その可能性を大事にしていて、ディスカッションすることで、広がっていくんですよ。

コミュニケーションが苦手だった私も、頑張って参加しました。白熱してくるとけんかみたいに見えるけど、そうじゃなくて、これはその状況を楽しんでいるんだと。日本でも、学校の授業でディベートの時間があるといいと思いますね。

脳も健全であるためにはちゃんとケアしてあげないと

脳は環境にも影響を受けやすいんですよ。フリンという人の研究にフリンエフェクト(Flynn effect、フリン効果)というのがあります。例えば、今の20歳の人は昔よりも栄養状態や経済状態が良くなって、情報がたくさん入るようになった。だから、20歳でも昔の30歳レベルの知識を簡単に入れることができて、それにより脳の発達が良くなり、知能も総体的に高くなったという考え方です。

脳も万能じゃないし、上手に使ってあげないと不調になります。脳も体の器官の内の1つですから、例えば、ダイエットをすると、脳も痩せちゃうんです。気分が落ち込んだり、ダイエットに成功したときは良くても、食欲を抑えたり増やしたりする機能を壊して拒食症になったり、リバウンドして食べ過ぎるようになったり。ダイエットをするときには、脳をうまくだましながらちょっとずつやるのがコツです。

脳をケアするには、まずちゃんと食べること。特にタンパク質。タンパク質は、必須アミノ酸という、脳の中で働く科学物質の原料になるんです。つまりこれがないと、脳の中でシグナルとして働く物質が出なくなってしまうので、イライラしたり攻撃的になったり、逆にヤル気がなくなったりということが起きてしまいがちなんです。

あと、規則正しい生活をすること。そして、日光を浴びること。これはセロトニンという物質の合成に役に立ちます。セロトニンはやる気と安心感の源になるものです。特に女性には出にくいんですね。男性が何でもないと思うようなことでも、女性はすごく不安に思う傾向があると思うんです。例えば、ある夫婦の旦那さんは少しぐらい奥さんの帰りが遅くても“ああ、寄り道でもしてるのかな”くらいで済むんですけど、それが逆だと奥さんは“他に女性ができたのかしら”とかいろいろ考えちゃう(笑)。

だからセロトニンがちゃんと出せるように原料を補給し、日光も浴びて睡眠を取り、合成を促しましょう。

あともう1つ、適度な運動も大切なんですよ。例えば、バスに乗るところを歩くとか、エレベーターを使うところを階段にしてみると、脳の働きが違ってきます。

現代は、脳が抑制するために子どもを産まない人が増えている

現代では子どもを産まない人や、結婚しない人が増えていますが、それは産みたくないというより、経済的なことや相手を選り好みし過ぎることが理由になる傾向があるんです。本来ならば、そんなこと関係なく子どもができるのが、生物の基本なんですよ。

生きる、呼吸する、消化する、という基本の脳幹の周りに情動とか感情、愛情の脳があって、その外側に大脳新皮質がある。それが、それらの感情や子どもをつくる基本となる脳を、上から押さえつけた構造になっているんです。つまり、経済的な事情や、できない理由をあれこれ考えてしまうために子どもが産めなくなっている。脳のために子どもをつくれなくなっているんですね。

反対に男性のほうでは、「この女性は養っていけない」と思ったり。今、そういう脳と体の乖離がものすごく起きているんです。例えば、今の時代は、相手が無一文でも飛び込んでいくというような危ないことはやらずに、安全策を取る傾向が強い。30年くらい前は、貧乏だけど駆け落ちする、みたいなエネルギーがあったと思うんですね。

脳科学的に男の人を虜にする方法はないかと相談されることも(笑)

私は脳科学者であり、医学博士ではありますが、医師免許はないんです。でも何かと相談されることも多いので、カウンセリングの資格も取る予定です。

同年代の女性で結婚できないと悩んでいる人から、脳科学的に男の人を虜にする方法はないかと相談を受けたり(笑)。

そんな方法はないですよ。むしろ、魅力的な人でアプローチもされているのに、選べないのが問題なんです。その決断ができるように自分の心を整えていくことをアドバイスすることはあります。脳の前頭葉が抑制をかけ過ぎてるから、勝負に出てみた方がいいかもしれないとか。それで選べるようになった人もいます。

ただ年齢が上がってくると、ここまで1人で頑張ってきたのだから、やっぱりいい人を選びたいという人もいるので難しいですね。

私自身は結婚しています。東大卒の女の子って相手を見つけるのが非常に大変なんですが、彼はとても稀有な人で(笑)。

女性と張り合うことがない人です。私をむしろ面白いと思ってくれる。そういう人と一緒になれたのは良かったですね。美大で教えている人なのですが、私のことをアートと思っているみたい(笑)。これからもアートな人生を楽しく過ごせたらといいと思います。

(東京都港区のビッグベンで取材)

  • 赤ちゃんのとき。5歳まで住んでいた品川の家の屋上で撮ったもの 

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  • ピアノの発表会にて。小学校2年生のとき。『エリーゼのために』がこのときの発表会の曲

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  • 小学校6年生のとき。家族でディズニーランドへ

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  • 高校1年生のとき。生徒代表として、学校に見学に来られた先生に花束を贈呈したときの写真

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  • 高校2年生のとき。修学旅行で北海道へ(左から3人目が中野さん)

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  • パリの研究所時代。同僚が撮影

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  • イスタンブールで開かれた学会に行ったとき。ランチタイム

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  • 中野 信子さん

(無断転載禁ず)

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