決めすぎない場所が人を動かす
ヤマヤマミタが育む「わくわくの循環」

- 中電工業株式会社 不動産事業部 出汐開発プロジェクトマネージャー
牛尾 哲也さん - 中電工業株式会社にて出汐開発プロジェクトを担当。広島市南区の出汐に所有する土地の将来的な本格開発のトライアルとして交流広場「ヤマヤマミタ」の立ち上げ・運営に従事。企業と地域が関わり合う新しい形を模索している。
取り残された場所に向き合う
広島市南区出汐(でしお)。
当社の本社があるこの土地は、私たちの拠点であると同時に、地域に対してどう開いていくかが問われる場所でもある。
現在、この場所で将来的な本格開発に向けたトライアルとして、交流広場「ヤマヤマミタ」を運営している。実はこの土地の開発は、30年以上前から社内で検討されてきた経緯がある。その中で繰り返し議論になってきたのが、「有効活用とは何か」という問いだった。企業である以上、収益性を高めることは当然欠かせない。持続可能な事業として成立させるために、価値をどう生み出すかは避けて通れない前提である。
一方で、私たちは中国電力グループの一員として、インフラを担う企業でもある。インフラは地域があってこそ成り立つ事業であり、地域との関係性なしには存在し得ない。
そう考えたとき、この土地の「有効活用」を単純に収益性だけで定義してよいのかという違和感が残った。さらに、「地域課題の解決」という言葉もよく使われるが、机上で整理された課題だけでは実態は見えてこない。どれだけ分析を重ねても、どうしたら地域の方々がこの街で活き活きと「わくわく」しながら暮らせるのかは分からない。やはり必要なのは、人と関わること、同じ輪に加わることだった。地域の中に入り、そこにいる人たちと交わる中でしか見えてこないものがある。一緒につくる街だからこそ、皆で「わくわく」できる。
この土地は、70年以上前にこの場所で生まれ育った企業の原点とも言える場所である。ただ、かつては工場として稼働していた背景もあり、安全面の制約から長年にわたり人が自由に出入りできる環境にはなかった。現在は月極駐車場として活用されているが、出入りするのは契約者が中心で、地域に開かれた場所とは言い難い状態が続いていた。
だからこそ、この場所をどう地域に開くのか。そして、企業としての価値と地域にとっての価値をどう両立させるのか。その問いに向き合うことから、ヤマヤマミタでのトライアルが始まった。
決めすぎないという選択
私がこのプロジェクトで実現したいのは、「わくわく」が一過性のイベントで終わるのではなく、地域の中で自律的に巡り続ける「わくわく循環型の街」状態をつくることである。
立ち上げにあたっては、いくつかの選択肢があった。公共的な施設にするのか、商業施設とするのか、それとも収益性を優先するのか。どれも正解のように見える一方で、どこか腑に落ちない感覚があった。
地域の中を歩き、人と話をする中で見えてきたのは、「あらかじめ使い方が決められた場所」よりも、「関わり方が開かれている場所」のほうが、自律的な「わくわく循環型の街」にはふさわしいということだった。
ヤマヤマミタは、用途を決めすぎない場として整備している。使い方はそこに来た人に委ね、その余白を残すことを大切にした。
将来的には、ヤマヤマミタの10倍規模で検討している当社所有土地全体の本格開発にも活かしたい考え方である。
場が動き始めた瞬間
実際に開いてみると、想像していなかった動きが次々と生まれた。学生が使いたいと相談に来る。地域の方がイベントを企画する。何気ない会話がその場で生まれる。
高校との探究プログラムでは、防災や地域をテーマにした学びの場が立ち上がった。子ども食堂の場面では、高校生と小学生が自然に言葉を交わし、世代を超えた関係が生まれていく。
あらかじめ設計したものではない。場を開いたことで、人の動きが立ち上がってきた感覚に近い。
余白が価値を生む
この土地は長年、限られた用途の中で使われてきた場所だった。しかし、使い方を限定しないことで、人の関わり方は大きく広がっていった。
キッチンカーに人が集まり、子どもが遊び、イベントでにぎわいが生まれる。そうした小さな動きが積み重なることで、この場所の意味は少しずつ変わってきている。売上のような分かりやすい指標では測れないが、人と人とのつながりや、この場所への愛着は確実に育ち始めている。
企業の役割も変わってくる
やってみて感じるのは、企業の関わり方も変わってきているということだ。すべてを決めて牽引するのではなく、場のバランスを見ながら整えていく。出すぎず、任せきりにもしない。その間を探り続ける。
対話を重ねながらかたちをつくる「調整役」のような立ち位置が、いまはしっくりきている。
地域はつくるものなのか
地域再生という言葉に、明確な正解はない。何かをつくるというよりも、関係をどうつないでいくか。その積み重ねのほうが本質に近いと感じている。
場所を開くと、人が動き出す。人が動くと、関係が生まれる。その結果として、地域の姿が少しずつ変わっていく。
ヤマヤマミタもまだ途中にある。それでも、この場所を通じて見えてきた手応えは確かにある。
地域があってこそ成り立つ企業として、この場所をどう開き、どうつないでいくのか。試しながらではあるが、この場所に「わくわくの循環」を根付かせるところまでは、必ずやり切るつもりでいる。
「地域再生を考える」編集委員会
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