Wendy-Net トップページ > Woman > Back Number > シューズクリエーター 野田 満里子さん

Woman

BackNumber

シューズクリエーター/野田 満里子さん

野田 満里子さん
「世界に一つの靴音を響かせよう 」
Profile

野田 満里子さん/シューズクリエーター
メキシコ市生まれ。8歳の時日本へ。大学で美術学科工業デザインコースを専攻。富士フイルム(株)デザインセンターに在職中、靴作りと出会い、趣味からだんだんと本職にしたいという欲求が高まり、2000年春に退職。横浜に靴工房ZAPATEOを立ち上げ、01年より本格的に活動。09年春より工房を浅草に移転。
http://www.zapateo.com


靴との出会い

アッパーを縫うのに使用しているSINGERの足踏みミシン
アッパーを縫うのに使用しているSINGERの足踏みミシン
お客さまへの年賀状。靴作りの工程や材料などをイラスト化したもの
お客さまへの年賀状。靴作りの工程や材料などをイラスト化したもの

 メキシコで生まれ育った私は、家の中でも靴を履く生活だった。母から聞いた話によると、かなり小さい頃から、こだわりが強く、気に入らないと絶対に着ない、履かない、子どもだったそうだ。中でも靴が好きで、幼稚園や外出から帰ると、靴が置いてあるクローゼットの中に入って、何度も履き替えたりしていた。

 高校、大学時代には、ほしい靴を買うために、バイトでお金を貯めたこともあった。しかし、身に着けることが好きという以外の感情は特になかった。

 就職し、富士フイルム在職中に靴好きな先輩とよく話をしていた。ある日、その先輩が履いていた靴をほめると「自分で作ったんだ」とちょっと得意げに教えてくれた。自分の手で靴が作れる!?その瞬間から私の生活は一変した。

 先輩が靴作りを習っている学校に見学に行き、その場で申し込み、週1日、趣味で靴作りを習い始めた。そんな生活が1年半程続くと、思い通りの形を型紙から作りたいという欲求が高まり、専門コースに転科。毎日、会社帰りに学校に通い、夜中に次に作る靴のアッパー(靴のソール部分より上の、足の甲を覆う部分)を作り、土曜日は底付けの職人さんのもとに弟子入りし…と靴作り漬けの日々を1年半ほど送った。

 富士フイルムへは大学で専攻したプロダクトデザイナーとして就職し、カメラや機器のデザインの仕事をしていた。特に不満もなく、靴を習い始めた頃はむしろ充実感で仕事もとても楽しくなっていた。しかし、定年まで会社で勤め上げる自分の姿をイメージできずにいた。靴の専門コースを卒業した後は、職人さんの所に通いながら家族や友人の靴を作っていた。これを仕事としてやっていけないのだろうか…と考え始めていた。

 そんな時に、かかりつけの歯科医師から、開業している敷地に空きスペースがあるから工房として使ってはどうか、との提案があった。靴作りは音が出ることと、自宅での作業に限界を感じていたので、思い切って工房を開いた。

 やっていけるだろうか、という不安からあえて目を背け、勢いを付けて会社も辞め、1年ほど準備をする中で、飛び込みで売り込んだ靴の専門学校に講師の口が見付かった。また、ありがたかったのは、在職中に一緒に仕事をしていた関係各部門の方々が工房に来て注文をくれた。顧客ゼロからのスタートでも何とかやっていけた。

 しかし、順調な滑り出しもずっと続いたわけではなく、デザインを優先したせいや採寸ミスなどで、完成した靴がお客さまの足に合わず、作り直しになったり、と失敗が重なったこともあった。段々と自信をなくし、靴を作ることが楽しいだけではなくなっていくことが怖くなったりもした。それでもなんとかくじけずに続けてこられたのは、家族・友人のサポートや気長に待ってくださるお客さまのおかげだと感謝している。

靴の魅力

フルハンドソーン(手縫い)のストラップショートブーツ
フルハンドソーン(手縫い)のストラップショートブーツ

 屋号のZAPATEO(サパテオ)は、スペイン語で「靴音、ステップ」の意。

 私の作った靴を履いた人が、ステップを踏みたくなるような楽しい気持ちになるようにという思いで付けた。

 「履くことが好き」から「作りたい」と思うようになったのは、ファッションアイテムでありながら、人間工学系の緻密性と、気温、湿度、革の状態など陶芸の土をいじるような感覚を必要とする奥深さ、そしてお客さま一人一人と対話しながら、全ての工程に関わることができる、という魅力からだ。

 完成した靴に足を入れていただく瞬間が最も緊張し、また最もうれしい瞬間でもある。

 足にフィットした靴は、入れた瞬間に空気の抜ける「シュッ」という音が出る。この音を聞き、お客さまの満足そうな笑顔を見ると緊張も疲れも吹っ飛ぶ。また、作った靴を履いたご感想や旅先からのご報告などをいただいたり、修理で戻ってくることもうれしい限りだ。

靴へのこだわり

アッパー・ソールカラー、アップリケの種類・位置を選ぶ、セミオーダーライン
アッパー・ソールカラー、アップリケの種類・位置を選ぶ、セミオーダーライン

 フルオーダーという形式は、ある意味自分のデザインや思いを押し付けては成り立たない部分がある。しかしお客さまにこんな風にするとよりおしゃれで似合うのではないか、と少しの遊び心を加えた提案をする。また、足に合っていることは当然だが、履きたくなる形状でないと意味がないとも思い、履いた時にきれいに見えるフォルムに仕上げることも心がけている。

 以前は、靴作りはこうあるべき、との思いで自分に合わないやり方を課していたようなところがあったが、こだわりを持って遮断するのではなく、その時にやってみようかな、と思えたことをやっていこう、と考えるようになった。自分が良い状態でいないと人に喜んでもらえる物は作れない、と。そんな考えから、ベビーシューズ、革小物やミニチュアシューズの制作が始まり、今春から始めたセミオーダーシューズのラインもその一つ。どうしても高価になってしまうフルオーダーに対し、もう少し身近なオーダーラインを作ってみる試みで、今年3月のそごう横浜店での受注会を皮切りにスタートさせた。今年の9月に秋冬物も加え再出展予定。

 

読者の皆さまへ

メキシコ原産野菜やサボテン、ガイコツなど、メキシコモチーフシリーズの革小物とクリーム
メキシコ原産野菜やサボテン、ガイコツなど、メキシコモチーフシリーズの革小物とクリーム

 足に合った靴を履く大切さを知ってほしい。自分の体で実験をしているような感じだが…イベントに参加して腰痛になり、針治療を受けた際に疲れではなく足からきている可能性を指摘され、合わない靴を履いていたことを思い出し、実感した。

 そして、靴はつい無難な色選びになりがちだが、きれいな色を身に着ける楽しさも知ってほしい。

 また靴のお手入れも面倒がらずにぜひやってほしい。ケア用品が多すぎて手順やどんな物を選べば良いのか分からない、などの声を多く聞き、オリジナルのケアクリームを開発した。靴だけでなく、革製品全般のお手入れがカンタン、気持ち良いと思ってもらえるような商品になった自信作である。皆さんにもっと靴を楽しんで履いてもらえるようにと思っている。



BackNumber

(無断転載禁ず)