地域再生を考える

2025年3月掲載

古民家レストランの街「がもよん」
飲食店×空き家活用が生むにぎわいと挑戦

がもよんにぎわいプロジェクト 代表理事 和田 欣也さん

がもよんにぎわいプロジェクト 代表理事
和田 欣也さん
1966年大阪市城東区生まれ。1995年の阪神淡路大震災をきっかけに人が安全に暮らせる住宅を目指し、耐震工事の活動を開始。2008年より大阪市城東区蒲生四丁目にて古民家リノベーションをスタートさせ、2024年12月現在では蒲生四丁目エリアにて35店舗以上を再生。
「古民家再生の街、がもよん」

がもよんは、大阪市城東区に位置する住宅街である。国道1号線に沿った交差点は老若男女問わず多くの人が行き来する生活の基盤となっており、日々人々の活気によって下町らしさを醸し出している。一つ通りを入ると、昔ながらの古民家が立ち並び、表通りの喧騒(けんそう)とはかけ離れたレトロな趣が味わえる路地が正体を現す。私たちは、そんな路地に点在する古民家を生まれ変わらせているのだ。

古民家×飲食店=可能性

古民家といえば、最近はおしゃれやレトロ感などで売り文句にされることも増えてきたが、元はといえば築年数のたった古く使い道のない建物である。そこで私たちが2008年から取り組み始めたのが、『がもよんにぎわいプロジェクト』だ。具体的には、古民家を事業用店舗に変え、地域ににぎわいを創出するプロジェクトで、現在35店舗以上の古民家店舗が、がもよんエリア内に点在している。

特徴的な点として、古民家店舗の多くは飲食店となっている。その理由は、来客=売上であるからだ。物販の店舗に訪れた時をイメージしてほしい。自分が思っている商品じゃなかった、なんとなく雰囲気にひかれて入ってみた、値段が思ったより高かったなど、商品を買わないということも往々にしてあるだろう。しかし、飲食店はお腹が減った、ビールを飲みたいなど最初から支払いをする算段をたてて入店する場合がほとんどだ。つまり、来客が売上につながり売上が可視化しやすいというメリットがある。

古民家を飲食店中心にリノベーションする手法が功を奏したのか、プロジェクト開始から16年、経済面を理由とした事業撤退の店舗はゼロとなっている。

ステージの変遷、戸建古民家から邸宅古民家へ

現在も、がもよんの街の取り組みを続けると同時に、近畿エリアの邸宅と呼べる大規模な古民家の再生にも力を入れている。都心部から離れた郊外で築100年以上の物件で、所有者が先代より受け継いできたというパターンが多く、状態も空き家の中でも比較的良好といえるのが特徴だ。所有者の熱量も高く、先祖から大切にされてきた家をどうにか利活用したいという思いを持って相談を受けることがほとんどである。現代の空き家問題の傾向からも、このような邸宅物件の活用方法の提案は、今後需要が高まってくるに違いないだろう。

邸宅を複合商業施設に

そんな中、2025年より始動するのが『守口市旧徳永家住宅』の活用である。これも先述の大邸宅の一つで、大阪市から少し離れた守口市エリアで空き家となっていた物件のリノベーション+施設の運営を行う。物件内を7エリアに区分けし、エリアごとにテナントを入れた複合商業施設としての活用を進める予定だ。

市民向け貸し農園、ブリュワリー、レストラン、物販、イベントスペースなど多彩な施設を盛り込み、地域住民の日常に溶け込む面と特別な日に大切な人と訪れる非日常の面の二面性を有する施設として生まれ変わる。

私たちはこの『旧徳永家住宅』が新たな守口市のランドマークとなるようなプランニングを進めている。

古民家を扱う難しさ

古民家リノベーション物件がじわじわと人気を獲得してきている昨今、請け負う側としてもその性質が素人向きでないように感じている。築50年以上なのは当たり前で、図面すら残っていないなんてのもよくある話だ。テンプレートの仕事をこなす能力ではなく、その建物ごとに特徴を捉えて臨機応変に対応するスキルが求められる。

さらにここ数年での建築費の高騰も影響している。5年前までと同じ金額で工事をすることは到底不可能で、どこをどう削ぎ落として予算の枠組みを作るかということがプランニング段階で求められてくる。

古民家の特性上、最初の見積段階の金額でキレイに収まりましたというパターンは少ない。実際ふたを開けてみた時にどうなるのか、調査の段階で目算をつけられるような現場経験が問われるのだ。

最後に

古民家を活用した地域再生の取り組み、難しさについて触れてきたが、根本的に地域再生というのはシンプルな話である。他の成功事例を追って回って知識を蓄えるより、とりあえずやってみて、時には失敗しながらでも進んでいくほうがいい。地域を支えているのは、技術やシステムの結晶ではなく、その街に暮らす住民たちなのだ。地域のデータを分析する暇があるなら、街に繰り出してその街のポテンシャルとニーズを自分の足で感じるべきだという意見をもって、今回の事例紹介を締めさせていただきたい。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 古民家を改装したアフタヌーンティーの店舗『salon de the Tea shot』

    古民家を改装したアフタヌーンティーの店舗『salon de the Tea shot』

  • おひとりさまでも立ち寄りやすいイタリアンバール『ISOLA』

    おひとりさまでも立ち寄りやすいイタリアンバール『ISOLA』

  • 飲食店以外にも、市民向け貸し農園『がもよんファーム』の運営なども行っている

    飲食店以外にも、市民向け貸し農園『がもよんファーム』の運営なども行っている

  • 古民家の中にはこのような状態が悪いものも存在していた

    古民家の中にはこのような状態が悪いものも存在していた

  • 守口市の文禄堤沿いにある邸宅『旧徳永家住宅』

    守口市の文禄堤沿いにある邸宅『旧徳永家住宅』

  • 『旧徳永家住宅 活用プラン』バリエーション豊かな施設を盛り込んだプランニング

    『旧徳永家住宅 活用プラン』バリエーション豊かな施設を盛り込んだプランニング

団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価2,090円(税込)/水曜社

団地再生まちづくり5
日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある
編著
団地再生支援協会
合人社計画研究所
定価2,750円(税込)/水曜社

(無断転載禁ず)

地域再生を考える

Wendy 定期発送

110万部発行 マンション生活情報フリーペーパー

Wendyは分譲マンションを対象としたフリーペーパー(無料紙)です。
定期発送をお申込みいただくと、1年間、ご自宅のポストに毎月無料でお届けします。

定期発送のお申込み

マンション管理セミナー情報

お問い合わせ

月刊ウェンディに関すること、マンション管理に関するお問い合わせはこちらから

お問い合わせ

関連リンク

TOP