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164号 注目の人 女優/宮崎 美子さん

「あせらずに、今自分のできることを精一杯やること。
ありのままの自分を  受け入れる大切さを知った」
宮崎 美子/女優
Profile

宮崎 美子/女優
熊本県出身。
熊本大学在学中に、週刊朝日の「篠山紀信があなたを撮ります・キャンパスの春」に抜擢。これを機に、ミノルタカメラのTVCMに出演。
平成12年の小泉堯史監督の「雨あがる」で第43回ブルーリボン助演女優賞、第24回日本アカデミー賞・優秀主演女優賞受賞した。
平成14年は「太陽の季節」、「精霊流し」など話題のドラマに出演。
レギュラーとして、NHK教育テレビで、「今夜もあなたのパートナー 金曜アクセスライン」、ANB「ポカポカ地球家族」、に出演。平成15年4月5日から全国東映系で「私のグランパ」が封切られる。


モンゴルでの体験で、無駄を省くことの美しさに目覚めた


東京港区 ホテルパシフィック東京にて

 デビューして20数年たちまして、私も変わりましたが、世の中の価値観が大きく変わり、時の流れを感じることが増えています。たとえばエコの問題。今では簡易包装はあたりまえですが、以前はスーパーで包装を断ると、怒られたり笑われたり平気でしていましたからね。

 私自身「生きもの地球紀行」や「なるほど・ザ・ワールド」で、海外に行かせていただく仕事が多く、人生観が変わる経験を多くさせてもらいました。解放されて間もないカンボジアに行ったときも、生活の無駄に対する意識が変わりましたが、何といっても28、9才のときに行ったモンゴルでの体験が大きかった。遊牧民の方と一緒にゲルに泊まったことは、私の人生がモンゴル前、モンゴル後とわけられるくらい、目の覚めるできごとでした。

 遊牧民の方は家畜を連れて、草のあるところを移動しているので限られた資源で、非常に厳しい生活をしているんですね。水も食料もぎりぎり。なんたって、家を折り畳んで持ち歩くわけですから、家財道具も必要最小限のものしか持たない。彼らは私を非常に歓迎してくれていたんですが、お茶碗にお酒をついで残さず飲んだ後、水がないからその器をどうするのか?と思って見ていると、何とお母さんがなめて茶碗をきれいにしている。

 びっくりしましたが本当に無駄がない。ごみは全く出ないし、何もかも使いきる。ゲルを折り畳んだときに、私たちの場所には、包み紙とか吸殻とかポリ容器とか、気をつけていたのにも関わらずゴミが出てしまっていたんですが、彼らの場所はゲルがたっていた穴だけ。何のゴミも出ない。この無駄のない暮らしは潔くて美しいなと思い、それをそのまま真似はできないけど、日本に帰って自分の生活にとりいれられないか?とずっと考えていました。

物質的、精神的な無駄を削ぎ落としたとき、代表作が生まれた

 デビュー20年にあたる2000年は、「清貧」や 「捨てる技術」などが流行った年でしたが、この年に私は代表作となる映画「雨あがる」に巡り会い、物質的にも精神的にも「無駄」なものを削ぎ落とすきっかけとなりました。

 実は、長い間、代表作がないというのが、私の悩みだったんです。私は21才の時にミノルタのCMで非常に恵まれたデビューをしました。そのインパクトが強いのはありがたいことだったのですが、同時になかなかそれを超えられなくて。あれはまだ全くの素人で、何の演技もしていないのに、20年たっても代表作といえばデビューCMが出てくるのは、ちょっとな…と気になっていたんです。

 また長い間、とにかく「元気な子」「いい子」という、健康的な娘役が続きましてね。最初はそれでよかったんですが、24、5才になるころには、だんだん自分の中で「それだけじゃないでしょ…」という気分になってきて。「演じる」ことなどわからずにやっていたことが、自分なりに欲が出てきたというか、そろそろ「大人の女性、大人の女優」にならなくてはいけないというあせりが出ていました。今考えると、あのころなんてあせらなくても全然いいんですけど(笑)。あれこれ考えすぎて、無理して自分を作ろうとしていました。

 そのころ、黒沢監督の「乱」という映画に出演する機会があって、役の扮装をして臨む本格的なリハーサルの際に、黒沢監督や仲代達也さんなど、ものすごい大物と狭い部屋の中で顔をつきあわせて…。もうじたばたしてもはじまらないというか、標本箱に入れられた虫になった気分で、あのとき本当に、自分を作っても意味がないことが身にしみました(笑)。

 そのとき黒沢監督に「あの、私は一体どうすればいいんでしょう」と聞いてみると「そのままでいてください」と言われたんです。そのときは単純に「そっか、そのままでいいんだ」と納得しましたが、後々よく考えるとそのままでいてその役でいるって、一番難しいことですよね(笑)。なりきるってことですから。


モンゴルにてゲルをバックに

 だから、2000年に黒沢監督の追悼作品「雨あがる」で、小泉監督から、「何もしないでありのままでいてください」と再び指導をいただいたときには、こちらも年を重ねている分、言葉の重みにじんときました(笑)

