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本音のエッセイ

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193号 作家 石田 衣良さん

「普通が一番」

作家 石田 衣良

作家 石田 衣良さん

石田 衣良/作家

1960年、東京生まれ。成蹊大学経済学部卒業、広告制作会社を転々とした後フリーランスのコピーライターに。97年9月、「池袋ウエストゲートパーク」で第36回オール讀物推理小説新人賞を受賞。生き生きとした語り口と現在を映しだすエッジの鋭さが高い評価を受けた。 受賞作に続編を加えた『池袋ウエストゲートパーク』でデビュー。著書に『少年計数機』(以上文藝春秋刊)『エンジェル』『娼年』(以上集英社)など。03年7月、『4TEEN』で第129回直木賞を受賞。

 困ってしまう質問がある。

 たとえば、おすすめのレストランはどこですかとか、いきつけのホテルはどこですかとか、海外のリゾートはどこがお好きですかとか、雑誌なんかでよく特集しているような題材の質問である。

 えー、ぼくの場合、そんなものはどれもひとつもありません。ぜんぜんセレブのお大尽暮らしなどしていないのだから、あたりまえである。話題のレストランをこまめにチェックしたり、新しい海外リゾートに足を運んだり、オープンしたばかりのホテルをのぞきにいくなんて、そんな時間がみんなよくあるものです。

 ある作家が引越しのとき、文机の座布団を動かしたら、畳が体重で沈んで汗の染みがついていたなんて伝説があるけれど、それくらい毎日締切に追われているのだ。ぼくだって街にでて遊びたいけれど、かなり筆が速いつもりでも仕事の量が話にならないのである。

 それにちいさな声でいうけど、ぼくはあまり高級なご馳走は好きではありません。和洋中とそれは贅沢なレストランに呼ばれて、名前の長い料理をいただくことがあるけれど、だいたいは仕事の打ちあわせがてらのディナーである。正直ゆっくりと味わうようなゆとりに乏しいのだ。やはり自分で身銭を切らないと、舌は真剣にならないもの。まあ、これに関してはフカヒレの姿煮をたべながら、街の中華屋のレバニラ炒めのほうがパンチが効いていてうまいよなあなんて、程度の低いことを考えているぼくにも問題がありますが。

 でも、ここだけの話、料理なんてシンプルで普通のものがおいしいですよね。ガールフレンドの部屋に遊びにいったとする。そこで2時間も待ってフレンチをだされるよりは、さっと15分で気の利いた家庭料理をだしてもらったほうが、ずっと印象はアップするはずだ。もちろん、ぼくだって女性といくときは、おしゃれな店を心がけるけど、いつもそんなところばかりでは、飽きるし疲れてしまう。

 そんなところは、きっと東京下町の生まれがでてくるのでしょう。案外気が短いし、面倒で格式ばったことが嫌いなのだ。多くの女性はクラス感が大好きみたいだけれど、面倒くさがりの男たちの心境にも、理解を示してあげてください。まあ、たまにはホテルのレストランにもおつきあいしますから。


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