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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ171弾

生態系を活かした
持続可能で災害に強いまちづくり

原 慶太郎さん

東京情報大学総合情報学部 教授
原 慶太郎さん

東京情報大学総合情報学部地球・自然環境コース長、理学博士(東北大学)、英国ロンドン大学客員研究員、日本景観生態学会会長など歴任。


三井住友海上駿河台ビルの緑化(東京都千代田区)再開発特区の開発許可条件の一つとして生物多様性を取り入れた事業
三井住友海上駿河台ビルの緑化(東京都千代田区)
再開発特区の開発許可条件の一つとして生物多様性を取り入れた事業

 最近、欧米の環境政策や都市政策などでグリーン・インフラストラクチャー(略してグリーンインフラ)という言葉をよく耳にするようになった。わが国でも、関連する省庁や学会などで研究会が立ち上げられ、講演会やシンポジウムが実施・計画されている。欧米での興隆の背景には、持続可能な社会の構築や生物多様性への配慮、自然災害への対応などが挙げられるが、欧州と米国では求める方向性に若干の違いもあるようだ。

 本稿では、生態系を活かした持続可能(サステイナブル)でレジリエンスを高めたまちづくり(地域づくり)に関する最近の動向を紹介したい。

サステイナブルな地域

 わが国は、2005、6年ごろをピークにして総人口が減少に転じ、人口減少社会に突入した。併せて、1990年代後半から高齢化率が急激に高まり、2000年ごろからは世界で最も高齢化率の高い国となっている。人口減少や高齢化は、社会が成熟するに従って起こる事象であり、狭い面積に1億超の人たちが暮らすこの国にとっては、ある面では望ましいことであるが、その変化があまりにも急に起こっていることに、人々の心も、行政も追いついていない。持続可能な発展(サステイナブル・ディベロップメント)は、ブラジルのリオデジャネイロで開催された1992年の国連環境開発会議で提唱された考えだが、わが国でも発展途上の国々とは異なったかたちで、この時代に合ったサステイナブルな地域づくりが求められている。

 都市に関していえば、高齢者や子育て世代にとって安心できる健康で快適な生活環境を実現すること、財政および経済面において持続可能な都市経営を可能とすることが大きな課題となっている。2014年には、都市再生特別措置法が改正され、行政・住民・民間事業者が一体となったコンパクトなまちづくりを促進するため、立地適正化計画制度が創設された。福祉や交通なども含めて都市全体の構造を見直し、「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」の考えで進めていく取り組みが各地で始まっている。

レジリエンスを高めた地域

 2011年の東北地方太平洋沖地震とそれに続く津波では、1万8000人を超える死者・行方不明者を数えた。2015年9月の関東・東北豪雨では、鬼怒川の堤防が決壊して市街地に流れ込み、5000棟を超える家屋が全半壊した。この豪雨による避難勧告は315万人に上る。このような災害は、わが国に限ったことではなく、全世界で豪雨や突風、季節外れの大雪などの被害が報じられている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告では、極端気象という呼称で、注意を喚起している。

 このようななかにあって、英国の王立協会では、「極端気象に対するレジリエンス」のなかで、レジリエンス・シティという報告を出して、施策を求めている。このレジリエンスは、もともと「はね返り」や「元気の回復力」の意味で用いられる語句であるが、わが国でも2011年の東日本大震災以降、いろいろなところで散見されるようになってきた。心理学では、逆境に直面した際に強化される人の許容力や、困難な状況に対してうまく適応する過程や能力などを指す言葉として用いられていたし、生態学では、生態系が台風などの撹乱(かくらん)を受けた際、以前の状態まで戻る速さや許容できる程度の大小を指す用語である。ここでは、個人や社会が、自然災害などに遭遇した際に、存続・適応・発展し、さらにある状況下では新しい状態へ転換することを指す。

