Wendy-Net トップページ > Woman > Back Number >NPO法人 JAMネットワーク代表 高取 しづかさん

Woman

BackNumber

NPO法人 JAMネットワーク代表/高取 しづかさん

高取 しづかさん
「ことばのチカラは生きていくチカラ」
Profile

高取 しづかさん/NPO法人 JAMネットワーク代表
大学卒業後、企業勤めを経て記者に転職。1998年、夫の転勤に伴いアメリカで生活することに。そこで現地での教育を間近に見る機会を得、帰国後、2002年、NPO法人JAMネットワークを設立。「子どもの自立トレーニング」をテーマに、新聞、雑誌で執筆。『イラスト版気持ちの伝え方』等28冊の著書がある。全国の親・指導者12,000名余に講演会を実施。15年に大学院の修士課程を修了。ソーシャルスキルトレーニングについて研究を行っている。
http://www.takatori-shizuka.com


 「ヤバい!」ということばで、おいしいやスゴイ、危ないなど、どんな場面でも表してしまう若者たち。「キモッ」「マジ?!」と少ない語彙(ごい)で成り立つ子どもたちの会話。語彙が少なくなっていることが気になっています。LINEやメールで、短く感覚的なことばのやりとりはできるけれど、面と向かって自分の考えを伝えられない子どもたちが増えています。

 人と人とがつながりコミュニケーションしていくには、ことばのチカラが必須なのに、子どもたちのことばがどんどん貧しくなっているのではないでしょうか。

コミュニケーションする力は練習で身に付くもの

子どもたちは自発的に手が上がるようになる
子どもたちは自発的に手が上がるようになる

 現在、私は、人と付きあっていくときに欠かせないコミュニケーションする力のトレーニングプログラム「ことばキャンプ」を主宰しています。ことばキャンプとは、7つの力(度胸力・論理力・理解力・応答力・語彙力・説得力・プレゼン力)の切り口で、ワークやゲームをしながら楽しく話す力、聞く力を身に付けていくプログラムです。

 ことばキャンプは、「自分の気持ちを出すことの心地良さ」と「相手のことを知ることの楽しさ」などを経験できるよう設計されています。どちらも非常に重要で「ことばで気持ちが伝わる喜び」を知れば、友達同士で理解しあう土壌づくりになります。選択するワークもあり「自分で考えて選択する喜び」を知れば、それは、人生を主体的に生きる第一歩になります。その先には人生の選択において、他者の意見に振り回されない「自分の人生を生きる喜び」につながると考えています。人と関わることばのチカラを、楽しくトレーニングするのがことばキャンプです。

 上手にコミュニケーションすることは、性格や持って生まれた才能だけではなく、学ぶことによって身に付けていくもの。口下手や引っ込み思案で、うまく表現できなくても、練習によってコミュニケーション力は身に付くのです。

日本の子どもたちに届けたい!

 大学卒業後、取材記者をしていたのですが、夫の転勤によって1998年に家族とともに米国に渡りました。英語が大の苦手で「英語の壁」にうろたえました。しばらく暮らしてみて、「英語の壁」は私の英語力の問題だけではないことに気がつきました。「英語という言語の問題だけではない。ことばで伝えるスキルが足りない」と感じる場面が多くありました。

 米国では、「あなたはどうしたい?」「あなたの考えを聞かせて」「あなたはどう思う?」「それは、どうして?」など、自分の意思や考えをよく聞かれます。それに対して、日本語で自分の考えをことばにすることに難しさを感じました。英語力以前の問題です。私だけではなく、家族や周囲の日本人の友人たちも同様に感じていました。

 日本では「以心伝心」や「察しあう」文化であるがゆえに、ことばによって伝えあうことに慣れていないのだと思ったのです。

 子どもの学校にボランティアに出かけているうちに、米国では幼稚園から小学校、中学、高校で、オーラルコミュニケーション(ことばで伝えあう)教育をしていることを知りました。興味をそそられて、友人たちと授業の様子を取材して回りました。学校の先生や米国人のママたちを招いて座談会を開きました。

