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本音のエッセイ

325号 書道家 武田 双雲さん

ネット時代は、書道のピンチとチャンス

書道家 武田 双雲さん

書道家 武田 双雲

武田 双雲/書道家

1975年熊本生まれ。東京理科大学卒業後、NTTに就職。約3年後に書道家として独立。NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」、世界一のスパコン「京」など数々の題字を手掛ける。独自の世界観で、全国で個展や講演活動を行っている。メディア出演も多数。

 現代は書道家にとって大きな危機を迎えている時代だ。LINE、フェイスブック、インスタグラム。これらは現在世界中で何億人にも使われているコミュニケーションするためのツール。

 現代の人々は、以前に比べて格段に多くの人と日々コミュニケーションをしていると言えるだろう。僕は、1994年から東京理科大学の情報科学科というところに在籍していた。そのころはウインドウズ95が出るころで世界が新しいインターネット時代の到来に興奮していた。それからNTTに就職をしたおかげでリアルにIT革命の波を感じる体験ができた。神奈川県川崎市の法人営業担当だった僕は、さまざまな中小企業のIT化に携わった。これまでファクスでやりとりしていたのを高速回線で各支店を結び、メールやチャットなどでやりとりすることでコミュニケーション環境が一気に整っていった。

 そしてひょんなことから書道家として独立した。その時によく言われたのが「今時、筆文字なんて珍しいわね」「小さいころ筆握って以来、書道やってないなぁ、なつかしいねー」というものだった。書道はなつかしいものという珍しい存在になっていたのだ。小さいころから書道家の母親から習っていた僕にとって、筆で書くことは日常だったので、まさかそこまで衰退しているとは驚きだった。

 あれから10年以上たった今、爆発的にインターネットは加速した。人類はペンを置きスマホに持ちかえた。墨をすり、ゆっくり時間をかけて手紙をしたためる若者はほとんどいなくなった。フェイスブックなどのツールは確かに多くの人と瞬時につながれるスピード感をもたらした。と同時に、ゆっくり思考を深めたり、時間をかけて相手を思いやりながら筆を持つというものが失われてきた。

 このまま書道文化はなくなるのだろうか。否、そうではない、こういう時代だからこそ肉筆の価値が見直されている。たとえば年賀状。印刷文字と手書きで書かれた年賀状をもらった時の違い。書道家として僕は日々【書く】という行為に深い幸せを感じている。墨の香りや硯の美しさを堪能しながら、好きな文字を気持ちよく書く時、言葉にならない幸福感に包まれる。大袈裟かもしれないけど、自分とこの世界の壁が取り払われ、一体になっていくような感覚。この感動を世界中の人と分かち合いたいと思っている。そのためにはインターネットは必須である。

 ピンチはチャンス。書とネットが融合することによって、新しい世界を創造できるかもしれないと心が踊っている。

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