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こども映画教室代表 シネモンド代表/土肥 悦子さん

土肥 悦子さん
「こどもが映画と出会うとき」
Profile

土肥 悦子さん/こども映画教室代表 シネモンド代表

 

 こどもが映画と出会うとき、それは映画を観るとき、映画の仕組みを知るとき、仲間と映画を作るとき…映画の魅力に触れるとき。そのとき、こどもたちの中で何が起こっているのでしょう。「こども映画教室」を開催して、こどもたちが映画と出会う瞬間に立ち会うたびに、こどもたちの中で何かがむくむくと動き出しているのを見てきました。

こども映画教室が始まった!

撮影したら、すぐにその場でみんなで確認
撮影したら、すぐにその場でみんなで確認
こどもたちだけでどんどんインタビュー
こどもたちだけでどんどんインタビュー

 小学生たちが映画の仕組みを学び、名画を鑑賞し、さらに第一線の監督と一緒に映画を作る。2004年に金沢で生まれた「こども映画教室」は10歳になりました。もともと映画配給興行会社「ユーロスペース」の買い付け・宣伝担当だった私は、その後、石川県金沢に移り住み1998年に「シネモンド」というミニシアターをつくりました。数年後、もっと地域に根づいた活動をしたいと思ったとき、思い浮かんだのが、イグナシオ・アグエロ監督の傑作ドキュメンタリー『100人の子供たちが列車を待っている』(1989年)で描かれる「こども映画教室」でした。

 普段は大学で映画を教えているアリシア・ヴェガ先生が、チリの貧困家庭のこどもたちにさまざまな名画を見せ、視覚玩具を工作しながら映像が動く仕組みを教え、段ボールで作ったカメラを手押し車に積んで移動撮影を教えていく姿に、とても感動しました。そして何より感激したのは、教室にやって来るこどもたちの瞳がみるみるうちにキラキラと輝き出し、自信に満ちた表情になっていくことでした。

 これしかない!と思い、何度もビデオを巻き戻しながら授業の構成を書きとめ、同じようにやってみました。そのうち、こどもたちから映画を撮りたいという声が上がり始めましたが、私はボタン一つで撮影できてしまうビデオカメラを小学生に持たせたいとは思いませんでした。そんなときに講師にお呼びした中江裕司監督が「やってみようよ!」と言い、出来上がった映画があまりに面白かったので、映画制作ワークショップが始まったのです。

 お互いこどもを持つ中江監督と共通した思いは、こどもは何でもできる、ただ時間がかかるだけ、だから大人はこどもを信じて待つこと、また、映画づくりに正解なんてないから、スキルを教えるのはやめようということでした。また、保護者の見学はなしでそのかわり、毎日の帰り道にたくさん話を聞いてもらうこと、上映会には家族で来てもらうことも決めました。

 情操教育の最高峰といわれる金森俊朗先生からはさまざまなアドバイスをいただきました。でも先生は「こども映画教室の素晴らしいところは、こどもたちが映画にぞっこんな大人と出会うこと、そしてその大人たちがぞっこんな映画と出会っていることだよ。教え方なんて下手でもいいんだ。こどもたちはちゃんと大人の背中を見ているから」とおっしゃったのです。目から鱗が落ちるようでした。

 こうして私たちの行う映画教室の特徴である2つのルールが出来上がりました。

 「大人は手出し口出ししないこと」「こどもたちと一流のアーティストが出会うこと」。是枝裕和、萩生田宏治、諏訪敦彦、冨樫森、河瀨直美、横浜聡子、砂田麻美、これまでに特別講師としてお呼びした監督たちです。第一線で活躍する監督たちばかり。それぞれに思う「映画観=映画とは?」も映画をつくる方法論も違います。でも映画づくりに対する熱は本物です。こどもたちに伝わってほしいのはその熱なのです。

「こども映画教室」の活動

撮影交渉もこどもたちの仕事です
撮影交渉もこどもたちの仕事です
真剣そのもの!
真剣そのもの!

 2004年に金沢で始めたこども映画教室ですが、2013年に「こども映画教室」という任意団体を新たに東京で立ち上げました。その年は1回だけ開催した映画教室でしたが、翌年の2014年は小さいものも含めてなんと11回ものワークショップを開催することになりました。

 その中のひとつに福島の相馬での映画教室がありました。東京ではあっという間に定員になるのに、相馬では被災地支援のこども向けワークショップが山のようにあるらしく、学校でかき集められたこどもたちはいつもよりモチベーションが低かったのです。1日目、どうなることかと頭を抱えました。2日目、こどもたちからもっと離れるよう、撮影現場に大人は行かないようにとスタッフに伝えました。ちょこちょこスタッフに意見を求めに来ていた子たちに「大丈夫、みんなで話し合って考えてみて」と繰り返し伝えることで、こどもたちは自分たちだけの力で解決していくようになりました。映画づくりが自分事になったのです。編集のときはつまらなそうにしている子やふざけている子はもういなくなり、ものすごい集中力をみせてくれました。出来上がった作品には、撮影中見えていなかったこどもの心の動きが見え、実に感動的でした。

 昨年11月に開催した「こども映画教室@早稲田エンパク2014」では早稲田大学教授でもある是枝裕和監督を講師にお迎えしました。是枝さんが決めたテーマは「?」。さあ街に出て?を探そう!ということで全チーム、ドキュメンタリーを撮ることに。こどもたちの発想は自由です!大隈講堂の謎をさぐるのに、忍者がタイムワープして現れて大隈重信の銅像に問いかけたり!大隈庭園の池で遊んでいるうちに、なんで鯉は口をパクパクしているのか?と三軒茶屋の養鯉場まで取材に出かけたり!モスキート音に気づいたチームが道行く人々をそこまで連れてきて、聞こえるか聞こえないかの調査を始めたり!カツ丼屋のメニューに男のカツ丼、女のカツ丼があることに気づき、取材拒否をされても諦めず、ついに交渉成立し(取材交渉も全てこどもが行います)、厨房を撮影し取材費で?!カツ丼まで食べてきて、最後には店主の過去を聞きだしたり!

 是枝さんは「カメラは世界を発見する道具」であるとおっしゃいました。初日、緊張した顔で集まったこどもたちは最終日の上映会では頬を紅潮させ瞳を輝かせて、みな堂々と舞台挨拶をしてくれます。知らない子と出会い、大人に見守られながら、諦めず話し合い、より面白い映画を作るゴールに向かい仲間と全力で走り抜けるような3日間は、まさに新しい世界や新しい自分に出会い、自信をつける特別なときとなるようです。

 こどもたちが映画と出会う「こども映画教室」をこれからは公立小学校や、東京以外の地方でも続けていきたいと思っています。



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