生態系を活用した防災・減災

グレーインフラの例 田老の堤防(岩手県宮古市田老)
グレーインフラの例 田老の堤防(岩手県宮古市田老)
グリーンインフラの例 広村堤防(和歌山県有田郡広川町)
グリーンインフラの例 広村堤防(和歌山県有田郡広川町)

 レジリエンスを高める社会の実現を目指して、たとえば高潮への対応のために堅牢(けんろう)なコンクリートの防潮堤をつくることで対応してきた。このようなコンクリートに代表される人工のインフラ(グレーインフラ)は、1つの目的(この場合には高潮)の対応には有益であるが、平時にはコンクリートの大きな壁としての役割しか果たさない。また、建造費用に加えて、維持や改修などの費用は膨大なものとなる。今後の人口減少社会においては、これまでどおりの社会インフラを維持・管理することは難しいものになる。

 それに対して、生態系を活用した防災・減災は、さまざまな災害で効果を発揮し(多機能性)、平時には多様な生態系サービスを提供し、低コストで整備・維持管理が可能であることなど、今後の持続可能な地域づくりには欠かせない。この基本的視点として、(1)総合的な視点で検討し、(2)地域で合意形成を図り、(3)地域本来の生態系と災害履歴や伝統的知識を活用し、(4)維持管理の仕組みを構築する、ことが挙げられている。

グリーンインフラ

【図(1)】欧州グリーンインフラ戦略(EU Commission(2013)を改変)
【図(1)】欧州グリーンインフラ戦略(EU Commission(2013)を改変)

 1990年代の終わりごろから、欧米でグリーンインフラという言葉が頻用されるようになった。2013年には、EU協議会から「欧州グリーンインフラ戦略」が公表された。ここでグリーンインフラは、自然が人間に便益を提供する空間的構造を指し、正常な空気や水などの多面的機能をもつ生態系利益・サービスをもたらす自然の機能を強化することを目的としている。図(1)は、欧州戦略の資料の一部であるが、都市から田園地域までの緑と水の空間がインフラとして抽出されている。グリーンインフラの効能としてナチュラル・イングランド(英国の非政府部門公共機関)は、(1)人々が自然とふれ合うことができる野生生物の生活空間、(2)屋外のレクリエーション空間、(3)気候変動の適応、(4)環境教育、(5)地域での食料生産、(6)ストレスを削減し運動の機会を与えることによる健康と福利の改善、を挙げている。

目黒天空庭園(東京都目黒区)
都市の貴重なエコロジカル・ネットワークの拠点や地域交流の場としての役割を果たしているとして土木学会環境賞をはじめ、国土交通大臣賞(屋上緑化部門)などを受賞 目黒天空庭園(東京都目黒区)
都市の貴重なエコロジカル・ネットワークの拠点や地域交流の場としての役割を果たしているとして土木学会環境賞をはじめ、国土交通大臣賞(屋上緑化部門)などを受賞
目黒天空庭園(東京都目黒区)
都市の貴重なエコロジカル・ネットワークの拠点や地域交流の場としての役割を果たしているとして土木学会環境賞をはじめ、国土交通大臣賞(屋上緑化部門)などを受賞

 このグリーンインフラは、ようやくわが国にも導入されつつあり、国交省や環境省など各省庁で動きが出てきている。最近では、高層マンションの屋上庭園やオフィスビルの壁面緑化の中には、地域の自然環境や生物多様性への配慮がみられるものが増えてきた。これらも都市の中のグリーンインフラである。持続可能でレジリエントな地域づくりに向けて、生態系をうまく活用したインフラが整備され、生物多様性が豊かで、生態系サービスを享受し続けることができる社会に向けて動き出すことを願っている。

団地再生まちづくり3

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団地再生・まちづくりプロジェクトの本質

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 団地再生支援協会
 NPO団地再生研究会
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団地再生まちづくり4

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進むサステナブルな団地・まちづくり

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団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/