住まいは人生の選択肢を広げるか
石巻の空き家が生み出す多様性と持続可能性

- 株式会社巻組 代表取締役
渡邊 享子さん - 1987年埼玉県生まれ。東京工業大学大学院(現:東京科学大学大学院)社会理工学研究科修了。東日本大震災を契機に宮城県石巻市へ移住。2015年に巻組を設立。地域の空き家を活用し、多様な生き方を支える住まいのあり方を実践する事業づくりに取り組む。
「地域再生」は人を幸せにするのか?
私は、埼玉県で育った。地元にも帰るが、故郷の自治体はいまだ人口が増えているらしい。帰るたびに古い建物が一掃されて10階建て以上のマンションが新築されている。
かくいう私も両親が購入した新築マンションで、なんとなく地元に愛着がないまま育ち、東京で大学の寮に入りながら都市計画を勉強していた。
転機は2011年の東日本大震災。何か役に立てればと考えて宮城県石巻市にボランティアに入り、地域で生きることの楽しさを覚え、結婚して、会社を起こし、子どもを産んで15年この地を拠点に活動してきた。
津波で大きな被害を受けて、復興に向かう街は、これまで学んだ都市計画とまちづくりが急速な勢いで進んでいた。東北全体で33兆円もの予算が建設物の復興に投じられ、1年のうちに何度も都市計画審議会を開き、市街化調整区域の開発も進め、急速な勢いで住宅供給を進めた。
石巻市内に計画された復興住宅数は約4500戸。目まぐるしく進む都市計画を目の当たりにし、「まちづくり」や「地域再生」の考え方に疑問を覚えた。街を作ることで、地域を「再生」することは、人を幸せにするのか。
かくいう私は、空き家を1日から活用可能なシェアハウスやゲストハウス、クリエイティブスペースとして運営している。これは、地域を再生するためではない。不動産の選択肢が少ない地方都市において、多様なライフスタイルを受容し、1人1人の生活がクリエイティブで豊かなものになることを願ってのことである。
住まいのための人生か、人生を支える住まいか
不動産市場では、新築の住宅を購入することが好まれる。それらを購入するために35年の住宅ローンを組んで返済しながら生活することが一般的だ。
住宅ローンを組むためには安定した雇用先が必要で、審査が通りやすい会社の規模がある。これが戦後の日本のライフパスの基本的な価値観を支配してきた。マイホームを買うために安定した雇用先を見つけ、そこで働き住宅ローンを返済しながら一生を終える。家計の3分の1以上を返済が占め、それを返すことが働く意味や人生の意味になっていく。
35年後に残るのは築35年以上の中古の住宅。誰かが使ったものは使いたくないので新しい家を建てる。そして、空き家が増え、住宅ローンを返すための新しい人生が始まる。
私は、そのことが不自由に感じた。本来逆であるべきだ。住まいのための人生ではなく、人生を支えるための住まいでなくては。
そして、東日本大震災を契機に石巻に移住し、地方の暮らしに可能性を感じた。石巻市では、震災後に約3500億円の復興予算を投じ約4500戸の復興住宅を作った。この間、人口は約3万人減少し、現在でも市内に1万戸以上の空き家があるほか、復興住宅の入居者も減り、維持と活用に苦心している。
そうした中で、巻組は残った空き家で1日から入れるシェアハウスRooptの運営や年間3万円で地域内外のクリエイターが使えるシェアアトリエスペースCreative Hubを運営した。この結果、年間800名以上の関係人口を石巻市内に創出し、遠隔介護中に創作活動に取り組み、市内で個展を開催する主婦、毎月首都圏から石巻市に通い、巻組のゲストハウスのDIYやその庭で育てたハーブでお香作りに取り組む上場企業の会社員など、新しいライフスタイルの創出に成功した。私も首都圏と行き来しながら、数百万円以内ですぐに居住可能な空き家を購入し、会社を運営しながら家族で生活している。
上記にあげた事例の人々は決して固定的な雇用に縛られず、住む場所も固定されておらず、移動の中で、本来の自分に出会い人生の選択肢を広げている。
動的平衡という視点
地域運営の現場では、いかなる時でもSDGsに即しているかが求められ、自治体等の方針に沿っていると見なされる。しかし「サステナブル」とはどういう状態か明確に説明できる人がどれほどいるだろうか。
その問いに対して、私がもっとも明確に説明していると感じたのが生物学者の福岡伸一氏が説く「動的平衡」という考え方だった。同氏は、生命を固定されたものではなく、絶えず壊され、つくられながら均衡を保つ「動的平衡」として捉えている。そして、その状態を生命の「持続可能な状態」と説明した。私はこの考え方に感銘を受け、1人1人の生活者の共同体である「地域」もこの一部ではないだろうかと考えた。多様性で変遷することにより均衡を保ちそれが一つの共同体になる。固定化され標準化されれば持続性を失う。
住宅を量産することはライフスタイルの標準化へ向かい、持続性を失う。空き家の活用によって実現する地域の持続性は、動的平衡の実践であり、廃棄物を減らすことではない。
地域再生とは?
結論から言うと、私自身は「地域再生」という概念そのものへの疑念はいまだ尽きず、また自分の活動のアウトカムと捉えていない。「地域」を人口が多く、経済活動が活発であった時代へ戻すために人生の大切な時間を使うことに持続可能性を感じない。ただ、理想的な地域の形があるとすれば、1人1人が内発的にクリエイティビティを発揮し、幸せだと感じられるライフスタイルがあふれ出している共同体だ。そのために、住まい方とそれを支える仕組みを再編していくことが重要なのである。
宮城県石巻市という震災で大きな破壊を受けた地域を拠点に、今後100年の日本の住まいのあり方が変わっていくことを願って、小さな実践を繰り返している。
「地域再生を考える」編集委員会
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進むサステナブルな団地・まちづくり -
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団地再生支援協会
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合人社計画研究所 - 定価2,090円(税込)/水曜社
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