Ms Wendy

2006年4月掲載

よい古美術品は生きものと同じ。生命力と人を癒す力があるんです

安河内 眞美さん/古美術店店主

安河内 眞美さん/古美術店店主
1954年、福岡県出身。上智大学ロシア語学科卒業。
銀座のギャラリーに勤務後、アメリカへ語学留学。帰国後、刀剣商を営む義兄の影響で古美術の世界へ。
東京の老舗古美術店で美術商としての修行を積む。
85年、東京六本木に古美術店「洗心」をオープン。
1996年から「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、掛け軸など日本画を担当。
江戸時代を中心に狩野派、琳派、円山四条派など日本の古画鑑定を得意とする。
2006年より店の屋号を「美術商やすこうち」に変更。
古美術品の女性鑑定士として活躍

生まれは福岡の北九州市。4人きょうだいの三女として、甘やかされて育ちました。病弱な大人しい子で、両親に大事に大事にされましたね。大学ではロシア語を専攻。東京のロシア絵画ギャラリーに就職し、そこで通訳、翻訳を2年くらい務めました。そのうちに「この仕事は自分には向いていないんじゃないか」と気付き始めて。そこで心機一転、アメリカに語学留学へ。翌年帰国して九州の実家でぶらぶらしていた25才のとき、刀剣商の義兄が「暇なら仕事を手伝わないか」と声を掛けてくれた。それが古美術の世界に入るきっかけになりました。

刀剣商といっても扱う対象は刀剣だけでなく、骨董や掛け軸など古美術品全般。その買出しにあちこち出向いて手伝ううちに、けっこう面白くなってきたんです。この仕事は自分に合っている。それならばちゃんと勉強しようと思い、東京の美術商で5年ほど修行しました。

昔はこの世界で修行といえば、住み込みが普通でしたが私の場合は通いで、外国のお客さんもいらしたので通訳も兼任。ご主人がとてもいい方で女性だからと差別せず、骨董品の見方をいろいろと教えてくれました。ディーラーだけが参加できる交換会、オークションにも連れて行ってくれて。書画を扱う女性は大変少なかった当時、競りを後ろから見学。やがて「好きなものを買ってきていいよ」と太っ腹に購入を任されたりもしました。その後、義兄の店の東京店ということで六本木に開業、独立したわけです。

10年前からは古美術鑑定士の中島誠之助さんの薦めで、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京系列)に古美術品の鑑定士として出演。鑑定する品物は、収録の直前に実物を見ます。ときどき“本物"のはずが偽物なこともある。いまほどずうずうしくない最初のころは「値段をどう決めよう?」と真剣に悩みました。何ゆえにいいのか、いけないのか。そのポイントを持ち主やテレビを見ている方に納得してもらえるよう話すことが大切。鑑定そのものより、そちらのほうが難しいと感じましたね。

白血病で「あと1年の命」と宣告されて

独立して今年で21年目。この1月から店名を「洗心」から、「美術商やすこうち」に替えました。心機一転の意味合いです。

昨年大病したこともきっかけになりました。病名は、白血病。白血病というと渡辺謙さんとか本田美奈子さんを思い浮かべますが、私の場合、急性骨髄性白血病ではなくて、九州や四国地方特有である土着のウイルス性白血病。母子感染するもので、地元ではウイルスを持っている人がいっぱいいて1000人に1人くらいが発病します。

最初に築地の病院で診てもらったところ、医師は「この病気はだめ。あと1年の命」と宣告。その希望もない言い切り方に、ショックを受けましたね。

実は、5年前にも大病を患っていました。肝内胆管ガンでしたが、このときも「もうだめだ」状態。2軒の病院を回って「だめだ」と言われた私に、たまたま日本に居たアメリカの友人が「胆管ガンは日本ではあまりない病気。ベストの医者を探そう」と言ってくれた。そしてニューヨーク在住の医師を探し出してくれました。その先生に相談したところ、「僕はその病気にはベストの医者だけど、日本の名古屋にも良い医者がいる」と紹介してくれて。その名古屋の先生にお会いして人間的に信頼のおける方と思い、治療をお願いし、良い結果につながったことがありました。だから助からない病気と宣告されたときも「セカンドオピニオンは必要」と感じていましたね。

そんなとき、友人がインターネットで私の病気を研究しているという鹿児島の病院を探し出した。そこで相談したところ家族の介護を受けやすい九州がんセンターを紹介してくれました。私の病気は東京では珍しいけれど、九州に行けば「ああ、あるある」といわれる病気。同センターでは「難しい病気ではあるけれど、こんな方法がある」と治療法の提案をしてくれたんです。

ありがたいことに兄と白血球の型が一致。兄から骨髄移植を受けました。以後、快復は割とうまくいっていると思います。もし最初の病院で「ダメ、助からない」と言い切られてめげてしまって、セカンドオピニオンを求めずにいたら、いまの私はなかったでしょう。入院したのは9ヵ月ほど。昨年の3月に退院して、5月に東京に戻り、「鑑定団」には翌月復帰。そのときの私はステロイド治療のため顔がむくむ、ムーンフェイス状態。周囲は「ガリガリよりそのくらいのほうがいいよ」と言ってくれました。が、後になってから「あのころ顔むくんでたよねー」と本当のことを言い出した(笑)。

