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NPO法人シクロツーリズムしまなみ 代表理事/山本 優子さん

山本 優子さん
「しまなみスローサイクリング 自転車とまちづくり」
Profile

山本 優子さん/シクロツーリズムしまなみ 代表理事
1973年愛媛生まれ。2001年今治NPOサポートセンターで島しょ部の地域活性化に携わる。05年「自転車モデルコースづくり事業」のコーディネーターに。3年間かけサイクリングモデルコースをつくる。その後、自転車を地域ブランドに、しまなみスローサイクリング協議会結成。09年NPO法人シクロツーリズムしまなみ設立。持続可能な地域振興の可能性を展望し、活動を続けている。
http://www.cyclo-shimanami.com


 「しまなみ海道」といえば、自転車。

 ロードバイクにマウンテン、ミニベロと個性あふれるバイクが行き交う。本州と四国に架かった3本の連絡橋の中で、1999年に開通した「しまなみ海道」は、島民の生活道として、唯一、自転車兼歩道が設けられた。島の人々が行き来する橋は、今、世界に誇る自転車道として注目を浴びている。

 この橋のたもとの町・今治市で自転車を生かしたまちづくりを始めたのは、10年前。架橋効果が薄れ、観光客は右肩下がり。橋でつながった島の人々にとって、当時、橋は生活を便利にはしてくれたものの、高い通行料と船便の減少を前に、マイナス感情が膨らんでいる時期だった。まして、橋を使って自転車旅行者を呼び込み、そのサポートをするようになるとは、思いも寄らなかっただろう。レンタサイクルの貸し出し数は底の時期。サイクリングは一部のマニアの遊びで、自転車旅行者の受け入れが島の活性化につながるとは想像もできない。

 そんな中、手探りで始めた住民参画型の取り組みが「しまなみスローサイクリング」プロジェクトだ。島という限定的な空間。何にもないが、自然が身近にあって、瀬戸内の恵みの中で営まれる農漁業がある。不便だけれど、人と人との助け合いがあり、脈々と続く伝統を守りながらの暮らしがある。それは、物質的な豊かさを求め、何でも効率的に片付けることをよしとした時代に失った大切なものだ。

 ゆっくりと進む自転車は、移動手段としては非効率。でも、ゆっくりとペダルを漕ぐ中で見えてくるものがある。昔ながらの路地で交わされる和やかなあいさつ、潮風や足元に咲く小さな花から感じる季節の訪れ、そんなちょっとしたことに幸せが積み重なる。「しまなみスローサイクリング」は効率化を追った時代に失った大切なものを探す旅なのだ。

 ゆっくりだから見えてくる人と人、人と自然、人とモノの「つながり」がある。ここに価値を置き、「しまなみ海道」での自転車の旅を通して「つながり」を回復したい…。雄大な橋が日を追うごとに見慣れた風景になる中、住民自身も忘れてしまいかけていたものだ。目の前に広がる明媚な風景も、そこで営まれる暮らしぶりも、実は何にも変わっていないのに。しまなみの人々はあったかい。町並みはどこか懐かしい。訪れる人々を郷愁へと誘う。環境志向の高まりを追い風に、自転車のムーブメントが吹き寄せたのは2009年。自転車を楽しむ人は増加の一途で、しまなみはサイクリストの聖地となった。「自転車が地域活性化に効く」。仮説は確信へと変わり、今や官民挙げての自転車旅行振興は地域の核となっている。

しまなみサイクルオアシスでの交流のひととき
しまなみサイクルオアシスでの交流のひととき

 大勢のサイクリストがさっそうと駆け抜ける。「ちょっと休んでいき~」、声をかけるのは住民だ。島の小さなお店、農家や民宿、お寺にガソリンスタンド。住民の有志が軒先を提供する休憩スポットがある。「しまなみサイクルオアシス」だ。共通のタペストリーを掲げ、庭先にベンチを置き、空気入れやトイレを貸す。途中でパンクしたり、雨が降り始めたり、車の旅よりもトラブルに見舞われる心配が多い自転車旅行。安心・安全な旅をサポートできればとの住民の善意が形になった手づくり休憩所だ。2011年、「しまなみスローサイクリング」プロジェクトの担い手20名から始めたしくみは、今、95軒を超えるしくみへと成長した。島とか田舎とかいうと、閉塞的な印象が漂うが、しまなみの人はとってもオープン。外からの人を受け入れる寛容さがある。「島を褒めてくれるんよ」「いろんなことを教えてくれて、元気をもらう」。担い手にはもてなしをしているという感覚はない。そんな心意気に旅人は感動を覚える。「また来たい」「島のお母さんに会いたい」。ここでの出会いは連鎖し続けている。

ゲストハウス シクロの家にて
ゲストハウス シクロの家にて

 しまなみの魅力。人がいて、自然があって、受け継がれてきた歴史がある。そこに自転車という新しい文化を持ち込む。伝統と革新が共存する自転車があるまちづくりは、この地に根付いてゆくだろうか。2014年には「しまなみサイクルオアシス」の総合拠点として、念願の「ゲストハウス シクロの家」を開業した。自転車好きが集まる宿だ。新しいことへの挑戦。迷いもある。でも、ここまで仲間や島民のみんなで時間をかけて耕してきた土壌がある。それに、とにかく現場は楽しい。いつも前向きなムードメーカー、接着剤のように出会いをつくるエース、緻密にコツコツと積み上げる職人と、バラエティー豊かな仲間たち。奇跡的なのか、運命的なのかは分からないが、ここに引き寄せられるように集った仲間がいる。10年、自転車でまちづくりをしてきて、活動は私のライフワークになった。これからも大好きなしまなみで歩んでいきたい。



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