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光の切り絵作家/酒井 敦美さん

酒井 敦美さん
「出逢いに育てられた、光の切り絵」
Profile

酒井 敦美さん/光の切り絵作家
1973年名古屋市生まれ。2000年から絵を描きながらの旅や個展活動を行う。04年、光の当たる方向で絵が2つの表情に変化する独自の表現を見つける。「一画二驚〜いちがにきょう〜」と名づけ、創作に取り組む。08年、光の切り絵を野外に投影する「野外幻灯」を高知県佐川町で行う。その後、全国各地で投影を行う。13年、シンガーソングライター池田綾子さんとの「音と光り絵コンサート」活動を始める。
http://hikari-no-kirie.main.jp/


 どうしてあの時、あの人と出逢うことができたのだろう…。

 人生を振り返るにはまだ早い41歳の私ですが、ふと、不思議にさえ感じるほどの、素晴らしい出逢いに導かれて、今を絵と共に生きています。

第1回佐川・酒蔵ロード劇場(2008年、高知県佐川町)
第1回佐川・酒蔵ロード劇場(2008年、高知県佐川町)
鬼頭隆さん童話会
鬼頭隆さん童話会

 大学卒業の年、美術大学に進めなかったという理由で、絵の道をあきらめかけようとしていた私に、童話作家・鬼頭(きとう)隆さんとの再会がありました。

 絵が大好きな幼いころの私を知る鬼頭さんとの7、8年ぶりの再会は、「敦美ちゃん、今でも絵を描いてるかー」という言葉で始まり、こんな言葉で終わりました。

 「美大に行けなかった?絵では食べていけない?そんな理由であきらめる程度の夢だったなら、それはもうあきらめたほうがいい」

 幼いころ優しかったおじさんが言い放った言葉は、言い訳を並べ、クヨクヨしていた私の夢への導火線に火を点け、絵との旅路へと私の背中を押してくれました。

 それから10年にわたり、鬼頭隆さんの童話の朗読会や、鬼頭さんの娘でシンガーソングライターの瑞希さんのコンサートで、舞台の影絵を担当させてもらった経験が、今の「光の切り絵」の大切な礎となっています。

 2007年の初夏。父が病の宣告を受けました。1年後は生きていないのかもしれない…。そんな思いを胸に、展示会の仕事で徳島へと出かけていたときに、太平洋を見たくなり、高知まで足を延ばしたことがあります。目的にしていたわけではなく、なんとなく辿り着いた町の風情に惹かれ、歩いていました。そこは、高知県高岡郡佐川町。300年続く酒蔵の道で、昔ながらの漆喰の白壁の美しさに私は立ち止まり、見とれていました。

 その時、その一角の商家の格子戸が開き、背のスラリとした、母と同年代のすてきな女性が現れました。リュック姿の私を見て「旅をされてるの?」と、笑顔で声をかけてくれました。

 その方は、国内外で活動されている書家の北古味可葉(きたこみ かよう)さんでした。この日の夜、ご自宅に泊めていただき、お話をする中で、可葉さんが温めてきた「白壁をスクリーンに映像を映すイベントをこの町でやりたい!」という思いと、「光の切り絵を、いつか外の風景に投影してみたい!」という私の夢が、偶然にも重なりました。「来年の夏、この酒蔵の道で実現しましょう」と、約束を交わしました。

 この日は、くしくも私の34歳の誕生日でした。

春日井市民病院にて(愛知県)
春日井市民病院にて(愛知県)
砂浜への投影(高知県黒潮町・砂浜美術館)
砂浜への投影(高知県黒潮町・砂浜美術館)

 その1年後の夏、父が亡くなった1週間後に、その夢が実現しました。可葉さんの声かけで、ご近所の方が協力してくれ、白壁に5カ所、光の切り絵が映し出され、普段は静かな夜の酒蔵が、人の声でにぎわいました。

 暗闇に光る大きな光の切り絵、空には満天の星。父が空から見ているようで、悲しみを力へと変え、しゃがみこむことなく歩き出すことができました。

 このイベントを「酒蔵ロード劇場」と名づけ、今年で8回目を迎えます。今では、佐川町のお祭りとして、地元の皆さんが中心となり開催されるようになりました。「光の切り絵・野外幻灯」が生まれ育った、光の切り絵の古郷です。

 ここが始まりとなり、全国各地で、光の切り絵を風景に描くようになりました。それぞれの地域の皆さんが、さまざまな思いを光の切り絵に託すことで、私の絵に大切な役目を与えてくれます。

 今まで出逢った皆さんが、光の切り絵を育ててくれています。

 皆さんからもらった一生涯の宝物です。この宝物を輝かせるのも、石コロにしてしまうのも、私の心次第。この宝物に自分の心を映し、確かめながら、これからも絵と歩む出逢いの旅を楽しんでいきます。



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