 このときいただいたのは、「仕官先を求めて旅を続ける」侍、寺尾聡さんの妻で、とても清貧の役。非常に幸運なことに撮影の間、4ヵ月ぐらいこの仕事だけに打ち込め、どっぷり役になりきって過ごせたんです。そうすると、だんだん身の回りの無駄なものが気になってきて。このとき、私の部屋のリビングにソファーやダイニングテーブルと6客の椅子など、ごちゃごちゃいろんなものがあったんだけれど、これを全部古道具屋さんに売っちゃいました。映画の中では3畳間で暮らしていたので、立ったり座ったりという所作をやっておかねば…と、何もなくなった部屋に卓袱台をおいて床の生活をしてみたんです。

 すると視点がかわって「なんだ、何にもなくても暮らせるじゃない」と、さらに洋服や本など持っているものを半分くらい処分してしまいました。

 年を重ねてくると、身の回りのものもそうですが、気持ちの中にも無駄なものがついてくるんです。こうやらないとカッコ悪いとか、20年もやっているんだからよく見せなきゃとか。それって結局無駄なことなんですね。

 この4ヵ月間は、自分の内面を見つめて、無駄なものを削ぎ落とすのに、非常にいい転機になりました。自分が演じて幸せだと思える役に巡り合い、ある期間どっぷりと浸れて、しかもその結果を評価され、賞をいただけたというのは大変幸せなことでした。それにデビュー20年にして、代表作ができたことは、私には大きな自信となりました。

演技することは、自分の中の鉱脈を堀当てること


紅海にてダイビング

 あせらずに、今自分にできることをありのままにやればいい、ってことがわかると、演技することもおもしろくなってきたんです。役を演じるということは、あるレベルから始まって、毎日毎日どんどん自分の中を掘っていく作業です。内部に流れているどろどろとした感情の鉱脈につきあたったら後はラクなんですが、私はそこに行くまで非常に時間がかかる。すとんとそこに到達してしまう方もいますが、私は掘り当てるまで固い岩盤が邪魔をしていた気がします。たとえば「よい子」岩盤とかね(笑)。私はこれが強かったんです。

 結局、人は自分の中に持っているものしか演じられないと思うんです。だから人を受けとめる包容力などはもちろん、憎しみの感情なども育てる必要があるでしょうね。

 同時に自分の内部にすぐアクセスできるように、心を柔らかい状態にしておきたいと思います。

 ただ私は自分が心地よい雰囲気の中にいたいので、そこにいるだけで、ムードがなごむような存在になりたい。ゆくゆくは、縁側で日向ぼっこしながら、お茶をずずっと飲むお婆さん役が似合うようになりたいな。

母親役はおいしい!いろんな人生を生きられる女優は幸せ


タンザニアにてヌーの大群を観察中

 今、NHKの教育番組で「家庭科」の授業のようなことを行っているんですが、これで時々宿題が出る。6ヵ月かけて蘭を育てたり、キルトを作ったり。この間なんて、番組で「ギョウザ」を取り上げるので、練習しておこうと休みの日に家でギョウザ100個も作っちゃいました。やってみると初めてわかることが多いんですね。普段家にいない分、休みに家にいて、日常生活をていねいに行なうことが、いい栄養になっている気がします。

 今春公開になる「私のグランパ」という映画で、主役の女の子の母親を演じていて、台所のシーンで何をやるか、考えてくれと監督さんに言われまして。包丁使うとか、水仕事とか、音が出るもの以外と言われて、はっと「私ギョウザ包みます」と言いました。さっそく経験が役に立ったんです(笑)。この映画もそうですが、最近とくに母親役が多くなってきました。

 それも滝沢秀明君とか、坂口憲二君とか、みんなにうらやましがられるような旬の若いタレントさんの母親(笑)。これは別の楽しみが開けてきたなという感じですが(笑)、今、輝いている人を間近で見ることは、非常に勉強になりますね。

 先日、「きれいなおかあさん」という中国の映画で、主役の母親コン・リーさんの吹替を演ったことも非常にいい経験となりました。聴覚障害の子を一人で育て、生活に追われながら、彼を普通の学校に入れようと言語訓練まで行う、強くたくましく、きれいな母親。

 いろんなつらさで泣くことはあっても、子どもの前では凜として立っている。最後には子どもの聴覚障害をありのままに受け入れるのですが、こういう無条件な愛は、母親ならではのものですよね。

 私には子どもがいないので、母親の気持ちが本当にわかるかと言われると自信はありません。でも対人間という姿勢は同じ。また甥や姪などに接し、本当に子どもってかわいいなと思ったとき、母親って苦労はもちろんあるけれど、幸せだなぁと感じるんです。だって、ずっと小さなときのかわいい瞬間を見ていられるんだもの。  親子でべったりいる時間って、実はそんなに長くないですよね。中・高生になれば、ほとんど友だちといるわけですし。大学から家を離れる子も多い。だから親子で一緒にいる時間は大切にしてほしいなぁって思うんです。

 そういうことは逆に子どもがいないから、強く感じるのかもしれません。母親役として代表的な、森光子さんも京塚昌子さんも子どもはいませんから、私も彼女たちを目指したいと思ってます。

 でも、自分には子どもがいなくてもアイドルの母親役をやったり、侍の妻役をやったり。1粒で何度もおいしいじゃないですが、本来の人生は一度なのに、自分以外の多くの人生を送ることができる。女優とは本当に幸せな仕事だと思います。



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