地域再生を考える

2026年3月掲載

若者がいないまちに若者を取り戻す
富山市のまちなか学生シェアハウス「fil」

富山大学都市デザイン学部 教授 久保田 善明さん

富山大学都市デザイン学部 教授
久保田 善明さん
京都市生まれ。大手重工メーカー、建設コンサルタントに勤務後、京都大学准教授、2016年に富山大学教授となり都市デザイン学部の新設に携わる。現在、富山市都市マスタープラン検討委員会委員長など。グッドデザイン賞(2024)、不動産業アワード特別賞(2025)など。

中心市街地の空きビルをリノベーションし、学生向けのシェアハウスとすることで、これまで若者がほとんど住んでいなかったエリアに若者の居住を促す取り組みをしています。入居条件は「まちづくり活動への参加」です。まちに若者の姿を取り戻し、地域とのさまざまな交流を通じて、まちを元気に明るくするとともに、入居者自身も多くの刺激や学びを得ることができる、そんな環境づくりを「まちぐるみ」で行っています。

取り組みの背景

富山市は全国に先駆けて20年前から公共交通を軸としたコンパクトシティ政策を進めてきた都市です。私が富山大学に赴任した2016年時点でもすでにコンパクトシティ政策による都心部の求心性の高まりは効果として現れてきていましたが、中心市街地に若者の姿を見かけることはまだ稀でした。加えて、中心市街地には空きビルや空き店舗が点在し、これらも都市の活力を低下させる要因となっていました。

一方、中心市街地から2.5kmほどの位置にある富山大学の周辺には4500~5000人もの学生が住んでいますが、学生街らしいにぎわいや文化性には乏しいうえに、学生も大学とアパートを往復するだけの単調な暮らしになりがちでした。

そこで中心市街地の空きビルをシェアハウスに改修することで、空きビルの再生、中心市街地の活性化、そして学生たちが暮らしのなかでさまざまな体験や人々との交流、挑戦ができる仕組みづくりを構想しました。第三セクターのまちづくり会社である株式会社富山市民プラザと一緒に検討を重ね、シェアハウスを中心とした複合施設「fil」の実現に至りました。

施設の概要

路面電車の「荒町」電停前に立地する元証券会社の5階建てのビル(シェアハウス棟)と隣地の元駐車場に新築した2階建ての建物(ランドリー棟)で構成されています。

シェアハウス棟の1階は地元食材を使った朝食やランチを提供する食堂・カフェで一般にも開放されています。2~3階は男性用居住フロア、4~5階は女性用居住フロアです。各フロアには個室が8室ずつ(建物全体で32室)と共用のキッチンや談話スペースなどがあります。

ランドリー棟の1階はコインランドリーと小さな書棚のライブラリーでこれらも一般利用が可能です。2階は富山市民プラザのサテライトオフィスです。

シェアハウス棟とランドリー棟の間には小さな庭も設えられています。富山市民プラザが土地と建物を取得して一体整備を行い、シェアハウスの賃貸、運営、食堂経営、ランドリー経営もすべて同社が行っています。

まちづくり活動

2022年12月より5名を先行入居させてコアメンバーを育成し、2023年4月より本格入居を開始させました。現在は約30名の学生が入居しています。

入居学生は、地域のイベントに参加するだけでなく、企業経営者との座談会の定期開催、地元新聞へのコラム掲載、ラジオ番組へのレギュラー出演、地元商店主の方々とのワークショップなど、社会とのかかわりの中でさまざまな活動をしています。毎年秋には「まちなか学生EXPO」という大規模なイベントの企画・運営もしています。

そのような暮らしと活動を通じて刺激を受け、主体性や協調性、チャレンジ精神を養い、自らの可能性を信じることで、海外留学などに挑戦していく学生たちもいます。卒業で退居した後も地域とのつながりを大切にし、社会人として自らイベントを企画する元学生もいるなど、富山のまちに新たな質の活気が生まれてきたように感じます。

サポートクラブ

「仲間を増やすこと」はまちづくり活動でとても大切です。この事業でもできるだけ多くの仲間・味方を集めることが大切と考え、この取り組みに賛同する企業約40社でサポートクラブを組織しました。年会費10万円/社をいただき、その資金を学生の挑戦を後押しする活動に充てています。先述のEXPOもこの資金があるからこそ実現できます。経済面だけでなく、企業の特色を活かしたさまざまなサービスや特典、交流機会も提供されています。

企業にとってはCSRの一環というだけでなく、学生と深い接点をもてることが貴重な機会のようです。

地域再生のモデルとして

filが誕生して3年、以前はまちなかでほとんど見かけなかった若者の姿も今ではよく見かけるようになったと感じます。filだけの効果によるものではありませんが、filはその象徴的な存在のように思います。

この「まちぐるみ」の取り組みは、今後、近隣に新たな学生シェアハウスが計画された際もハード面が整備されればサポートクラブなどのソフト面は共有可能な拡張性を備えています。これまで全国の行政機関、専門家、研究者、地方議員、大学生、高校生など累計550名ほどの方々に視察いただきました。富山市民プラザで視察対応していますので、ご興味あれば、ぜひ直接来てご覧になってください。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 中央の白いビルがシェアハウス棟。左隣の2階建てがランドリー棟

    中央の白いビルがシェアハウス棟。左隣の2階建てがランドリー棟

  • まちなか学生EXPOの出展者による集合写真

    まちなか学生EXPOの出展者による集合写真

  • 企業経営者との座談会が定期的に開催されている

    企業経営者との座談会が定期的に開催されている

  • 商店街の再開発ビルの工事仮囲いを利用したアートイベント

    商店街の再開発ビルの工事仮囲いを利用したアートイベント

  • 事業スキーム図

    事業スキーム図

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