100年続く月刊誌『富山県人』
県人たちがつなぐふるさと愛
- 株式会社富山県人社 取締役
高島 美奈子さん - 1968年富山県高岡市生まれ。高校を卒業後、東京の大学へ進学。社会学を専攻し、ゲマインシャフトを大切にしたいと思った。卒業後、メーカー勤務を経てUターン。1995年から、祖父が創刊した『富山県人』を発行する富山県人社で編集ほか業務全般に携わる。
ふるさとの雑誌『富山県人』
北陸の富山で、ふるさとの雑誌『富山県人』という月刊誌を発行している。地域の月刊誌なのでよくタウン誌みたいなもの?とまずは聞かれるが、少々毛色が違い、ふるさと富山を離れて暮らす富山県出身者にふるさとの今を伝え、また、全国各地で活躍されている県出身者の動向を伝えることを核に、富山と出身者をつないでいる。もちろん、県内外の富山の話題・情報を伝えているのだが、単なる情報だけでなく、ふるさとを思う心、人と人とのつながり・絆を大切に、富山はいいよねといった共感がそこはかとなく流れている。
創刊は1926(大正15)年4月であるから、もうすぐ100年を迎える。創刊当時は遠く離れた故郷のことを知るすべなどなく、見知らぬ土地で頼れる同郷人のことも分からない。「縣外にありては故郷の情報を受け、縣内にありては世情を明らかにし、縣外の消息を知り、一喜一憂する。親交を敦うし、縣人提携の必要を自覚する。先輩名士の説話により、人格の向上、知見の啓発に努め、郷土の開発、文化の促進をはかる」などということが創刊の言にはある。情報を伝えながら、県人同士の交流、故郷の発展に貢献する媒体を目指してきた。
翻って今は、情報が氾濫している。世界のどこにいても富山のことが分かり、音信不通だった旧友ともネット上で出会えるようにもなった。ふるさととの距離も、時間的、心理的に近くなった。そんな中、100年前と同じ形態で発行を続けられているのも、毎月待ってくださっている読者の皆様や、支えてくださる企業・団体の皆様のおかげと感謝する。
心に届く情報伝達
紙媒体に将来性はあるのか、という世の業界の問題はあるかもしれないが、情報が氾濫しているからこそ、故郷の潮流を分かりやすく伝えることで、より理解を深めてもらうことができる。また、あの人も富山の人!と知ったときに自然とわき出る親近感などは、うれしさとともに心強く励まされるものだ。毎月、ふるさとを感じながら、自分自身の大切なものを満たす一助になればとの思いで、取り組んでいる。
読者と共に作っているという要素もあり、原稿や情報をお寄せいただく。本誌を通じて人と人とのやりとりが生まれ、喜んでいただけることは、雑誌づくりに携わる者としてうれしい限りで、時に国家的な事柄の人事に貢献していたことを後になって知り、驚いたこともある。
時代の変化に合わせて人や社会は、やり方や考え方、規範などが変わっていくのは当然で、未来に向かってどんどん進化していかなければならない。その上で普遍的なものはあり、経済的な発展では得られない、あるいはその土台となる人としての大切なあり方のようなものを再確認するツールに小誌がなっているような気もしている。
富山県人会
この雑誌が100年近く続いてきたのにはもう一つ、県人会の活動も大きい。富山県に限らず、出身者のよりどころとなる県人会は多くの県でも見られると思うが、富山県人会は130年の歴史を持つ近畿富山県人会や、東京、東海など大都市圏をはじめ全国各地に、集団で開拓に渡った北海道や南米などでも連綿と受け継がれ、また、富山市友会や氷見会など出身市町村ごとの組織も数多くある。小誌は、それら県人会の活動を伝えて盛り上げ、時に結成を呼びかけるなどもしている。
故郷が同じ人たちで集まると、初対面でもすぐに打ち解けて、日常の仕事や家庭、趣味などとは違う、自らを育んでくれたふるさとの景色や風習、思い出と共に、真の自分に還るような、そんな空間に自然とひたることができる。そこでは普段出会えない人と話せたり、薫陶を受けることもある。
変化の激しい今だからこそ、共通のベースがある人たちとフラットに集い楽しみ、世代を越えた交流で良い刺激を受けてリフレッシュ(再生)する、そんな集まりは貴重だ。
新しい時代へ向けて
ただ、少子高齢化はひたひたと県人会にも押し寄せている。それは近年の地域コミュニティーの維持が難しくなっている課題と重なる部分もあるように思える。最近、社会課題の解決にデジタル技術を活用する動きが出てきているが、私どもも、かけがえのないふるさとを大事にする皆様の思いを大切に、富山の力強い応援団でもある県人会や富山県人と故郷とのネットワークを、新たな時代の形に進化させるべく取り組み始めているところだ。
さらに、富山に暮らす人、富山がふるさとの人、あるいは関わりのある人、富山が気になる人、いろいろな方々との交流が活発になり、それが富山だけでなく、全国各地で網の目のようにそれぞれの交流が生まれていくと、人口減少社会を迎えている日本の一つの活力となるだろう。そして、ふるさとを大切に思う気持ちは世界共通であって、その温かい気持ちを尊重し合う人類であれば、幸せで平和な世の中になるのになぁと思いめぐらせ、北陸の富山でその一端に貢献できればと、今後も精進していきたい。
「地域再生を考える」編集委員会
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