女性のパワーや価値がもっと認められたら、世の中は大きく変わると思います
- 佐々木 かをりさん/イー・ウーマン、ユニカルインターナショナル代表取締役
- 1959年神奈川県出身。
米国エルマイラ大学に留学。
上智大学外国語学部比較文化学科卒業後、87年、国際コミュニケーションのコンサルティング会社、(株)ユニカルインターナショナルを設立。
96年より「国際女性ビジネス会議」を開催。
2000年(株)イー・ウーマンを設立し、コミュニティサイト「イー・ウーマン」も同年開設。
フジテレビ「とくダネ!」コメンテーターなど。
著書に「佐々木かをりの手帳術」「自分が輝く7つの発想」「人生をプラスに広げる5つの視点」などがある。
「win-win」の発想が人生を変えた
現在、私は2つの会社の代表と2人の子どもの母親業、そして執筆活動やテレビ出演など、めまぐるしい毎日を送っています。どうやって時間をやりくりしているの?とよく驚かれますが、大学生のころから、手作りの手帳に時刻メモリを書き込み、計画を立てるのが好きだったんですよ。
毎日、30分刻みで行動計画を立て、計画的に行動する。自分の計画通りに実行できるととても気持ちがいいし、その積み重ねで人生が変わっていくんだと思います。時間管理のポイントは、自分がハッピーになることを追求すること。私は、「より多くの仕事をするため」にではなく、「自分がハッピーになるため」に時間を管理しているんです。
でも、自分の幸せだけを追い求めるのではなく、自分も周りの人もみんなにとってプラスになることを考える。「win-win」~つまり、「自分も相手もともに勝つ」という発想を大事にしています。
私がこの「win-win」というビジネス哲学に出会ったのは、24、5才のころ。当時、私はフリーで通訳の仕事をしていて、アメリカ発ビジネスセミナーの通訳を担当し、初めてこの哲学を知りました。それ以来、それまでの考え方とは180度転換し、何か自分が世の中にプラスを与えるような生き方をしたい、そんな風に考えるようになったのです。
器用貧乏だった父の愛情
私が外国語に興味を持ち始めたのは、ごく自然な成り行きでした。生まれ育った横浜には外国の方も多く住んでいましたし、母の妹がアメリカ人と結婚して、従兄弟たちとの会話もすべて英語。そんな環境の中で、いつの間にか英語に興味を持ったのでしょう。
そしてもう1つ、私に大きな影響を与えたのが父の存在。父は英語が堪能で、いろんな才能を持った人でした。でも、器用貧乏という言葉は彼のためにあるのでは?と思うほど、いくつも職を変えたのです。だから、学校で「お父さんは何してるの?」って聞かれても、私も分からなくて(笑)。
最初は造船会社で設計の仕事、その後アメリカやフランス資本の銀行に勤め、商社にも就職して海外出張に行ったり、保育園の園長先生を務めたことも。ある時期はドライクリーニング屋を経営したんですが、まだ日本ではドライクリーニングが珍しかったころ、45分で仕上げるという画期的な商法で、大繁盛。一気にリッチになったのもつかの間、今度は株の取引に失敗して、なんと今の額に換算すると5億円もの額を失ってしまったそうです。一時はお手伝いさんもいて大きな家に住んでいたのに、ある日突然2DKのアパートに引っ越して…。
父は正義感が強く、会社に少しでも不真面目な人がいると怒ってすぐに辞めてしまい、最後はずっとタクシーの運転手をしていたんですが、それが1番気楽だったのかもしれません。ときどき、大きな社会問題が起こると、父は家族全員を座らせ、「この問題をどう思うか!」と説教が始まる。その間、ひたすらじっと耐えているんですけど、私は父が新聞を読んだりニュースを見るだけで、怖かったですね。でも、今私がいろいろとうんちくを並べるのは、父に似たのかもしれません(笑)。
父は7年ほど前に亡くなったのですが、私が会社を経営しているのがよほど心配だったらしく、いつも電話をかけてきたんですよ。「何か悪いことでもしてるんじゃないか」とか、テレビや新聞でコメントをしていると、「そのコメントの根拠は何なのか」といきなり怒鳴られて。それが嫌で、父から電話がかかってくると、電話線ごと引っこ抜いたこともあるぐらい(笑)。でも、きっとそれが父なりの愛情表現だったんでしょうね。
働く女性のネットワークをつくりたい!
