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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ178弾

災害時、マンションでの生活継続は可能か

竹内 美弥子さん

防災都市計画研究所 主任研究員
竹内 美弥子さん

共立女子大学家政学部卒業。現在は、被災地調査、マンションの防災対策の他、防災まちづくり・防災計画策定等の支援に携わる。一級建築士。


熊本地震のマンションの教訓

図(1) 熊本地震被災マンション(現場位置図)
図(1) 熊本地震被災マンション(現場位置図)

 2016年熊本地震では、4月14日夜と16日未明に最大震度7が観測され、その後も繰り返し強い余震が発生しました。マンション管理業協会会員が管理業務を受託する熊本県内の分譲マンションでは、9割以上(566棟中527棟)が何らかの被害を受けています((一社)マンション管理業協会、平成28年6月14日発表)。

図(2) 熊本地震被災マンション(雑壁の崩壊)
図(2) 熊本地震被災マンション(雑壁の崩壊)
図(3) 熊本地震被災マンション(応急危険度判定)
図(3) 熊本地震被災マンション(応急危険度判定)
図(4) 熊本地震被災マンション(開口部の歪みで閉まらない玄関ドア)
図(4) 熊本地震被災マンション(開口部の歪みで閉まらない玄関ドア)

 4月14日に震度6弱、16日に震度6強の本震を経験した熊本市に位置する(図(1)参照)マンション(高層棟14階・低層棟6階建て)では、本震のあと2、3日間は、ほぼ全員が避難所等に避難しました。その間、理事が「震災復旧対策本部」を設置し、建物・ライフラインの被害点検、安否確認、立入禁止区域の設定、応急処置などを実施しました。その後、理事や低層階の住民などが少しずつ戻り、在宅避難者は居住者の2割弱となりました。引っ越した世帯は15%、半分以上の世帯は、余震の恐怖から5月10日ごろまで小学校での避難所生活や近隣のスーパー、小学校の駐車場での車中泊をしていました。

 建物は、構造上主要ではない雑壁やドア、窓などの被害があり、「応急危険度判定」で「要注意」となりましたが、構造的な被害はありませんでした(図(2)〜(4)参照)。在宅判断を求められたため、理事などが防犯も兼ねてマンション出入口で受付を行い、「建物の出入りについては自己責任」であることを居住者に伝えました。在宅避難者は、受水槽からの直接給水などの代替手段を活用してライフラインの確保に努め、食料などの物資は避難所や地域から十分な量を調達することができました。

 このような在宅避難生活をおくることができた要因として、本マンションの管理組合が平時から防災訓練はもとより、もちつき大会、夏まつりなどのイベントを実施するなど、マンション内外のコミュニティづくりを大切にしてきたことが挙げられます(2016年防災都市計画研究所調査)。

避難所での被災生活の過酷さ

 マンション居住者の方は「避難所に行けば何とかなるだろう」と漠然と思っていませんか。実は、小学校など指定避難所の収容人数は、地震の場合、おおよそ築年数や構造等により推定する全壊建物の全棟数と半壊建物の半棟数分で算定しており、耐震性の高いマンション居住者は人数に含まれていません。これは、災害救助法により避難所が「災害により現に被害を受け、又は受けるおそれのある者を収容するものとする」と定義しているためです。

 一方、避難所における被災生活の衛生、環境、防犯などには課題が多く、熊本地震では、震災のストレスと過酷な避難所生活で衰弱し死に至る「震災関連死」が200人と、「直接死(圧死など)」の4倍となりました(2017年11月28日時点)。災害時、特に大都市圏ではマンション居住者が多く、耐震性の高い建物でも余震の不安や高層階での生活の不便による避難が考えられ、車中泊やテント泊などが可能なオープンスペースも少ないことから、膨大な避難者が避難所に詰めかけさらに過酷な状況になることが想定できます。それらを考えると、できるだけマンション居住者が助け合って自宅で被災生活をおくるに越したことはありません。

自宅の安全は誰が担保するのか

 災害発生後、行政では、「応急危険度判定」を行います。これは、余震などによる建物倒壊や落下物等の危険がないかなど、簡易な方法で応急的に確認を行い、二次災害を防止するために実施するもので、「住めるか、恒久的に利用できるか」どうかを判定するものではありません。この「応急危険度判定」は、過去の事例から大規模地震の場合は建物によっては1カ月以上かかることも想定されます。また、建物の応急処置を行う専門業者もすぐに手配できるとは限りません。繰り返す余震の中でマンションの建物の安全性、つまり自宅に住み続けられるか否かの判断は誰が行うのでしょうのか?

 それは、居住者の「自己判断、自己責任」です。管理組合の役員が「建物は安全だ」と判断して居住者に周知した結果、仮に二次被害があっても管理組合の役員はその責任を取ることはできません。そこで、まずは、事前の備えとして耐震診断・耐震補強が重要になります。

 さらに、在宅生活が可能かどうか各自の判断材料となるように、居住者が協力して被災後の建物点検ができるとよいのではないでしょうか。建物点検の結果、建物構造上の被害であれば避難し、構造上の被害がなければ危険箇所の立入り禁止や応急処置などを行い在宅生活ができるようにします。具体的には内閣府から、建築の専門家でなくても建物点検できるガイドライン「大規模地震発生直後における施設管理者等による建物の緊急点検に係る指針、平成27年2月(HPでダウンロード可)」が出ています。これを応用してマンションの建物カルテをつくり、たとえば「このひび割れの発生は地震前なのか後なのか」を写真により一目で分かるようにしておくことや、建物点検の訓練を行うことが考えられます。

図(5) 共用施設の建物点検と利用者受付の手順を確認
図(5) 共用施設の建物点検と利用者受付の手順を確認

 自宅だけでなく、共用施設の利用についても同様です。私が関わった団地では、高層階居住者がエレベーター停止時に自宅で避難生活をおくるのは難しいことから、共用施設を一時の避難生活場所として利用するマニュアルをつくりました。共用施設を利用するにあたっては、前記の内閣府のガイドラインを応用した建物点検チェック表を使って点検し、危険箇所の立入り禁止や応急処置を行った上で受け入れます。施設利用希望者は、受付で「建物被害等による二次被害は自己責任となること」という誓約書に同意する仕組みとなっています(図(5)参照)。

マンションでの生活継続の条件

表(1)
表(1)

 マンション居住者が生活を継続するときの判断基準は、建物の被害程度のほか、身体状況、生活の不便さ、余震状況などがあり、建物が安全だからといって生活を継続できるとは限りません。しかし、その中でもできるだけマンション内で生活を継続するためには、自助として自宅での簡易トイレ、水など物資の備蓄、室内の家具転倒防止などを備えた上で、共助として耐震診断・耐震補強などのハードの備えと、在宅生活の助け合いを可能とするための活動マニュアルづくりや顔見知りになるなどのソフトの備えが重要です(表(1)参照)。まずは、マンション居住者で集まって自分たちのマンションの被災をイメージし、その対応方法を少しずつ検討してみてはいかがでしょうか。

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団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/