アトリエ・ミリミリは子どもたちの『ただいま』が聞ける私の仕事場
- 岡田 美里さん/タレント
- 東京都出身。祖父は画家の岡田稔、父はE.H.エリック。祖母はデンマーク人で美里はクォーター。
16才でモデルデビュー後、キャスター、女優として、ドラマ、舞台、映画などで活躍。
北欧のセンスを生かして、料理、手作り小物、食器のデザインなどにも取り組む。
1998年、エプロン、バッグのデザインを手がけ、ブランド「ミリミリ」を発表。
2003年3月に再婚し、長女、次女に加えて、高校生、中学生の男の子の母にもなり、現在6人家族。
2004年秋、アパレル「SHIPS」から初の洋服ブランドを発表。
著書に「岡田美里さんのキッチンワーク」(文化出版局)などがある。
ホームページ www.mili2.net
ルーツ「デンマーク」の素敵なライフスタイル
代々木上原から少し歩いたところに、「アトリエ・ミリミリ」というちょっと素敵なスペースをつくりました。住宅街、「どこにあるのかしら?」と探していただかないとわからない隠れ家のような大人の居場所です。アトリエをお友だちと主宰し、五年間パンの教室を続けてきたのですが、「アトリエ・ミリミリ」は私専用のキッチン・スタジオ。コーヒーカップからシステムキッチンまでこだわりました。
この部屋にあるもののほとんどがデンマークの製品。実は私、デンマーク人と日本人のクォーターなんです。父も私たちも、取り立てて言ってきませんでしたのでご存じない方も多いと思うのですが、若かりし祖父がパリに芸術の勉強のために留学していたころ、デンマーク人の祖母と出会い、父のE・Hエリックが生まれたのだそうです。1900年代初頭に日本人の国際結婚は珍しく、世界的にもクォーターでデンマークの血を引いている人は少ない存在らしいのです。
以前、あるテレビ番組で、私のデンマークのルーツを調べてくださって、父が亡くなってしまって連絡をとる手段がなくなっていたあちらの親戚が見つかったんです。それからデンマークとの行き来が始まりました。
ルーツに導かれるように、デンマークのことを日本に紹介したいと思い、ここにはデンマークの素敵なものを集めました。いま北欧ブームでしょう!?家具や陶器など、北欧のデザインが。デンマークの人たちの暮らしぶりは質素で控えめで、家族との時間を大切にするんです。夕食は必ず自宅で家族といただくし、週末は家具を修理したり、家のペンキを塗ったり。田舎へ行くと土曜日の夜、レストランはどこも開いていないようなこともあります。家で過ごすことを、大切に豊かに楽しんでいる国なんですね。だから家具やクラフトが発達したのじゃないかしら。
自分のルーツの国だからかもしれませんが居心地がいいんです。だからアトリエ・ミリミリが、まだ日本で紹介されていないデンマークの素敵な品物のショールームになればいいなと、自信を持っておすすめできるデンマーク製品をセレクトしています。
「ただいま!」の声が聞こえる所で、好きな仕事を
アトリエ・ミリミリをつくったのは、大切なものを大事にしながら、好きな仕事をしたかったから。子どもがまだ小さいころ、今日は目黒スタジオ、明日は代官山スタジオとモデルの仕事ばかりしていて、「私は、どうして小さな子が自分の足で行けないような所に、仕事に行っているんだろう」と思ったことがあります。やがてそのことが凄いストレスになって辛い時期がありました。
当時はとても忙しくて、ファッション誌の表紙の仕事なども多く、幼稚園のお迎えにも行けず、スタジオの電話番号をメモしてベビーシッターさんにお願いするような毎日。モデルのお仕事って、スタジオ以外でしなくちゃいけないこと、打合せや衣装合わせ、ネイルサロンに行ったり、ダイエットしたり、いっぱいあるんですよね。華やかなお仕事は楽しみでもあったけれど、子どものことを考えると凄くストレスでもあったんですね。雑誌の仕事はチームでみんなやっているでしょう。自分の時間なんて絶対守れない。
ちょうど子どもの卒園の年に、のちに大ヒットした映画の出演依頼がきたんです。でも卒園の劇で、私も母親としてスタッフのひとりになっていて、衣装を作ったりお稽古をいっしょにしたり、時間があれば、子どものためにしてあげたいことがいっぱいあったんです。今この映画の仕事を受けてしまったら、子どもに素敵な幼稚園の思い出を作ってあげられないと思ったら、たまらなくなってお断りしたんです。
「ママはいつも、ここでお仕事しているわよ」という場所で、仕事をしていたかった。すぐに幼稚園にお迎えに行けて、子どもたちが「ただいま!」と学校から帰ってこられるところで、好きな仕事をしたかったんです。
モデルのお仕事も好きですが、パンやお菓子を焼くことは子どものころから大好きで、ほんとは高校を卒業したらヨーロッパに留学して焼き菓子の勉強がしたかった。でも周囲の猛反対にあって聖心へ。そのくらいの年齢で好きだと思うことは生涯好きなんですよね。
自分の時間を求めて「アトリエ・ミリミリ」に集まる女性たち
私が教えるパンは、クイックブレッド。普通のパンは、家に4時間も5時間もいる人でないと焼けないですよね。忙しく働いている方でも、お子さんがいらっしゃって育児が大変な方も、すごく簡単にすぐ焼けるパンです。手でこねたりもしない、フードプロセッサーとか道具を上手に使って、家庭用のオーブンでおいしく焼けるパン作りです。
