「価値がない」が宝物になるとき
柿の皮からはじまった、地域と女性をつなぐ挑戦

- 株式会社陽と人(ひとびと) 代表取締役
小林 味愛さん - 株式会社陽と人代表取締役。東京都出身。省庁や民間企業を経て、福島県国見町で起業。地域資源を価値に変えるビジネスを展開。フェムケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」を手がける。地域と都市をつなぎ、誰もが自分らしく輝ける社会を目指している。
「あれ、昔と違うな」という違和感の正体
福島県国見町で会社を立ち上げ、地域の方々と日々を共にする中で、ふと感じることがあります。近所の方との何気ない会話。以前よりも増えた空き家。少しずつ本数が減っていくバス。
「あれ、昔と違うな」
人口が増え続けていた時代の「当たり前」が、静かに、しかし確実に成り立たなくなっている。そんな感覚を、多くの方がどこかで抱いているのではないでしょうか。人口減少という大きな変化を前に、私は自分に問いかけました。
「どうすれば、この地域で”働きたい“”暮らしたい“と思ってもらえるだろう?」
地域再生を考えるとき、私は経済を二つに分けて考えています。
一つは、病院や交通、買い物など、地域住民の暮らしを支える「生活の経済」。もう一つは、農業や観光、ものづくりなど、地域の外から収入を得る「外貨を稼ぐ経済」です。人口が減る中では、生活の経済は縮小せざるを得ません。だからこそ、ここでは過度な競争よりも「どう持続させるか」という視点が大切になります。一方で、地域の外に向けて価値を届ける経済には、挑戦と工夫、そして競争力が必要です。
私たちの役割は、後者でしっかり稼ぎ、その利益を地域の暮らしに還元する循環をつくること。生産者の所得を高め、地域全体の付加価値を上げていく。それが人口減少時代の地方における、私たちができるひとつの道筋だと考えています。
「安く仕入れて高く売る」は、やりたくない
ビジネスの世界では「安く仕入れて高く売る」が基本だと言われます。けれど、福島で事業を始めるとき、私は心に決めたことがあります。
「地域の生産者が苦しくなるやり方は、選ばない」
地域の事業は、生産者が元気でなければ続きません。だからこそ目指すのは、「生産者の粗利も上がり、私たちの粗利も上がる」モデルです。ヒントは、意外なところにありました。地元では「当たり前すぎて価値に見えないもの」や、「これくらいしかならない」と過小評価されているものです。
そこに新しい視点を重ね、都市のニーズと結びつける。すると、ゼロに近かったものが、新しい価値へと変わることがあります。
地方には、まだまだ磨かれていない原石が眠っているのです。
手が真っ黒になったあの日から
私たちのフェムケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」も、そんな未利用資源から生まれました。きっかけは、あんぽ柿の生産現場で聞いた一言。
「柿の皮、捨ててきてぇ」
柿の皮をむくと、手が真っ黒になります。かつてはおやつにしていたというその皮も、加工の現場では大量に廃棄されていました。しかし調べてみると、そこには豊富な成分が含まれていました。一方で、現代の女性たちは、生理や更年期など特有の健康課題を抱えながら働いています。けれど、その悩みは社会の中で十分に語られてきませんでした。
「福島の植物の恵みで、女性の悩みに応えられないだろうか」
その問いから、成分分析を重ね、専門家とともに天然由来100%の製品を開発しました。捨てられていた柿の皮が、女性を支える製品へと生まれ変わったのです。
地域資源を生かし、社会の見えにくい課題に応える。この挑戦は、生産者の所得向上にもつながっています。
「無意識のブレーキ」を外す
地域資源を価値に変えるうえで、最大の壁は資金でも技術でもありません。それは、私たちの中にある「思い込み」です。人は無意識のうちに、「これは価値がない」「昔からこうだ」と決めつけてしまいます。けれど、その「当たり前」こそが、新しい芽を摘んでいるかもしれません。
「なぜ、これは価値がないとされているのだろう?」
その問いから、可能性は広がります。視点を少し変えるだけで、地域の景色はまったく違って見えてきます。
地域は、可能性であふれている
人口減少を、ただ悲観する必要はないと私は思っています。人口が減るという事実は変えられませんが、地域の価値をどう見つめ、どう育てるかは、私たち一人一人の選択に委ねられています。
むしろ今は、これまで見過ごしてきた豊かさに気づく機会かもしれません。地域には、まだ光を当てられていない宝物がたくさんあります。それを見つけ、磨き、誰かの役に立つ形に変えていく。その旅は、とても前向きで、希望に満ちたものです。
小さな挑戦が、やがて地域の空気を変え、人の表情を変えていく。私はその瞬間を、何度も目にしてきました。競い合うためではなく、共に幸せに生きるための地域再生を、これからも模索していきたいと思います。
皆さんの地域でも、「これは本当に価値がないのだろうか?」と問い直してみることから、新たな物語が始まるかもしれません。
「地域再生を考える」編集委員会
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進むサステナブルな団地・まちづくり -
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