私がユニカルインターナショナルという会社を設立したのは、20代半ばのこと。大学在学中にアメリカに1年間留学し、卒業後はフリーの通訳をしていたのですが、考えるとフリーの仕事はいつまで続くのだろうかと。どこかに就職したくても、新卒でないと採用がない。それなら自分で会社を興すしかないと思ったわけです。世の中に無知で、ただ怖いもの知らずだったのかもしれませんけど(笑)。
ユニカルインターナショナルは、通訳や翻訳など外国語のプロをネットワークした会社で、現在は70言語に対応できるまでに成長しました。
でも、設立した当時はまだ「起業」という言葉すらない時代で、ましてや女性が会社を興すというのはとても珍しかった。だから、取材に来てくれる人が異口同音に「女性がどうして?」と聞いてくる。私自身は、まったくそんな意識はなかったのに、逆洗脳されたような形でした。 そのうち、一流企業に勤めていた同級生たちが結婚して仕事を辞めていき、前向きに仕事をする仲間がほしい!と思った私は、働く女性たちのネットワークをつくりたいと調査したのです。その後、1996年からは「国際女性ビジネス会議」を始めました。
毎年1回、全国から働いている女性たちが集まり、ビジネス会議をする。参加者にも大好評で、年々応募者も増え続けていきました。年1回だけでなく、女性たちがお互いに高め合える場がもっとたくさんあったらいいなと思うようになったのが、イー・ウーマンの発足につながりました。
働く女性の視点からの商品開発
イー・ウーマンを株式会社にしたのは、理由がありました。それは、経済界が女性の動きにまったく関心がないことにジレンマを感じていたこと。
最初に国際女性ビジネス会議を企画し、スポンサー探しをしていたときも、男性経営陣から「こんな会議は意味がない。経済の主流からオチこぼれた人が集まるんでしょ?」と。悔しかったですね。今、日本の経済がうまく循環していかないのは、こういう感覚の経営者がいまだに多いからなのではないでしょうか?女性のパワーや価値をもっと男性たちが認めてくれたら、世の中も大きく変わっていくのに。だから、私は彼らと同じ土俵で勝負し、女性たちのメッセージを届けたい。そう思ったんです。
イー・ウーマンでは、女性向けコミュニティサイトの運営のほか、サイトに集まってくれる女性たちの意見をもとに、さまざまな商品開発の提案をしています。よくあるインターネットのアンケート調査ではなく、希望者にリーダーとして登録してもらい、商品調査から企画開発まで主体的に関わってもらう。リーダーのほとんどの方が、前向きに仕事をしている方々なので、体験をもとに具体的で素晴らしい提案が多いんですよ。
例えば、最近の例としては、日産の新車「シルフィー」のデザイン提案や、キッコーマンのレトルト商品「うちのごはん」のパッケージ提案など。3年前には、自社で「メロンリペア」というアンチエイジングサプリメントも開発しました。
このサプリメントはフランスに育つ特殊なメロンと出合ったことがきっかけでした。このメロンから抽出した成分には、抗酸化作用を高める機能があることが分かり、さらにゆっくり解けるビタミンCも配合しました。私も毎日飲んでいるうちに、長年の花粉症がすっかり治って、肌も若々しくなったりで驚いています。
「アイ・ステイトメント」とカキフライ
また、イー・ウーマンのサイトでは、さまざまな情報を発信しています。いわば無料の通信教育のようなものですね。毎週6つのテーマを専門家のキャスターが投げかけ、それに対して意見を投稿してもらう。その寄せられた意見を編集者がまとめ、キャスターからの答えを毎日掲載する。双方向で参加できる、生きたサイトなんです。
ただ、1つだけ投稿する場合のルールがある。それは、「アイ・ステイトメント」で書くということ。つまり、「私」を主語にして、自分が思ったこと、考えたことを書くということ。他人の意見では意味がないんです。
テーマとしては、例えばチェルノブイリ原発問題など、社会情勢や政治、経済、教育、ファッションなど多種多様。面白い例としては、玉村豊男さんの「カキフライはソースで食べるか?」というテーマ。正直、このテーマが出されたときは、どうしようかと思ったんですが(笑)。でも、なぜか1番人気で、「アイ・ステイトメント」の本質をついたテーマだったのかもしれません。
考えると、カキフライをソースで食べる人、しょうゆやレモンで食べるなどいろんな食べ方があるんですよね。その中で、「私は絶対ソースだ」と思っていても、このサイトの中でいろんな意見を聞いて、試してみる。そうすると、何も知らないで食べていたときとは、同じソースでも意味がまったく違ってくる。私はそれが「アイ・ステイトメント」だと思うんです。
だから、ほかの難しいテーマでも「カキフライと同じ」という感覚なら、自分の意見も語れるし、人の意見にも耳を傾けられるんじゃないかしら。
交流し、高め合えるコミュニティーをつくりたい
インターネットのサイトというと、東京駅や新宿駅のように不特定多数の人たちが集まってくるというイメージがありますが、私が目指しているのは例えば、表参道のような街をつくろうということ。街並みが美しくて集まる人の雰囲気やタイプも似ている。そんな個性あるコミュニティーをつくりたいんです。だから、イー・ウーマンでは「自分で考え、自分で選び、自分で行動する」というポリシーを打ち出し、それに共鳴した人たちだけが集まってくる。6年経って、その手ごたえをしっかりと感じています。
今年で11年目を迎える国際女性ビジネス会議も、今や参加者が1000人。参加した初対面の人たちが最後は打ち解けて無二の親友のようになっている。そんな姿を見ると、うれしいですね。
今年のテーマは、初心に還るという意味で「自分力を高める」。キャリアだけでなく、人間としての品格も高めていくためにはどうしたらいいのか。それをさまざまな角度から考えてみたいと思います。
社会を構成しているのは1人1人。その1人1人が、まず自分に自信を持ち確固たる意思を持つこと。そして、お互いに学び高め合えれば、そこに大きなプラスが生まれると思います。そのためには、もっと交流することが大事だと思います。人と人、東京と地方都市、経済と地域、ボランティア、学校などがもっともっと交流し合えば、いろんな知恵が生まれることでしょう。
勝ち負けではなく、お互いの経験や知識を分け合い、高め合う。そんな社会になってくれたらいいなと思いますし、そのためのコミュニティーづくりをこれからも続けていきたいですね。
(東京都港区南青山の事務所にて取材)
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