Ms Wendy

2004年1月掲載

メイクは、生きる勇気を奮い立たせるための大切なツールなんです

かづき れいこさん/フェイシャルセラピスト

かづき れいこさん/フェイシャルセラピスト
大阪生まれ。「スタジオKAZKI」主宰。
医療機関と連携し、傷ややけど痕のカバーや、それにともなう精神のケアを行なう「リハビリメイク」の第一人者。
女性の側に立ったユニークな理論は多くの女性に支持され、広い世代の雑誌やTVなどでも活躍。
また、企業、病院、大学、公共団体などで講演活動を実施。
2000年より、新潟大学歯学部非常勤講師。
2003年、佐賀女子短期大学客員教授、神戸常盤短期大学非常勤講師となる。
また、2000年、それぞれの分野の専門家が協力し、考える場所として、NPO法人「顔と心と体」の研究会を発足。定期的に公開講座を開催している。
真っ赤な顔に悩み続けた30年

「リハビリメイク」というのは、聞き慣れない方も多いと思いますが、主に顔の傷やアザなどをカバーするためのメイク法です。今まで日本ではなかったメイク法ですが、私は「外観を整えることで心をリハビリする」という意味をこめて、こう名付けました。

私が美容学校に入って本格的にメイクの勉強を始めたのは、30才のときですが、自分自身の体験から「顔で悩んでいる人たちを元気にするメイク」の必要性を強く感じていたのです。

私は、子どものころから冬になると、顔が真っ赤になってしまい、そのことでずっと悩み続けていました。生まれつきの心臓病で血流が悪いのが原因でしたが、自分の顔にコンプレックスを感じて、冬の間は性格まで暗く変わってしまいました。

ところが、夏がくると色が白くなり、とても綺麗な肌になるんです。そうすると、今度は何にでも意欲が湧いて、不思議に成績まで上がるんですよ。だから、夏と冬では二重人格のようでしたね。

その後短大に入り、やっとお化粧ができるようになったものの、赤い顔をうまくカバーできる化粧品はどこにも売っていませんでした。自分なりに厚塗りをすると、真っ白でまるでお面をつけたよう。友だちからは、「お化粧が濃い」とか色々言われました。でも、赤い顔よりはよかったのです。思いあぐねて病院に行くと、「熱い水と冷たい水で交互に顔を洗いなさい」と。それも全く効果はありませんでした。何をなすすべもなく、それでもお化粧をするだけで心が救われたような気持ちになりました。そして、30才のときに暖かい時期でも顔色が悪くなり、精密検査を受けて初めて自分の病名がわかったのです。ASD(心房中隔欠損症)。すぐに手術をしないと、数年の余命と言われ、左右の心房の穴をふさぐ手術を受けました。手術は無事成功。体も驚くほど丈夫になり、あの「赤い顔」から解放されたことが、私にとっては何よりも大きな喜びでした。と同時に私も何か人のために役立ちたい、そんな熱い思いが体中からあふれてきたのです。

看護婦さんの一言から生まれた「リハビリメイク」

すでに結婚して子どももいましたが、何かできることはと考え、一時的にでも私を元気にしてくれた化粧を勉強しようと思い立ったのです。でも、学校で教えてくれたのは流行のファッショナブルなメイク法ばかり。私が本当に知りたいメイクはどこに行っても教えてはくれません。学校を卒業後、カルチャーセンターで講師になり、メイクスタジオを開設して、自分なりのメイク法を試行錯誤で探っていました。8年ほど前、そんな私のもとに、火傷の治療を終えた少女を連れ、一人の看護婦さんが訪れたのです。そして、「体の機能的なリハビリは終わりました。でも、この子が本当に社会復帰するには外観のリハビリが必要です。メイクを教えてあげてください」と。その看護婦さんの言葉から「リハビリメイク」というネーミングが生まれました。

繊細な日本人に合ったリハビリメイクを開発

私が目指している「リハビリメイク」は、単に傷や欠点を隠すものではありません。例え、濃い化粧でそれを隠したとしても、本当にその人の心を解放したことにはならないのです。メイクを教えるときも、最初はしっかりカバーしますが、しだいにメイクを薄くしていきます。

本人が傷や欠点にとらわれなくなり、化粧をした自分と素顔の自分、その両方を受け入れられるようになったとき、初めて本当の意味での社会復帰が可能になるのです。ですから、メイクだけでなく精神的なケアも必要ですね。 以前、欧米などにも勉強に行きましたが、カムフラージュメイクといって、あくまで隠すことが目的です。またその技術もかなり大雑把なものでした。ですから私は、繊細な日本人に合ったメイク法を作らなければいけないと痛感しました。

でも、どこにもお手本はありませんから、すべて自分のオリジナルで作ったんです。メイクも感性が必要ですが、私の場合、もともとの素地があったんでしょうね。感性で野球をされる長嶋さんと似ているかもしれません(笑)。ポーンと球がきたら、パーンと打つんだよって。私も眉はこう書けばいいのよって教えても、最初はなかなか伝わらず、誰にでもわかるようにと作ったものが教科書になりました。

今、私はリハビリメイクの第一人者と言われますが、今まで、なぜこういうメイク法がなかったのか、とても不思議な気がしますね。

一人一人の個性にあった美しさを引き出すのがリハビリメイク

一口に「化粧」と言っても、日本人と欧米人ではそのイメージは全く違います。例えば、英語では、化粧することを「メイクアップ」と言いますが、日本語は「化けて装う」ですよね。日本人は化粧をすることで、肌もきれいになり、顔もすべてチェンジするものと、心のどこかで幻想を抱いているようです(笑)。でも、どんなに化粧をしても若いときと同じ肌には戻れないんですよ。