 取材をしながら、ことばで伝えあう教育を日本の子どもたちにぜひ伝えていきたいと思ったのでした。これからを生きる子どもたちには、相手の話をよく聞き、自分の考えをことばで論理的に話すこと、つまり世界で通用するコミュニケーション能力を身に付けてほしい!と強く思っていました。

 ちなみに、私がアメリカでの生活を始めた90年代後半は、米国の教育目標「ゴール2000」の中核にコミュニケーション教育が位置付けられ、全米の幼稚園や学校に浸透してきた時期でした。ことばは生きていくためのスキル、と考えられるようになっていたのです。

 帰国後、自身がコミットするテーマと決め、団体を設立するに至りました。メンバーたちと、主婦の友社から『親子で育てる「じぶん表現力」』(2002年)を出版。米国のことばで伝えあう教育を分析し「7つの力」でトレーニングする方法を紹介しました。伝えるには、やはり体験してもらうことが一番!この本を皮切りにことばキャンプ活動が始まりました。本を読んでくださった方からの依頼で、子どもへのプログラム、親や先生への講演・ワークショップを全国で実施してきました。

児童養護施設の子どもたちへ

  しばらく、こうした活動をしてきましたが、本当にコミュニケーション力を身に付けなければならない子どもたちに届いていないと感じていました。

 そんな折、ある児童養護施設の施設長と出会いました。そこで初めて、児童養護施設にいる子どもたちのことを知りました。入所する子どもの6割が虐待や育児放棄をされて親と離れて暮らしている。成育歴の中で、良好なコミュニケーションをしてこなかったために、乱暴なことばでしか人と対応できない。「学校や社会に出たときに、コミュニケーションでつまずく子どもたちが多いのです」と話してくれた施設長の話が心に残り、2008年から、児童養護施設での自立支援活動が始まりました。神奈川県の助成事業や、ゴールドマン・サックスと東京ボランティア・市民活動センターとの「貧困の連鎖を断ち切る」協働プロジェクトなどで、児童養護施設に訪問してことばキャンプを実施。9年間で、東京都、神奈川県を中心に、47施設、400人余の子どもたち、2000人余の職員にプログラムを提供しています。活動は、母子生活支援施設、里親の親子へと社会的養護の分野で広がっています。神奈川県との協働で県内全域の施設で実施、今後は全国へ広げていきたいと思っています。

社会で生きていくために、ことばのチカラは土台

 人は、ことばで考え、ことばで感じています。人とつながるのもことばが介入しています。仕事をする上でも、周囲の人と良い人間関係を結ぶ上でも、人間が生きていくために、ことばは重要です。ことばの数はそのまま思考の数となり、思考は生きていく力の土台となります。

 ところが、どうでしょう。子どもたちの会話は、「キモい」「ウザい」「ヤバい」などの短く感覚的なことばでのコミュニケーションが中心となっています。ことばの数を増やし、相手の話をよく聞き、自分の考えをことばで論理的に話すチカラを身に付ける必要性をますます感じています。

 現在は横浜で、幼児や小学生を対象にした「ことばキャンプ教室」と、大人のことばのチカラを伸ばす「ことばキャンプ講座」を開催しています。少しずつ、ことばキャンプの認知が広がって、全国から「ことばキャンプをしてほしい」という要望をいただいています。

 今春から、ことばキャンプの講師を増やすため「ことばキャンプ インストラクター養成講座」を始動します。全国の子どもたちにことばキャンプを届けていこう!とメンバーたちは盛り上がっています。

 社会で生きていくためにことばのチカラは土台です。未来を生きていく子どもたちが、ことばを大事にしながら、良い人間関係を結べるようになってほしいと切に願っています。



BackNumber

(無断転載禁ず)