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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ168弾

福岡県久留米市の民間賃貸団地
「コーポ江戸屋敷 ビンテージ団地化計画」

吉原 勝己さん

ビンテージのまち 代表取締役/スペースRデザイン 代表取締役
吉原 勝己さん

1961年福岡県生まれ。吉原住宅、スペースRデザイン、ビンテージのまち、代表取締役。NPO法人福岡ビルストック研究会理事長。


梶原 あきさん

スペースRデザイン 学術
梶原 あきさん

1989年生まれ。九州大学大学院修士卒業後、スペースRデザインに入社。学術担当。ワーク&シェアハウス「茶山ゴコ」管理人。


「コーポ江戸屋敷」における団地再生の取り組み

コーポ江戸屋敷外観。周りには畑や戸建てが広がる
コーポ江戸屋敷外観。周りには畑や戸建てが広がる

 建築ストックはまちの資源。エンジンが動くようになれば眠っていた古い車がまた動き出すように、空き家も使いこなせればまちは元気になると考える。中でも、団地の空き家再生の意味は大きい。今回、民間団地における不動産経営の現場で、古い建物の良さと地域文化をテーマにした“リノベーションデザイン”と、入居者のつながりを創育する“コミュニティデザイン”を融合させる「久留米ビンテージ団地化計画」が動き始めた。 

 その舞台となる福岡県南部の筑後地方は、筑後川が作り出した豊かな自然と特色ある伝統工芸の技術が色濃く残る地域である。その拠点として発展してきた久留米市で、私たちが所有運営し始めたのが団地型賃貸マンション「コーポ江戸屋敷」だ。約1000坪の敷地に北から南にかけ、階段室型の住棟が3棟、駐車スペースと交互に建ち並ぶ。1978(昭和53)年竣工の鉄筋コンクリート造4階建の賃貸マンションで、1棟につき3DK(60.4平方メートル)の部屋が16戸。総世帯48のひとつのまちともいえる。

 経営は吉原が設立した地方活性化を目的とした老朽不動産再生まちづくり会社「ビンテージのまち株式会社」である。経営に難航した前オーナーから2015年に取得し再生プロジェクトを開始。しかし、躯体設備の老朽化、賃料の確保、長期経営計画など、課題は山積みであった。福岡市内を中心に老朽不動産に特化した経営再生コンサルティングを手掛ける株式会社スペースRデザイン、地元久留米で賃貸を兄弟で経営する半田啓祐・満兄弟(通称、半田ブラザーズ)「H&A brothers」と協力体制で再生プロジェクトを進め、今に至る。彼らは、地元の30代前後の若者たちとチームを組み、久留米への移住希望者をサポートする「久留米移住計画」を運営し、まちのオープンな学び場「CHIETSUKU(知恵つく)講座」開催など、行政と連携して地域を盛り上げる活動家としての一面も持つ。

リノベーションデザイン「筑後リノベーションミュージアム計画」

245号室『プラスアール』。デザインは半田brothers 現場の様子
245号室『プラスアール』。デザインは半田brothers 現場の様子
221号室『木(き)いろ』。大川の若手職人集団「88’s garage」によるデザイン 1階の部屋にはウッドデッキを実験的に制作。職人さんとの打ち合わせやカレッジの場所としても活用
221号室『木(き)いろ』。大川の若手職人集団「88’s garage」によるデザイン 1階の部屋にはウッドデッキを実験的に制作。職人さんとの打ち合わせやカレッジの場所としても活用

 各部屋のリノベーションプロジェクトには、久留米、大牟田、大川など筑後地域で活躍する職人やデザイナーを携わらせている。空き部屋が出るたびに「ほとめき(久留米弁の「おもてなし」)」をテーマにした部屋、大川の木工職人やペインターがデザインした部屋など、各地域のエッセンスが詰まった部屋を生み出す「筑後リノベーションミュージアム計画」を実行中だ。単なる原状回復・募集ではもったいない。間取りのバリエーション充実、素材の使い方の実験、若手活躍の場など、未来の種として空き家は貴重な資源となる。

 3月に5室目の部屋、大川の職人チームがデザインした「木(き)いろ」の完成見学会を開催したところ、デザイナーや半田ブラザーズの友人、コーポ江戸屋敷の住人など、約50名を超える来場があった。「今回はウッディだね」と、前回の部屋との違いを楽しむ声、作り方をデザイナーに尋ねる声、団地での思い出を語り合う声、見学会は一日中にぎわいをみせた。

