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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ173弾

共助の創造
〜“しがらみ”と“こどく”のあいだ〜

葛西 優香さん

HITOTOWA INC. ディレクター、防災士
葛西 優香さん

同志社大学卒業。リクルートから葛飾FM放送を経て、HITOTOWAへ入社。「防災への備え」の発信が使命だと強く思い活動中。


災害や事故の身近な経験

 1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生した。5時46分、大きな「ゴー」という音で目覚め、次の瞬間に身動きが取れなくなるほどの大きな揺れ。とにかくお布団の中に頭を隠し、揺れがおさまることを待った。揺れがおさまり、家の中を見ると一面ガラスの山。当時、食器棚の開き戸にはストッパーもかけておらず、ガラスの食器はすべて落下。破片が散らばっていた。足の踏み場もない家の中から外に出ると、普段あいさつや会話をしているご近所さんが声をかけてくれ、下の階に住むお姉さんはなぜかたくさんの靴下を持っていた。はだしだった私は靴下を借りて寒さから体を守ることができた。後から聞くと、「靴下も取り出せない人がいるんじゃないか?」とそのお姉さんは思い、ご近所さんのために靴下を大量に持ち出したようだ。

 2005年4月25日、JR福知山線脱線事故が発生。大学に通うため、電車を待っていた私は事故が起きたことを少し先の北新地駅で知る。事故が起きた電車に乗っていた友人は、次の日から電車に乗ることが困難になった。

 2011年3月11日、東日本大震災が発生。就職をし、東京配属となり、都内で暮らし始めていた私は、地震発生時、31階のビルで仕事をしていた。14時46分、大きな揺れを感じ一斉にデスク下に身を隠す。揺れがおさまった瞬間、男性が1人走って、エレベーターの方に向かう。直属の上司だったのだ。約1時間後に帰ってきた。上司を悪く言うわけではないのだが、都内で災害が起きると平常時には考えられない行動をとっさに取ってしまう人が出てくると鮮明に想像ができた。

 この3つの災害と事故の経験から、「事故は自分自身で備えることはできないかもしれない。でも災害は備えておけば、被害を軽減することができる。また、平常心を少しでも保つことができる。減災のために、『備える』ことを伝えなければならない」と心に誓った。

「防災」の呼びかけ

 『備える』ことを発信するためにどんな形がいいのか考えた末に、災害時にすべて放送内容が切り替わる地域の「防災ラジオ」で、まずは1つの地域から発信を始めようと動き始めた。有事の際にラジオを聞くこと、自分自身で備えておくことの大切さの呼びかけを続けた。

 しかし、『備え』の発信をすればするほど、発災直後に地域の方同士で声がけをして乗り越えていく、助け合える「人と人とのつながり」が最も大切だと考え始めた。一人では決して乗り越えられないと自身の経験からも強く感じ、つながりの大切さを町の方に伝えるようになった。すると、想像していた以上に地域住民の交流が薄れていることを感じ、危機感を覚えた。

 ラジオで災害時の情報を得ることも大切だが、直後に助け合える近所の方々との「つながり」をつくることが第一にすべきことだと想い、HITOTOWA INC. に入社した。

自然と人が集える空間づくり

みさと団地で運営している「みさとのおみせ mi*akinai(http://www.mi-akinai.com/)」に来ているママたち。mi*akinaiでお友達に。今では大切な相談仲間
みさと団地で運営している「みさとのおみせ mi*akinai(http://www.mi-akinai.com/)」に来ているママたち。mi*akinaiでお友達に。今では大切な相談仲間
「パンと雑貨の日」というパンの販売と雑貨販売や手づくりワークショップが体験できるイベントを月1回mi*akinaiで開催。さまざまなコンテンツを用意することで、興味を持ってくださる人数も多くなる
「パンと雑貨の日」というパンの販売と雑貨販売や手づくりワークショップが体験できるイベントを月1回mi*akinaiで開催。さまざまなコンテンツを用意することで、興味を持ってくださる人数も多くなる
「みさとのおみせ  mi*akinai」のスタッフさん。三郷市内に住んでいる保育士の方も。経験を活かした生きがいをお店の中でも見つけ、お客さまのために笑顔でお出迎えしている
「みさとのおみせ mi*akinai」のスタッフさん。三郷市内に住んでいる保育士の方も。経験を活かした生きがいをお店の中でも見つけ、お客さまのために笑顔でお出迎えしている
小学生とHUG(避難所運営ゲーム)を体験している様子。避難所を立ち上げる時に自分自身何ができるか頭をフル回転させ考える。この時の学びがいざという時に活きる
小学生とHUG(避難所運営ゲーム)を体験している様子。避難所を立ち上げる時に自分自身何ができるか頭をフル回転させ考える。この時の学びがいざという時に活きる
地域のカフェに協力していただき、非常食の備え方のワークショップを実施。「子ども会で炊き出し訓練をしてみよう!」とママ自ら声が上がった
地域のカフェに協力していただき、非常食の備え方のワークショップを実施。「子ども会で炊き出し訓練をしてみよう!」とママ自ら声が上がった

