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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ170弾

世界の団地・マンションを巡る旅
―比較マンション法研究の旅―

鎌野 邦樹さん

早稲田大学法科大学院教授
鎌野 邦樹さん

早稲田大学法科大学院教授、日本マンション学会会長。主な著書に『マンション法案内』、『コンメンタール マンション区分所有法(第3版)』(共著)など多数。


 20年ほど前から海外の研究者数名を含む十数名の研究者の協力を得て、マンション法制の比較研究を行っている。現在までに、ドイツ、フランス、イギリス、スイス、オーストリア、ベルギー、イタリア、ギリシャ、オーストラリア、アメリカ、韓国、中国、台湾の法制を調査してきた。できるだけ現地を訪れ、マンションや団地を見学し、また、関係者に話を聞いてきた。以下では、このような研究の旅について述べてみたい。

シチリアの古代ギリシャ遺跡から

シチリア:古代神殿から見るマンション群
シチリア:古代神殿から見るマンション群
フランス:パリ市内の1925年建築のマンション
フランス:パリ市内の1925年建築のマンション
中国:杭州市の超高層大規模団地
中国:杭州市の超高層大規模団地
韓国:ソウル市内の超高層大規模団地群
韓国:ソウル市内の超高層大規模団地群

 本紙での旅の始まりは、古代ギリシャ遺跡から。私は、2013年9月初めイタリア・シチリア島のアグリジェントの古代ギリシャの神殿群から、北側2キロ先の古代ギリシャ期にはアクロポリスがあった丘を眺めていた(南側は地中海、その先はアフリカ)。そこからの眺めについては、1787年にはゲーテが、1927年には和辻哲郎が、1980年代には辻邦生がそれぞれ記している。

 現在の眺めは、三十数年ほど前から建設されたマンション群から構成されている。ギリシャ、ローマ、ビザンティン・イスラム・ノルマンの中世、近代を経て文化を重層させ、行き着いた先の現在の姿である。地中海からの風がアーモンド、レモンの木々を通って吹いてくる「古代ギリシャ」の地点から、「現在の人々の日常のマンションでの営み」や「100年後の風景の変容」について、オリーブの木陰でいろいろと想いをめぐらしたひとときであった。

マンション・団地の誕生と法律の制定

 さて、研究の話に戻ろう。近代において、建物を区分して所有し(専有部分)、その区分所有者が敷地やそれ以外の建物の部分(共用部分)を共有するスタイルの住宅(マンション)が登場したのは、第1次世界大戦後であり、それが都市部およびその郊外部で大量に供給され普及したのは、第2次世界大戦後である。それに伴い、1920年代のベルギーやギリシャを皮切りに、各国で、このような建物についての区分所有者間の所有関係と管理の仕方を規律する法律が制定されていった。その後、本格的なマンション法(区分所有法)が、例えば、ドイツでは1951年、フランスでは1965年、そして日本では1962年、韓国では1984年に制定されていった。

 大まかに言うと、各国のマンション法は、次の点で共通する。1棟の建物について、各居住者は、自己が専用する部分と全員で共用する部分に対して異なる性格の2つの権利を有し、敷地と共用する部分については、全員により、規約や集会決議に基づいて管理し、その具体的業務は、全員により選任された管理者が、規約や集会決議に基づいて執行する。

 このような大枠の下で、各国のマンション法は、(1)自己が専用する部分と全員で共用する部分の範囲、(2)規約の制定、(3)集会決議、(4)管理の方法、(5)建物の改修・復旧等についての多数決割合などの各事項について、多様な定めを設けている。

 このうち、最も顕著な多様性が見られるのは、マンション・団地の「再生」に関する事項である。大まかに言うと、(a)ヨーロッパ大陸法は、多数決議による建替えを認めず基本的に改修によって「再生」を図り、(b)イギリス・アメリカ法は、多数決議による「解消」(建物・敷地の売却)によって区分所有関係を終了させて「再生」を図り、(c)日本を含む極東アジア法は、「建替え」によって「再生」を図るものとしている。

旅の醍醐味

 私たちが法制の比較研究において外国を訪ねる目的は、その国の法制に最も精通している研究者・政府の立法担当者・弁護士・管理業務担当者等にヒアリングをして、法文の意味や趣旨を尋ねるだけではなく、法律には書かれていない事柄や法律どおりには運用されていない事項を教えてもらうことにある。また、実際にマンションや団地を歩いて、その国の住生活の実際を感じ取ったりする。これらによって、長期間の文献調査では理解できなかったことが一瞬で分かることもあり、逆に、新たな疑問が浮上することもある。このようなことが、旅の醍醐味であるが、次に、そのような断片を2つだけ紹介しよう。

アリゾナ、ソウル、そして日本

韓国:団地の入居者代表会議の集会室
韓国:団地の入居者代表会議の集会室
日本:人工地盤上に7つの建物部分が建つ1000戸の「1棟の建物」
日本:人工地盤上に7つの建物部分が建つ1000戸の「1棟の建物」

 マンションや団地の「再生」に関し、先に述べたようにアメリカ法には「解消」制度がある。2013年1月に滞在先のアリゾナでコンドミニアム法の第一人者であるハイアット弁護士を訪ね、「解消」の事例がどのくらいあるのかを尋ねた。答えは、「再開発や災害を除くと、Very very rare」とのことだったので、再開発での事例は多いのかを尋ねると「Very rare」、災害の場合を尋ねると「Rare」とのことであった。

 中国や韓国のマンションの多くは、超高層建物からなる大規模団地を形成している。1000戸を超える団地において、法律に定める区分所有者全員による集会の決議はどのように行われるだろうか。2016年9月にソウルの団地を見学して、「集会」は開催されず、各棟から選出された入居者代表会議において決定されることを改めて認識した。

 それでは、日本ではどうか。区分所有法の定める管理者の職務は、実際には理事会が担うことが多い。また、区分所有法には定めのない「管理業者(管理会社)」が重要な役割を果たしており、区分所有法上の管理者を務めるケースも見られる。また、マンションや団地の「再生」が「建替え」によって実現されている事例はきわめて少ない。諸外国と同様に、必ずしも法律どおりに現実は動いていない。今後もマンションを巡る各国の旅は必要であり、その研究も、まだまだ旅の途上にある。

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