治療したとはいえウイルスは強いので、再発の可能性もある。でもそれを心配していてもしょうがない。一時は死を宣告された病から快復できたのは、周りの友人たちの努力があったから。つくづくありがたいと感じました。その感謝の思いが何よりも大きかったですね。

本物か偽物か。鑑定の極意は“雰囲気”

私が扱う古美術品の一般的なイメージは、「キタナい」とか「ダサい」(笑)。でもそうでないものもあるんですよ。今よりもモダンな感覚にあふれたもの、新しいものより深みのあるものがある。それが古美術品の楽しさ、魅力ですね。

人間の感覚ってそんなに変わらない。現代のほうが昔より洗練されているというのは嘘だと思う。むしろ、昔の人のほうが美しいものに対する目があったのかもしれない。

古美術品を鑑定するポイントは、その“雰囲気”を感じ取ること。画も書も、その時代でないと出せない雰囲気があります。いま平安のものを再現しようとしても、時代が違うから描けない。形を似せることができても雰囲気は出せないんです。

島田紳助さんいわく「掛け軸を離れて見ていると、掛け軸のほうから本物か偽物か言ってくる」。それは画の持つオーラとか時代の雰囲気とかを彼なりに感じ取ろうとしているのでしょう。美術品のほうから、「自分は本物」とアピールしてくるんですね。

画は生きもの。いろんな雰囲気を身にまとっている。それを受け取ることが真贋を見極める極意です。もちろんこちらが見る目や聴く耳を持っていなければだめですが。

良い古美術品には、見た者の心を癒す力があります。だからいい展覧会を観た後は、すごくゴージャスな気分になれる。まあ職業がディーラーなので、「いくらだったらオークションで落とせるかな?」と頭の片隅で考えてしまうことも確かだけど(笑)。

ただ、美術展などでは作品はガラス越しに見ますよね。仕方ないのかもしれないけれど、画の持つ力がいくらかガラスにさえぎられてしまう気がするんです。骨董屋さんで修行した人と、美術館の作品をいっぱい見てきた人とで、どちらが鑑定人になれるかといったら骨董屋さんでじかに物を見てきた人のほう。作品をすぐそばでじかに見ると、絵の具の色、そして紙質をも感じ取れる。美術展などでは作品との距離もあって紙質までは感じにくい。真贋に関しては、紙質は重要なチェックポイントになります。

古美術鑑定では、埋もれていた新しい品を発掘する楽しみもあります。この間、あるお寺で古くからあるという仏画を見せていただきました。仏画は専門でないけれど、鎌倉時代の相当いいものに見えた。そこで専門家に鑑定してもらったところ、やはり相当な価値のものと判明。その仏画はいま東京国立博物館預かりになっていて、いずれ重要文化財になるとのこと。このように、良いものに出合ってそれが世に出ていく過程は楽しいですね。

「いいものは自分で生きる力、世に出る力を持っている」とは、仏教美術品のエキスパートであるご年配の骨董商の方のお言葉。古いものは長い年月を生き抜いてきた力、私たちが及ばないような力を持っている。それが古美術品の魅力であり、まさに生きものだと思うんです。私はそれらに小間使いのように動かされている小さな存在に過ぎないのかもしれない。そう思うこともなきにしもあらず、です。

床の間のないマンションで掛け軸を楽しむ法

掛け軸というと、床の間。でも飾るのは床の間でなくてもいいんです。うちの店でもあえて床の間を作らず、濃紺のカーテンを垂らしてその前に掛け軸をかけています。

床の間のないマンションだったら、廊下や部屋のつきあたりに1枚キレを垂らしてその前に軸をかける。その下に花を活けてもいいし、香炉を置いてもいい。これでひとつの空間が生まれますよね。子どもがいたら、手が届かない長さに変えて工夫して飾る。このカーテン、キレ1枚を使うテクニックはなかなかうまくいくので、ぜひやってみたらいかがでしょうか。

屏風に関しては意外と洋室のほうが和室よりもすごく合う。よく外国の方が買いにこられますが、インテリアの配置を含めてアドバイスすることも多いですね。

「自分が気に入った品は売りたくないのでは」といわれるけれど、私は売るのは平気(笑)。美術商って2通りあって、ものが好きでたまらない人と商売が好きな人。私の場合は後のほうね。

今年も「鑑定団」には出演しますが、出張鑑定は体調がまだ万全でないのでほかの方にお任せしています。

今までストレスがうまく解消できなかったから、病気になっちゃったのかなとも思います。だからこれからは楽しくない仕事や嫌なことはなるべくやめたい。

常に「なるようになる」というのが私のやり方。「自分で開拓しよう」と積極的にやるほうではないので、今年も目の前にあることを1個1個やっていくという感じ。こんな消極的な生き方の人ですが(笑)、自分にはそれしかないんだろうなと思います。

やらせてもらえることは精一杯やる。いまこうして仕事ができる幸せを噛みしめながら、今年1年やっていければ本当にありがたいですね。

(港区六本木のお店「美術商やすこうち」にて)

  • 昭和31年2才の頃

    昭和31年2才の頃

  • 安河内 眞美さん
  • 大学入学時

    大学入学時

  • 独立して間もないころ(32~33才パリで)

    独立して間もないころ(32~33才パリで)

  • 「開運!なんでも鑑定団」にて

    「開運!なんでも鑑定団」にて

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