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園芸療法実践家/グロッセ 世津子さん

園芸療法実践家/グロッセ 世津子
「生きていくことは、サプライズ!〜ハラハラ、ドキドキの場面を仕掛ける醍醐味〜」
Profile

グロッセ 世津子/園芸療法実践家
立教大学仏文科を卒業後、フランスのブザンソン大学へ留学。ベルギーで13年暮らし、1986年に帰国。(有)みどりのゆび代表取締役。東京農業大学客員教授、兵庫県淡路景観園芸学校園芸療法課程講師、準臨床美術士。ペイザジストである夫グロッセ・リュック氏のパートナーを務めながら、HTネットワーク主宰。感性療育研究所理事、園芸療育センター代表。アメリカ園芸療法協会認定の高等園芸療法士ボディル・アナーヤ女史に師事した経験を生かして、実践活動を行っている。著書に、「園芸療法のこころ」「園芸療法」ほか多数。




岩手県花巻市(旧東和町)立「西洋風モデルガーデン&園芸療法ガーデン」は、温泉に併設するユニークな庭。障害のある方のセラピーと就労の場にもなっている。私は、ここで月の半分を過ごしている

岩手県花巻市(旧東和町)立
「西洋風モデルガーデン&
園芸療法ガーデン」は、
温泉に併設するユニークな庭。
障害のある方のセラピーと
就労の場にもなっている。
私は、ここで月の半分を過ごしている

デイセンターの屋上庭園で春の庭仕事風景

デイセンターの
屋上庭園で春の庭仕事風景

 植物を育て、収穫し、利用するという活動を通して、参加者お1人お1人に秘められた可能性が引き出されるような場作り(園芸療法)を実践して10年以上になります。実践場所も、岩手、長野、埼玉、東京と広がり、高齢者やさまざまな障害のある方々と活動をさせていただいています。

 初めてその方にお会いしたのは、ある特別養護老人ホームのテラスで、その日の活動に使う土の準備をしていたときでした。ガラス越しに中からじっとこちらを見ているその方の視線が気になって、ビオラの花を持って近付いていきました。「花だね。きれいだね」とつぶやかれたその方は、「外に出たい」とおっしゃいます。その階は、いわゆる深い認知症の方が暮らす階で、徘徊する方も多いことから、安全上鍵がかかっていて自由に出入りできないようになっています。「少しでも外の空気に触れる機会を提供したい」という施設の意向もあって導入された園芸療法に、その方も参加するようになったある日の活動は、ジャガイモの袋栽培でした。芽がいくつも出ている種イモは切って植えることも、切り口に草木灰をつけることも、その方は知っていらっしゃいました。長く連れ添っているご主人がそばで見ていらして、「花が好きなことは知っていたけれど、ジャガイモを植えたことがあるなんて知らなかった」と驚かれたほどです。活動のときその方を担当したボランティアから、数日前メールが届きました。ジャガイモの手入れのために施設に行くと、その方が彼女の顔を見るなり、「ジャガイモ、ジャガイモ」と言いながら手を差し伸べてくれたそうです。自分のことを覚えていてくれた、と彼女は感激していました。「2人で日課のようにジャガイモの様子を見に行っているんですよ」とうれしそうにおっしゃるご主人の笑顔にさらに感動した、そんなメールでした。ご主人が一緒ですから、その方はテラスに出られます。お2人でジャガイモの生長を眺めるという楽しみを共有しながら。

ご主人と生長を眺める楽しみの機会を作ってくれている袋の中で育つジャガイモ

ご主人と生長を眺める
楽しみの機会を作って
くれている
袋の中で育つジャガイモ

 熱心に活動に参加してくれるある施設の所長さんがこう言われました。「毎回サプライズがある」と。字は書いたことがないという方が、ご自分の名前や植えた花の名前をラベルに書く。妄想と思われるようなことを言い続けているおばあさんが、イチゴの葉を見て、「娘が好きだ。食べさせてあげたい」と涙ぐむ。ただ歩き回っているように見える男性が、水仙の花に心を動かされて一句詠む。握力もなく、震えがとまらないおばあさんが、一旦鎌を持つとプランターで育てたお米を力強く、震えもなくスパッと刈る。そして、味噌を作ろうと炊き上げた大豆の匂いに誘われて手づかみで食べてしまう流動食のおじいさんは、「うまい!」と一言、その日初めて言葉を発する。「私にまだこんな華やかさが残っていたなんて」と、紅葉と和紙で作った色鮮やかなランチョンマットに見入るご婦人。こういうことが、サプライズなのです。植物が引き金となって引き出される内発的な力であったり、知恵であったり、記憶であったり、詩心であったり、感性であったり、伸びる手であったり、笑顔であったり、言葉であったりです。こうしたサプライズに出会うたびにワクワクして、この仕事がやめられません。職員さんをハラハラさせることも確かにありますが、「生きていく」ということは、本当はハラハラ、ドキドキと隣り合わせのものなのではないでしょうか。しかもこうしたサプライズの中に、本来のその人となりが垣間見えるのですよね。「外に出たい」という気持ちは自然な欲求ですし、こうしたサプライズに満ちている日常は、生活くさくて生き生きすると思います。植物という命あるものを育てたり、食べたり、創作活動をしたり、利用者さんだけでなく、ご家族や職員の方々とも楽しめて、「生きていくことはサプライズ!」の種をあちこちにまきたいと願いつつ、「今日は北、明日は南」と動き回る地方巡業の旅役者のような生活を送っています。



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