「誰に貸したい?」から始まる未来
想いと共感でつなぐ「さかさま不動産」

- 株式会社On‐Co 代表取締役
水谷 岳史さん - 1988年三重県生まれ。造園業や空き家を活用した事業運営を経て、2019年にOn-Coを共同創業。社会課題に向き合い、多様なアイデアを形にする仕組みづくりを得意とする。Forbes JAPAN「NEXT100」選出。総務省 地域力創造アドバイザー。
「さかさま不動産」とは
私たちが運営する「さかさま不動産」は、物件情報ではなく、「借りたい人」の夢や目的を掲載するサービスです。その想いを読んだ大家さんが、「この人を応援したい」「この人に貸したい」と手を挙げる。従来の不動産サービスとは物件と人の関係が”さかさま“であることから、この名前をつけました。
僕たちが大切にしているのは、大家さんに、「借りたい人の想い」を伝えることです。なぜその場所でやりたいのか。どんな未来を描いているのか。インタビューを通してそれらを記事にし、大家さんから連絡があれば、貸したい理由を確認したうえで両者をつなぎます。2020年のサービス開始から、これまでに42組をつないできました。
ただし、僕たちは不動産会社ではなく、最終的な仲介や売買には関わりません。契約を希望する場合は、地域の不動産会社に入ってもらいます。また、掲載者や大家さんから利用料もいただいていません。
なぜ、不動産仲介をせず、無料でこの仕組みを続けているのか。そこには、僕たちなりの考えがあります。ここからは、さかさま不動産の取り組みを通して考えてきた、「地域再生」について書いてみたいと思います。
「昔」の復活ではなく、未来へシフトする
「昔はにぎやかだったのに」。地域に行くと、よくこんな言葉を聞きます。僕はこの言葉を聞くたびに、「その“昔”って、いつのことなんだろう。このまちは、どの時代からあったのだろう」と考えてしまいます。
おそらく、ここでいう“昔”とは、高度経済成長期のこと。今よりもっと人がいて、商店街もにぎわっていた。そういう意味なのだと思います。でも、僕は思うんです。「そりゃそうですよ。人口が違うんですから」と。
高度経済成長期と今を比べて、昔のほうがよかったと憂い、そのころの姿に戻そうとする。それよりも、地域を今、そして未来に合った形で残していく。そのほうが、僕にはしっくりきます。
たとえば、どんどん壊して新しい建物を建てるのではなく、古くなった空き家を手入れしながら、誰かが活用できるような状態で残していく。生活用品をインターネットで買えるようになったのなら、商店街は、ものを買うだけの場所から、人と人が出会う場所へと変化していく。
そんなふうに、ある程度の未来を予測しながら、まちのあり方を変える。「昔のように復活させる」というより、「未来に向けてシフトさせる」。僕が思い描く「地域再生」とは、そんな取り組みのことです。
地域の未来を、誰と話し合うのか
一方で、地域の未来を考えるうえでは、難しいこともあります。不動産は地域のなかにありますが、それを所有する人たちはさまざまです。不動産を資産として捉える人もいれば、地域の一部として捉える人もいる。地域に住んでいる人もいれば、地域の外にいる人もいる。なかには、海外の人もいるかもしれません。
では、そうした多様な不動産所有者が一堂に集まり、「この地域を、こんなまちにしていきたいね」と話し合うことがあるのか。商店街のような組織があれば、ある程度の対話は行われていると思いますが、そうしたつながりがない地域では、話し合いの機会すら生まれにくいのが現状です。
土地の価格が上がる。テナントの賃料が上がる。人が増える。そうした数字で地域の豊かさを測れた時代は、答えが分かりやすかったのだと思います。でも、これからは、どんな状態がこの地域の未来にとって最適なのかを話し合い、それぞれの地域なりの答えを出していかなければなりません。にもかかわらず、その意思決定に関わる人たちが、なかなか話し合えない。僕はここに、地域再生を考えるうえでの大きな問題があると捉えています。
問いから、地域のあり方を考える
その問題に対して、さかさま不動産がひとつの有効な手法になるのではないかと考えています。
一般的な物件探しでは、借りたい人が、家賃や立地などの条件から物件を選びます。一方、さかさま不動産では、「この地域で〇〇をやってみたい」という人の想いを記事にして掲載します。大家さんには、記事を読んだ上で「なぜ、この人に貸したいのか」という理由を書いて応募してもらいます。
マッチング後は、借りたい人と大家さんが直接コミュニケーションをとり、内覧などを通してお互いを知った上で、最終的に貸すかどうか、借りるかどうかを決めます。
僕たちは、掲載者や大家さんからお金をもらわずに運営しています。だからこそ、成約率や件数を最優先にする必要がない。もしマッチングによって利益を得ていたら、「想いでつながる」という仕組みに、ここまでこだわれなかったかもしれません。
さかさま不動産は、借りたい人に「その地域で何をしたいのか」を問うのと同時に、大家さんには「この家を、この地域を、これからどうしていきたいですか」という問いを投げかける仕組みなのだと思います。
もちろん、その問いに明確な答えが出るとは限りません。それでも大家さんはまず、借りたい人の想いや活動を知ろうとする。問いに向き合う過程で、自分の所有する物件をどんな人に活用してもらいたいのか。その人が関わることで、地域がどうなってほしいのか。そこから、地域の未来を考えるきっかけが生まれるのではないでしょうか。
こうして1人1人が地域のあり方を考え始めることが、やがて周囲との対話を生み、地域再生につながっていくのではないか。僕は、そう考えています。
現在、さかさま不動産では、この取り組みを地域でも実践したいと考える団体から声がかかり、各地に動きが広がっています。広島県では呉市役所と連携し、さかさま不動産の仕組みを地域振興や創業支援の施策などに活用しています。
不動産に関わるみなさん。ぜひ一度、さかさま不動産をのぞいてみてください。そして、「誰に貸したら、この地域の未来が面白くなるだろう」と、少し妄想してみてください。その小さな問いから、地域再生は始まるのだと思います。
「地域再生を考える」編集委員会
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進むサステナブルな団地・まちづくり -
編著
団地再生支援協会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所 - 定価2,090円(税込)/水曜社
- 団地再生まちづくり5
日本のサステナブル社会のカギは「団地再生」にある -
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