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和紙作家/堀木 エリ子さん

堀木 エリ子さん
和紙が生み出す温もりの空間
Profile

堀木 エリ子さん/和紙作家
1962年生まれ。87年SHIMUS設立。2000年(株)堀木エリ子&アソシエイツ設立。「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、オリジナル和紙を制作。和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。近年の作品は「東京ミッドタウンガレリア」「パシフィコ横浜」「在日フランス大使館 大使公邸」のアートワーク等。著書に『挑戦のススメ』(ディスカヴァー)等がある。
http://www.eriko-horiki.com/


 私は、建築やインテリアに使用するための大きな和紙を制作しています。

 私が約30年通っている福井県の越前和紙には、1500年の歴史があります。ペーパーを日本語ではカミと発音し、神様もカミと発音します。奥さんのこともカミさんといい、人間の体の最も上にある毛髪もカミと発音しますので、敬うべきものや、とても大事なものに使われていた呼び名であり、発音だとも思われます。手漉(す)きの和紙は、お酒や塩と同じように神事や祭事にも必ず使われていて、日本人の生活に欠かせないものでした。

柔らかな空気感に包まれた光壁 撮影:ナカサ&パートナーズ 仲佐猛 ライトオブジェが温かく出迎えるマンション玄関
柔らかな空気感に包まれた光壁
撮影:ナカサ&パートナーズ 仲佐猛
ライトオブジェが温かく出迎えるマンション玄関

 ところが、現代においては、機械で製造された美しい紙が大量生産されて市場に出ており、さらに樹脂や硝子繊維で作られた新素材の紙も開発されています。そのような中で手漉きの和紙は、2年前、ユネスコの無形文化遺産に認定されました。

 無形文化遺産登録を受けて、産地は万歳三唱をしていましたが、別の見方をすれば、登録をして保護しなければ継承できない危機的状況にあるものに与えられる認定でもあります。絶滅危惧種と認められたのだと考えると、喜んでばかりはいられないと思っています。

 新たな用途や機能を与えて、現代の役に立つものにしていかなければ、伝統産業に未来はありません。私は職人さんたちの技や美学、精神性を次世代に送っていきたいと思って、日々活動をしています。

5mで漉き上げた巨大な創作和紙 撮影:松村芳治
5mで漉き上げた巨大な創作和紙 撮影:松村芳治
水滴で穴をあけ、不定形に漉き上げたタピストリー
水滴で穴をあけ、不定形に漉き上げたタピストリー

 日常、和紙のある空間の中で、ペットがいるから汚されるかもしれない、子どもがいるから破られるかもしれない、変色してしまうかもしれないなどという不安があっては和紙は使えません。消防法という法規があって燃えるものは建築空間に使用できないとなると、現代の生活の役には立ちません。

 私たちは、和紙に表面的なデザインを施すだけではなく、燃えない、汚れない、破れない、退色しない、精度を上げるなどの抄紙(しょうし)方法や、加工方法を開発してきました。

 生活空間で大切なものは「快適さ」だといわれています。私は、「快適」と「居心地の良さ」を分けて考えるようにしています。「快適」というのは、空調がいつも適温に保たれ、ボタン1つでお湯が出る、セキュリティーが整っている、というような状態で、100人いれば100人ともが快適と感じられることだと思います。一方、「居心地の良さ」というものは100人いれば100人とも異なり、1人の人間でも、年齢とともに変化していくものだと思います。

 私は、温かな質感を持ち、太陽光線や照明によって移ろう和紙こそが、「居心地の良さ」を生み出し、人が重ねる年月に寄り添ってくれる素材なのではないかと思っています。

 職人さんたちは、「白い紙は神に通じる」という精神性を持ち、白い和紙こそが不浄なものを浄化すると考えてきました。その考え方から日本人は、お金や品物を浄化して人に差し上げるために、白い和紙で作った祝儀袋や熨斗(のし)と呼ばれる掛け紙を、慣習として使用してきました。長い年月、受け継がれてきた「おもてなし」の心や日本人の美学。私たちは、そのような想いや精神性を、次世代につないでいきたいと考えています。

 季節の移ろいや時間の経過が感じられ、空気感や気配を演出できる“和紙のある暮らし”を通じて、情緒や情感のある「居心地の良さ」を感じていただきたいと思います。


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