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ティールーム オーナーシェフ/宮脇 樹里さん

宮脇 樹里さん
「最高のティータイムの時間を」
Profile

宮脇 樹里さん/ティールーム オーナーシェフ
鎌倉生まれ。幼少を旧西ドイツで過ごし、92年に渡英。セントアンドリュース大学卒業、修士号取得。コルドン・ブルーロンドン校にてグランディプロム取得。2000年両親と共にゲストハウスを開業した後、03年コッツウォルズでティールーム"Juri's"を開業。08年英国ティールームの最高峰「トップ・ティー・プレイス」賞受賞。著書は『コルドン・ブルーの青い空』(講談社)など多数。
www.juris-tearoom.co.uk


ジュリス外観
ジュリス外観

 思う存分、お菓子作りと料理作りに打ち込みたい―。

 そんな思いつきで始まったティールーム業。伝統文化を受け継ぐという気負いはありませんでした。ところが地元新聞では「東(洋人)の宣誓―オールドティーショップ」と仰々しい見出しで紹介記事が掲載され、開業前から町の話題に。「スシを握る国の人間にティールームなんてできるものか」地元のパブではこんな皮肉交じりの冗談も飛び交ったとか。

 多くの英国人が憧れるというティールーム業を外国人に取られたという、複雑な心境がうかがえました。

 歴史と伝統があるということは素晴らしいことですが、同時に保守的閉鎖的であることも意味します。古い体制は人々の食の好みにも顕著に表れ、開業当初は当惑したものです。「この店にはヴィクトリアサンド(ラズベリージャムをサンドした伝統的なケーキ)もないの!?」これはフランス菓子一辺倒だった私を英国菓子に開眼させた一言です。英国人のハートをつかむにはおごりを捨て、この地に根差した食の在り方を学ぶ必要がありました。英国料理とお菓子の本を読みあさり、次第に古書に手を伸ばす機会も増えました。

カウンターに並ぶケーキ フロントルーム
カウンターに並ぶケーキ フロントルーム

 この国の豊かな食歴史に触れ、素直にうれしかったのは、ライフワークとして、この国の食と向き合っていきたいと思えたことでした。ここに暮らす意義も明確になり、希望が持てました。

 ジュリスのお客さまは年齢層も幅広く、生後2週間の乳児から90歳以上のご高齢の方まで。またコッツウォルズは世界の観光地でもあります。文化や宗教上のちがいもあれば、近頃は食アレルギーの問題もあるので、メニューはシンプルに、を心がけています。"A MUST"とも言うべきスコーンはもちろんのこと、ヴィクトリアサンドやキャロットケーキなどを作りながら日々自問するのは、伝統という言葉に甘える自分はいないか。19世紀のレシピを、現代にふさわしい味によみがえらせる工夫を怠らない。伝統菓子の良さやスタイルを維持しながらも、常に自分のイメージする食感や味を追求していく姿勢を崩さない。開業10周年を迎える現在、ジュリスでアフターヌーンティーを楽しむ英国人に倣いたいことは、人と人を繋ぐ社交としてのお茶とその楽しみ方です。

柔らかな木もれ日が差し込むコンサバトリー(サンルーム)
柔らかな木もれ日が差し込むコンサバトリー(サンルーム)
四季折々の花が咲くティーガーデン
四季折々の花が咲くティーガーデン

 お菓子作りが私一人に委ねられている限り、ファンが増えても量産ができない現状に時折ジレンマを感じます。「クオリティーとは結局そういうことだ。だからジュリのお菓子に魅力を感じるんだよ」。ある時、リピーターのお客さまが何気なくつぶやいた言葉ですが、どんなに救われたことか。

 2008年のトップ・ティー・プレイス賞(英国ティーカウンシル社が毎年、最も素晴らしいティールームに与える賞)受賞は青天のへきれきともいえる予想外の出来事でした。

 採点対象は紅茶の味のみならず、建物の風格、それにあった内装(インテリア)や雰囲気、サービスの質など多岐にわたりますが、究極的には、最高のティー体験をさせてくれる場としてふさわしいか否か。また庭は英国人の心です。ジュリスにティーガーデンがあることは幸運とは分かりながらも、季節の花を絶やさず庭を維持するのは、思いの外、労を要します。バラのとげにひっかき傷をつくりながら、それでも庭仕事に精を出すのは、庭を見て喜ぶ人がいるから。築350年の保存指定建造物に住むと、その維持管理に経済的精神的な負担もありますが、古いものを愛しむ英国人のスピリッツも理解できるようになりました。

 アンティークやインテリアへの興味をさらに深め、テーブル周りの小物や茶器類のコレクションを紹介しながら、ここを舞台に、食とライフスタイルの提案者になれたら―。将来にそんな夢を描いています。



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