 「災害時に助け合えるまちをつくる」HITOTOWA(人と和)は、団地再生に取り組んでいる。高齢化が進んだ団地において、内外から人が集まる拠点づくりを行っている。

 埼玉県三郷市にある「みさと団地」で、2つの部屋をコミュニティ拠点として運営することとなった。普段はカフェとして利用でき、ヨガ教室やパン販売、手づくり教室、脳トレ体操などさまざまなテーマに合わせたコンテンツを用意し、多世代、異なる趣味を持つ人が集う空間をつくっている。

 1人…2人と子育てに悩むママが来て、スタッフとお話をする。少し晴れた顔をして、店を出る。次に来た時には、自分の居場所がもう1つできた安心感からか、ご自身のお話を多くされるようになり、同じような悩みを抱えるママと意気投合。ママ友ができていく。

 子どもが出入りする様子を見た70代のひとり暮らしをしている女性がお店に来て、「私、子どもが大好きなの。何かお役に立てないかしら?」とお話をしてくださった。今では、ママがゆっくりお茶を飲む際に託児サービスとして、その女性がお子さんと遊んでくださっている。女性にとって生きがいが生まれたと同時に、地域の多世代間のつながりが生まれている。

 お店に入る一歩もすごく勇気がいること。普段つながりのないご近所さんとお話をするということはもっと勇気のいること。その一歩を打ち破るきっかけがあれば、人は自然とつながることができる。そして、暮らしの中でそのきっかけを、実はどこか探し続けていると運営を通して実感している。

 他にも、兵庫県西宮市の「浜甲子園団地」、東京都西東京市の「ひばりが丘団地」でも「初めの一歩」のきっかけづくりを行っている。

共助が必要な理由

 『総合都市研究第61号 神戸市東灘区における人的被害と救助活動』によると、阪神・淡路大震災で亡くなった方の原因は、家具転倒・家屋倒壊に関わるものが大半で、窒息死60%、全身打撲21.5%、圧死8.5%。また、人命救助をしたのは、64%が近所の人。このデータから分かることは、自力で脱出できない時に、助けてくれるのは、遠くの親戚ではなく近くに住んでいる人だということ。精神状態が不安定な時に、「頼れる」「助けたいと思い合える」関係性を日常から形成しておかなければ、結局最初の一歩も踏み出せないまま自力でなんとかしようとして、二次災害も招きかねない。

「共助意識」の共有

 「みさと団地」のママともお話をしていると、「自分で全部子育てはしないと」と悩み、抱えきれなくなり、涙する方もいらっしゃる。「頼る」ことに慣れていない世代にとって、頼られる側の先輩から声をかけること、自分から少し勇気を持ってみること、両方の「初めの一歩」が平常時の「今」必要なのである。

 一歩が踏み出された後、形成されていく小さなつながりのおかげで、いざという時に靴下を貸し借りすることになり、一人の少女の人生を変えるかもしれない。 

 そして、共助の考え方が少しずつ芽生えれば、各地域で具体的なルールを決める段階へと入る。避難所の開設は誰がするの?食糧の支援が来たら、どこに取りに行けばいいの?水道が止まったら、トイレではどうやって水を流すの?…災害時を想像してみると、さまざまな疑問が生まれてくる。この疑問を町の中で一つ一つ話し合い、解決していく過程で「つながり」が生まれていく。そして、頼り頼られ、共に助け合う「共助」が自然と成り立っている暮らしがつくられていく。

 私たちは、つながりの大切さを発信しているが、地域住民同士の交流を苦手とする人もいる。しかし何かがあった時、一人で乗り越えられない時もある。有事に備えて、「“しがらみ”と“こどく”のあいだ」のコミュニティを創造するために日々活動を続けていきたい。

 ご自身がお住まいの地域をちょっと眺めてみてください。「つながり」は生まれていますか?

団地再生まちづくり3

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団地再生・まちづくりプロジェクトの本質

編著
 団地再生支援協会
 NPO団地再生研究会
 合人社計画研究所

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団地再生まちづくり4

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進むサステナブルな団地・まちづくり

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団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/