だから、私はいつも最初に、まずその方の年齢を伺い、その年代や生活に合ったメイク法を教えます。今の流行の化粧品は、ほとんど若い女性向けのものですから、その通りにお化粧をしても、似合う人と似合わない人がいるんですよ。化粧品で夢を売ることも大事ですが、本当のことをはっきりと伝えることが大切だと思っています。

ですから、30才を過ぎて、シミやシワ、たるみが出始めたら、みんな「リハビリメイク」なんです。化粧品はあくまで絵の具ですから、キャンバスが違えば同じにはなりません。本来、メイクはそれぞれの個性に合わせて、一人一人の美しさを引き出すためのものなんですよ。 

私を助けてくれた化粧に恩返しをしたい

私はもともと化粧は大好きでしたが、その化粧のイメージを大きく変えたのは、母でした。私が29才のとき、母はガンで他界しました。当時、私は宝塚に住んでいましたが、母が入院していた京都の病院まで、1日おきに通っていたんです。でも、私が行くときはいつも元気で、「私は元気だから、夫と子どものもとに早く帰りなさい」と言うのです。その元気そうな顔を見て、私も安心して帰れました。そして、母が亡くなった後、母がいつも私が見舞いに行った日だけ、化粧をしていたことを知りました。どんなに体が苦しくても、私が行く日は朝から口紅をつけ、「元気に見える?」と看護婦さんに聞いていたそうです。母は自分のためではなく、私のために化粧をしてくれていたのです。私は母の化粧によって本当に助けられました。だからこそ、私は化粧のイメージを変え、恩返しをしたいと思いました。

大切なのは自分が輝くこと。リハビリメイクで顔も心も元気に!

カルチャーセンターやスタジオでメイクを教えると、みなさん本当に喜んでくださるんですよ。ご家族も、「お母さん、明るくなって元気になったね」と言ってくれるそうです。

ボランティアで老人ホームも訪れますが、メイクをさせていただくと、とても喜ばれます。やはり、きれいにお化粧したり、外観を気にしている人は心身ともにお元気ですね。通信講座で勉強中の94才の方も、見違えるようにきれいになって「これからの人生が楽しみです」と、お便りをいただきました。病気も治ってしまったそうです。

ですから、メイクというのは、生きる勇気を奮い立たせるための1つの手段でもあるんですね。今の日本には、そういうものが消えています。昔は着物を着るだけでも背筋が伸びましたが、今の日本には気持ちをシャンとさせるものがない。 それに、結婚したら外観を構わなくなってしまうのも、日本だけ。外国では、外観をきれいにしないと離婚の原因になりますから。妻だからと言って甘えるのではなく、どこかに緊張感を持っている方が顔も若くなりますよ。

私も、結婚して10年ぐらいは仕事もせず毎日ゴルフやテニスをした時期がありました。でも、だんだん何か違うなと思い始めたんです。人から見れば恵まれて幸せかもしれませんが、それだけでは物足りなく感じたんです。

仕事を始めたとき、内科医の主人は化粧を教えるなんて辞めてくれとずっと怒っていました。でも私には信念があったんです。メイクで人を元気にして、もっと多くの人を癒してあげたい、と。例え、どんなにブランド品や毛皮を持っていても、その人自身が輝かなければ意味がないと思います。人と比べるのではなく、大切なのは自分自身が輝くこと。もう若くないからとあきらめるのではなく、生き生きと元気が出る顔を自分で作ればいい。私はそれを教えたいんです。

化粧のイメージを変え外観差別をなくすことが私の目標

最近、私はリハビリメイクに関する医学書を作りました。患者さんを社会復帰させるためには、お医者さん(ドクター)と協力し合うことが重要なのです。今まで、顔に火傷や手術痕などを持つ人たちに対しては、医学的な治療のみで終わりがちでした。そのため、なかなか就職もできず、外に出る機会が少なくなっていくのです。肉体的には支障がないので、保険も保障もなく、国もなかなか守ってはくれません。私はこういう人たちにもメイクを教え、同じ悩みを持つ人たちにメイクを教える仕事をしてもらいたい、そう思っています。

人間の顔って、1枚皮を外したらみんな同じなのに、なぜその1枚皮のことで、きれい、汚いと差別をするのか。そこまでいくと、もう哲学ですよね。人間は動物の中では1番知能が高いはずなのだから、そういう気持ちを持たないように教育をすればいいと思うんです。

アメリカなど外国では個性を重んじる教育が徹底していますから、外観についてもあまり気にしない。顔にアザや傷がある人が外国に行くと楽になると言いますよ。人と違うだけで色々言われるのは日本だけですね。

4年前、私は「顔と心と体」の研究会を立ち上げました。2年前には、NPO法人として認可を受け、活動を続けていますが、私はまず、一般の人たちの意識を変えていきたいと思っています。私の目標は、外観差別をなくすこと。「顔が嫌な日は心がつらく、心がつらいと体もしんどい(疲れる)」というふうに、顔と心と体は1つにつながっているのです。

私自身、30年間ずっと「赤い顔」に苦しんできました。でも、あのつらさがなければ今の私はありません。だから、たくさんの方たちに喜んでいただき、みんなの生き生きした顔を見ることが、私のリハビリにもなっているんですよ。

(新宿区スタジオKAZKI東京サロンにて取材)

  • 雑誌の撮影風景

    雑誌の撮影風景

  • つめかけた女性が熱心に聞き入る講演会風景

    つめかけた女性が熱心に聞き入る講演会風景

  • 大学病院にてリハビリメイクの様子

    大学病院にてリハビリメイクの様子

  • CS放送LaLaTVでの収録風景

    CS放送LaLaTVでの収録風景

(無断転載禁ず)

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