コミュニティデザイン「住民DIYによるコミュニティベネフィット計画」

カレッジは毎回、甲斐氏による講義と各チームでのワークショップの2本立て
カレッジは毎回、甲斐氏による講義と各チームでのワークショップの2本立て
ワークショップは甲斐氏が作った『シナリオプランニング』の手法に沿って実施
ワークショップは甲斐氏が作った『シナリオプランニング』の手法に沿って実施

 団地ならではのゆとりある屋外スペースは、コーポ江戸屋敷再生のキーポイントだ。私たちは、環境とコミュニティを生かしたプロジェクトを数多く手掛ける甲斐徹郎氏(株式会社チームネット代表)とのコラボプロジェクトをスタートさせた。甲斐氏は、「アフォーダンス(人は環境に従う)」という原理から、曖昧に語られがちなコミュニティの正体を丁寧に紐解き、「コミュニティベネフィット」を不動産活用に応用している。管理者を設定せずとも、共通の価値観のもとで自然と共同体がつくられ、個では叶わない豊かな環境を育むことが可能になり、結果、不動産の付加価値が増加していく理論である(甲斐徹郎著「土地活用のリノベーション~不動産の価値はコミュニティで決まる~」より)。

 現在は駐車場のみで、ベランダからは灰色の殺風景な景色しかない。そこで住人を巻き込みながらDIYによる環境の改良により、心地よさを体感できる風景を住人・オーナー共通の財産にしていく。風景を軸としたコミュニティが育まれ、眠っていた賃貸マンションが再び活気をとりもどす。そんなコーポ江戸屋敷ならではの再生ストーリーを組み立てた。

 甲斐氏を講師に環境と不動産活用に関する「コミュニティデザインカレッジ~ランドスケープ編」と題した連続勉強会を、2016年12月より開催してきた。再生ストーリーを落とし込んだコーポ江戸屋敷の住人DIYや敷地緑化計画をもとに、コミュニティ形成のシナリオを組み立て、実行計画を練っていく。参加者は、賃貸住宅経営者や、まちづくりNPO団体、UR都市機構関係者など、約40名。各専門分野の立場から意見を出し合い、時には、それぞれが関わるまちや建物にあてはめ、ディスカッションを深める。貴重な異業種ネットワークがコーポ江戸屋敷を介して誕生した。

ビンテージ団地による地方再生

ガーデンは子どもたちの遊び場、近所の人も立ち寄れるコモンスペース。将来像を具体的に描くことがスタート
ガーデンは子どもたちの遊び場、近所の人も立ち寄れるコモンスペース。将来像を具体的に描くことがスタート

 スペースRデザインでは、時間の経過とともに価値が上がり続ける「ビンテージ」の概念をもとにした、「ビンテージ不動産」という経営仮説を打ち立てている。一般的に、時間の経過はものの商品価値を低下させる。一方で建物が持つポテンシャルと、そこに可能性を見いだしたプレイヤーが独自につながりを作り上げることで、時間の蓄積は付加価値になる。経営再生のステップを踏んでいく過程で、この一定のラインに到達した建物は「ビンテージ不動産」となり、持続的な不動産経営が可能になる。この手法を用いて、これまで福岡市内を中心に、全28棟358室(うち福岡市外4棟、長野県長野市1棟)のプロジェクトを走らせており、案件の平均築年数は40年を超える。

 コーポ江戸屋敷を動かしているのは、不動産の経営再生の過程で発生した工事や人がつながる必然性がきっかけとなって生まれたネットワークだ。管理者主体でもなく、部屋をカッコよくリノベーションするのでもない。地域でリアルに動いている人が活動できる枠組みをつくり、場を自ら改良し、人のネットワークを積み上げていく。一方、屋外スペースは住人に働きかけながら時間をかけて人が集まる風景を作り上げていく。心地よい風景を介して、これまでの歩みと、これからの挑戦がゆるやかにつながれていく。コーポ江戸屋敷が目指す未来は、関わる人が学び実践する“まちの学校”である。

団地再生まちづくり3

団地再生まちづくり3
団地再生・まちづくりプロジェクトの本質

編著
 団地再生支援協会
 NPO団地再生研究会
 合人社計画研究所

定価1,900円(税別)/水曜社



団地再生まちづくり4

団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり

編著
 団地再生支援協会
 NPO団地再生研究会
 合人社計画研究所

定価1,900円(税別)/水曜社


団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/