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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ182弾

「食べられる景観」のススメ

木下 勇さん

千葉大学大学院園芸学研究科 教授
木下 勇さん

千葉大学大学院園芸学研究科 教授 工学博士(地域計画)。東京工業大学建築学科卒。ワークショップ、住民・子ども参画のまちづくりで活躍。


エディブルランドスケープ「食べられる景観」

ヴィレッジホームズ(カリフォルニア州)のコモンと住宅の裏庭のつながり
ヴィレッジホームズ(カリフォルニア州)のコモンと住宅の裏庭のつながり

 エディブルランドスケープ、この言葉に初めて会ったのは1987年、カリフォルニアのデービスにあるヴィレッジホームズを見学した時である。ニューアーバニズムの旗手の一人であるマイケル・コルベットが開発したエコ・ヴィレッジとしても紹介される。パッシブソーラーハウスが並ぶ家の裏側の小道は8戸単位が共同で管理するコモンをつなげた小道である。そこはブドウやプラムなどあらゆる果実や野菜で飾られてまるで楽園のよう。エディブルランドスケープはエコ・ヴィレッジを成す共通の要素となっていることを後で知るが、実態としてその風景を新しい住宅地に見たのはこの時が初めてである。

 案内した当時のカリフォルニア大デービス校のマーク・フランシス教授(ランドスケープ・アーキテクト)はこのプロジェクトに関わっていて、彼からこのエディブルランドスケープの言葉を何度も聞いた。「食べられる景観」、同じ視察グループにいた藤本信義氏(故人、宇都宮大学名誉教授)がつぶやいた。日本語の直訳でその響きもいい。

 マーク・フランシスが自慢げに私に聞いた。「こんな景観は日本にあるかい」と。私は悔しまぎれに「日本では農村に行けば、こういうのはあたりまえにある」と答えたが。

人生フルーツ

トッドモーデン ガイドツアー
トッドモーデン ガイドツアー
トッドモーデン ミツバチの巣箱が公園に
トッドモーデン ミツバチの巣箱が公園に

 いま、静かなブームとなっている映画がある。「人生フルーツ」(監督:伏原健之、制作:東海テレビ放送、2016年)。住宅公団設立の時にレーモンド設計事務所から移籍した、いわば公団の団地のマスターアーキテクト的な役割をした津端修一氏とその妻の英子さんの暮らしを淡々とつづった映画である。

 津端氏は阿佐ヶ谷住宅の設計でも知られる。そこにもコモンがあり、居住者が果実や野菜なども植えていたという。

 彼が高蔵寺ニュータウンの開発で意図したのは、地形を残し、里山に住むような構想。残念ながら、それは実現し得なかったが、彼自身、300坪の土地を購入して、そこにあらゆる果実や野菜を植えて、それら果実をつかった奥さまの手づくりジャムやケーキなど、食卓を彩るフルーツに象徴される、夫婦のたがいの気遣いと暮らしの豊かさとが共感を生んでいる。

 住宅公団の団地づくりは、ハワードの田園都市の思想からペリーの近隣住区論などの一連の団地計画の系譜の延長にある。イギリスの農村部にはコモンという共用地が住民の憩い、絆をつくる場ともなっていた。レイモンド・アンウィンの設計にはその農村部の形態が影響していると齊木崇人(神戸芸工大学長)が報告しているが、まさにそんなコモンへのこだわりが津端氏の阿佐ヶ谷住宅の設計にもみられる。

 そんな食べられる景観で飾れば、人の絆も深まり、暮らしが豊かになる。1998年、東京の文京区根津、世田谷区太子堂・三宿、国分寺市新町の3箇所の住宅地で行った食べられる景観の観察、聞き取り、アンケートの調査で、そんな研究成果が得られた 。

 驚いたのはイギリスのトッドモーデンという小さな町が食べられる景観で飾り、世界中から観光客を呼び込んで町が活性化したという話をTVのテッドトークで聞いた時である。しかもゲリラ的に公共の空間に植えて、いくつもの散歩道でつなげている。その名もインクレディブルエディブル(驚きの食べられる町)、早速、その町へ見に行った。ある程度のグループとなれば少しのお金を払ってツアーを開いてくれる。教会でとれたてのそれら野菜のサラダでミニレクチャーを受けて、その「驚きの食べられる町」を散策する。市場の近くの公園に着くと公園内にミツバチを飼っている。ミツバチがそれら食べられる景観をつなぐキャラクターとなっている。

エディブルウェイ「食べられる道」

エディブルウェイ(食べられる道)のイメージ
エディブルウェイ(食べられる道)のイメージ
参加者のひろがり
参加者のひろがり
うまれるコミュニケーション
うまれるコミュニケーション
収穫物を空き家で共食
収穫物を空き家で共食
空き家でカレーキャラバン(エディブルウェイ リーダー江口亜維子主宰)
空き家でカレーキャラバン(エディブルウェイ リーダー江口亜維子主宰)

 それに刺激されて学生と最近始めたのがエディブルウェイ(食べられる道)。布製のバッグ型のプランター((株)タカショー提供)に野菜や果樹を植えて沿道の家の前、道路との間に置いて、その居住者に管理していただく。2016年の秋に始め、松戸駅から戸定ヶ丘という千葉大学園芸学部キャンパスまでの道沿いにまたたく間に広がり、現在45カ所90個のバッグが置かれている。

 通りゆく人が「これなに」と興味を持ち世話をしている人と会話が弾み、口コミで広がったのだ。脳梗塞で倒れたお年寄りがリハビリで散歩中に知り、そのバッグを1つ引き受けて世話をし始めた例もある。園庭のない小規模保育所では唯一園児たちが土や植物、そして虫などとも触れられる小さな自然の世界となる。

 イチゴ、ベル型ピーマンなど、そのままつまんで食べられるものから、ダイコン、ニンジン、コマツナ、ミズナなど皆で採取したものを、空き家を使い、鍋やカレーなど共に料理して食べる。そんな空き家活用と連携した取り組みにも発展した。「人類は共食をする動物である。食を分かち合うことは、心を分かち合うことである」(石毛直道「食事の文明論」中央公論新社:1982)と、まさに人がつながる原点ともなりえる(このプロジェクトは2017年度グッドデザイン賞受賞)。

 このプロジェクトの前には市の所有地の空き地でコミュニティ・ガーデンを地域の方と行っていた。そこにジャガイモを植えたら、その花が出てきた時にある住民から「ここは公共の土地だ、市民農園でない」と苦情が入った。公共の場所に食べられるものは植えられないのかと課題が浮かび上がる。基本的に「個人の胃に入ると、公共物の私物化」とはかつて公園の管理者から聞いた問題である。トッドモーデンのようにゲリラ的に個人の敷地と道との間に植える。そもそも、公と私と明確に区分するところに人の関係の断絶がある。「食べられる景観」はその公と私の境界にメスを入れ、それをコモン化することで切れてしまった人と人の網のほころびを直し、地域のセーフティネットを編み直そうというきっかけにもなりえる。


エディブルウェイWebサイト
http://edibleway.org/

団地再生まちづくり3

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団地再生まちづくり4

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進むサステナブルな団地・まちづくり

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団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/