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NPO法人フードデザイナーズネットワーク理事/中山 晴奈さん

中山 晴奈さん
「フードは風土。地域を紡ぐ食のデザイナー」
Profile

中山 晴奈さん/フードデザイナー
筑波大学、東京藝術大学大学院修了。週末起業のかたちで、学生時代より継続してきた美術館や博物館で食を使ったコミュニケーションデザインや出張料理を行うフードデザイナーとして独立。2012年NPOフードデザイナーズネットワークを設立し、ケータリングやワークショップデザインの他に、長崎県対馬市や山梨県富士吉田市、宮城県石巻市雄勝町などの地域活性事業にも関わっている。
http://fooddesigners.net


 私が理事を務めるフードデザイナーズネットワークは、都市部や地方が抱える社会問題の解決を、食を通じて問題解決の糸口を見つける取り組みを行っています。商品開発やワークショップにとどまらない、素材の発掘や人材育成を行う仕組みづくりについて紹介します。

食の問題解決が難しいのはなぜ?

 空前のIターン、Uターンブームである昨今、都市部と地方のどちらが豊かか、という問いがあれば、多くの人が地方だと答えるかもしれません。秋になると田舎から新米が送られてくる人も多いのではないでしょうか。貨幣経済に依存しない物々交換といった食の循環が実現していると、おなかはもちろん、心の充足感ももたらされます。一方で、多くの人が都市部から離れて暮らすことが難しいという現実もあります。ライフスタイルが多様になればなるほど、食の問題が複雑化していくのも目を背けられない事実です。農業、ロジスティックス、こどもの食、食料自給率、放射能の問題など…。あらゆる専門家が問題解決を試みても、解決どころか物事が複雑になっていきます。これは、食という事象が1つの専門領域だけでは捉えることが難しく、縦割りの取り組みでは限界があることを示しています。関わり合うできるだけ多くの人を、意識的に巻き込みながら、領域横断的に課題に取り組むことが、私たちに残された手だてではないでしょうか。そのために、さまざまな専門家が互いの領域を認め合い、消費者も含めた多様な立場の人々の恊働による解決に向けた取り組みを推進できる“領域を超えたコーディネーター”すなわち、フード(風土)デザイナーが必要であると考えています。

デザインとは弁当箱をつくること:長野電鉄ワイントレイン2012

ワイントレインにて人々のにぎわい
ワイントレインにて人々のにぎわい

 2012年3月に惜しまれつつ廃線を迎えた長野電鉄屋代線。地域住民の反対運動もむなしく、廃線が決定。そんな中、沿線に位置するワイナリー、各地で図書館や美術館をつくる仕事をしてきたディレクター、長野電鉄の職員らが、屋代線の最後をにぎやかに送り出したいと始まったのが「長野電鉄ワイントレイン2012」の企画です。車内でワインと食事を楽しもうという企画でした。

 私たちは、ワインの楽しみ方の可能性についてよく語ります。ワインは色、香り、味、そして情報を楽しむものですが、中でも産地、生産者、畑のコンディション、樹種、製造工程など、周辺のあらゆる情報がおいしいと感じるための調味料となり、情報が多ければ多いほど、さらに味覚が研ぎすまされていくような感覚が体験できます。

 地域の魅力発信も同様です。土地の環境、歴史、人、食材の珍しさ、手間暇などが組み合わさって、唯一無二の産品ができあがります。どこにでもありそうなものが、当たり前にかけているひと手間を情報として発信することで、どこにもない特別なものへと変化するのです。

 この一つ一つを紡いでかたちにするために、ワイントレインでは2つの取り組みを行いました。

ワイントレインのために用意された特製弁当
ワイントレインのために用意された特製弁当

 1つはワインと共に提供される食事です。1日目は沿線にある日本料理店「鈴花」の鈴木徳一さんが地域の食材で作りあげた特製弁当。2日目は軽めのワイン用のランチボックス。地域の人気の店をヒアリングし、沿線の味噌屋の漬け物や、総菜屋のサラダ、地元のハムなどをピクニックボックスに詰め込みました。

 地域を語るときに、目新しい料理を作る必要はありません。すでにあるものをより美しく、そして届けるべき人にきちんと情報を届けるというプロセスに価値があるのです。

ワイントレインに乗車した地域のソムリエたち
ワイントレインに乗車した地域のソムリエたち

 2つ目の取り組みは、各車両に5名配属したソムリエ(案内役)です。弁当と同様、特別なソムリエを採用するのではなく、地元の図書館司書、地元出身の大学生、町役場の職員、若手町議会議員といった、地域を盛り上げたいと日々がんばっている地域の人たちを集めることで、熱のこもった地域のソムリエができあがりました。着地型観光の成功のポイントは、地元の人との会話だといわれます。気取った話ではなく、素朴なやり取りの一つが、次にまた来たいと思わせるポイントになるのです。

 2日間の参加者は車両の大きさの限界もあり限定200名でしたが、その後も各地域の私鉄で同様の取り組みが行われるなどされています。

風土はフード?

 風と土と書く「風土」という言葉は、その土地の気候・地味・環境などの意味の他に、文化形成を育む精神的なことも含む、英語にしにくいきわめて日本的な考え方を象徴する言葉の一つです。地域をつくるには、その土地を長く、静かに守る土の存在と、土地から土地へと渡り、つないでいく風の存在が必要不可欠であるといわれます。

 フードデザイナーは、その風の存在だといえるでしょう。地域の中で暮らしていると、次第に見えにくくなっていくその土地の個性や魅力、そして地域が抱える課題について、外部者の視点を生かしながら地域の方々と共に見つめ直し、一緒に埋もれている土地の魅力やアイデンティティーを掘り起こします。

 さまざまな場面で「食」という切り口が有効であるのには多くの理由がありますが、食の話題であればどんな人でも、好きか嫌いかくらいは自分の意見を述べることができます。そんな年齢も、言語も超えた、最強の“コミュニケーションツール”であると私たちは考えています。

全国のフードデザイナーを探しています!

 私たちはさまざまな地域で「食のデザイン」を通じ、人や町を元気にしていくフードデザイナーたちの支援についても取り組んでいます。日本各地に散らばるフードデザイナーをネットワーク化することで、地域が抱えている課題や先進事例をより多くの人と共有することを可能とし、ノウハウの蓄積や交流を通じ全国的な地域課題に対する取り組みのボトムアップに貢献できるものと考えています。

 同時に、地域におけるフードデザイナーという役割についても明確化し、地域を活動の場としながら積極的に都市部を巻き込むことができる人材の育成に取り組むことも重要であると考えます。これらの取り組みの中で、次世代のフードデザイナーへ活動の場を創出するとともに、これからの日本社会が長期にわたって人と町の活性を維持する循環が生み出せるよう変革の牽引を目指していきたいと思っています。



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