「コート1枚買うのを我慢して、フードプロセッサーを買った人生の方が、ずっと充実しますよ」という考え方で便利なツールを上手に取り入れて、その分、時間という豊かさを手に入れる。そうやって暮らしを見直してみると、ゆとりって結構つくれるんですよ。忙しければ毎日の食材は宅配で取り寄せればいいし、インターネットで生活に必要な大部分のものが注文できる時代。そういうものを上手に使えば、お金では買えない時間を手に入れることができます。
小さいお子さんの子育て真っ最中で、育児ストレスの気分転換に月に1度、おばあちゃまにお子さんを1日預けて、教室に見える方もいらっしゃいます。月に1回ぐらいだと、おばあちゃまも喜んでくださって、お母さまは自分の時間を持てる。みんなハッピーなんですね。私も経験がありますが、子育てが大変な時期は、「このまま自分は、ずっと子育てだけして生きていかなくちゃいけないのかしら」って思いがち。上手にリフレッシュする場に、私の教室を選んでくださっているみたいです。
学生時代に東京の大学に来ていて、卒業後、地方のご実家に戻った方が教室に来られるついでに、東京の空気を楽しんで帰られる。とてもリッチに過ごされていて、うらやましいぐらい。
生徒さんは全国からさまざまな女性が見えます。ご結婚を控えた方から、独身のキャリアウーマン、子育て中の方、地方の名士の奥さま…。みなさんお忙しい方が多いですけれど、自分の時間を求めていらっしゃっているようです。でも教えてさしあげられる生徒さんには限りがあるので、教室はいつも予約の取れないレストランみたいな状態です。
息子たちから学んだ、言葉にして伝えること
わが家にはいま、息子と娘が2人ずついます。私の娘2人と、再婚した主人の息子たち2人。高校2年生を頭に小学校6年生まで、にぎやかですよ。再婚同士の家族を「ステップ・ファミリー」って言うらしいですね。それはそれなりに、住居の問題や生活の問題、教育の問題と、いろいろ考えることもあるけれど、楽しい毎日です。
夫は義母とともに2人の男の子をずっと育ててきたせいか、母性的な部分も豊かで、私の娘たちにも自然に優しい気遣いをしてくれます。子どもが学校で熱を出したと連絡を受けて、オロオロするのは私より夫の方。「大丈夫かなぁ、大丈夫かなぁ…」ってもう見ていておかしいくらい。でも「この人は、子どもを育てることにすごく責任を感じている人なんだなぁ」と思います。男の人は、子どものこと、家のこと、「君にまかせたよ」って人が多いじゃないですか。自分の子どもなのに妻任せで。そういう意味では、子どもたちのことをシェアできて頼もしいです。
「難しい年ごろの男の子を2人も育てるのは大変でしょう」と言われることもあるんですが、中・高校生ぐらいになると、男の子って親とあまり口をきかなくなって、母親も口を開けば小言ばかりになりがちですよね。私は息子たちにとって、親戚のおばちゃまのような存在で、会話が成立するんですね。実の親子ではないからこそ、お互い尊重しなくてはという思いやりがあるのかもしれません。学校の先生からのご注意ひとつ取っても、子どもの言い分もきちんと聞いて、息子を頭ごなしに叱り飛ばすようなことはしない。実の親子だと感情が先走りがちで、気持ちがすれ違うようなこと多いですよね。息子たちと向き合うようになって、少し丁寧に、子どもにわかる言葉や表現を考えて向き合っていくことが大切なんだって、学ばせてもらっている気がします。
家族との暮らしを楽しみながら、お仕事も
「アトリエ・ミリミリ」という新しいスペースを通じて、デンマークの素敵な生活文化もどんどん紹介していきたいし、パンの教室も素敵な場にしていきたい。子どもたちが少し成長して、以前よりお仕事もじっくり取り組めるようになってきましたからね。でも毎日のリズムは、夫を仕事に、子どもたちを学校に送り出してから、仕事に向かいます。ここへ来て、生徒さんとパンを焼いたり、お仕事の打合せをしたり、インタビューを受けたりして、午後の三時には家に向かう、それが基本。自宅に戻ったらお買い物や残った家事をして、夕食の支度をして食卓をみんなと囲む。夜、自室で少しパソコンに向かったり、持ち帰った仕事をするような毎日です。
私の周りではいつもたくさんのプロジェクトが動いているのですが、どれもチームで動いていますので、私はイメージを提供したり、大人の女性としての意見や提案をしたり…。ファッションの世界は若いクリエーターたちが多いので、大人向けのものを考えるときには想像力に限りがありますよね。私はそういったところを補う、そして大人が素敵に輝けるおしゃれやライフスタイル、文化づくりをお手伝いさせてもらえればと思っています。
この間、20年ぶりに聖心女子大学の同窓会があったんです。司会をさせていただいていたんですが、参加者の中に、私のデザインしたお洋服を着てくださっている方がいて感激したんです。「こんな風に着こなして欲しい」と思っていたイメージどおりの素敵な着こなしで。お仕事をしていると、家庭にいるだけでは体験できないことがあって、やっぱり楽しいですよね。
(渋谷区上原にて取材)
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